家道訓 / 巻之四・用財上
一財の用ひやうよきとあしきとは、たとへば今兄弟二人あり、其家の財祿の分限も、人の口數も同じく、父のゆづれる財も同じく、父の借物のおひめのなきも同じ。然れば家の貧富も亦同じかるべきに、一人は家富みゆたかに、よろづ不足なし。一人はまどしくせはせはしく、常にたからを借りて、利に利を加へて人にあたへうばはれて、財をつひやしつくし、後には其の借れるものをつぐのはず、年々にやうやく貧困にいたる。是何故ぞや。財の用ひやうよきとあしきとによれり。よきとは、後をおもんぱかりて今をつゝしむなり。あしきは此うらなり。
新字:一財の用ひやうよきとあしきとは、たとへば今兄弟二人あり、其家の財禄の分限も、人の口数も同じく、父のゆづれる財も同じく、父の借物のおひめのなきも同じ。然れば家の貧富も亦同じかるべきに、一人は家富みゆたかに、よろづ不足なし。一人はまどしくせはせはしく、常にたからを借りて、利に利を加へて人にあたへうばはれて、財をつひやしつくし、後には其の借れるものをつぐのはず、年々にやうやく貧困にいたる。是何故ぞや。財の用ひやうよきとあしきとによれり。よきとは、後をおもんぱかりて今をつゝしむなり。あしきは此うらなり。
書き下し
一財の用ひやうよきとあしきとは、たとへば今兄弟二人あり、其家の財禄の分限も、人の口数も同じく、父のゆづれる財も同じく、父の借物のおひめのなきも同じ。然れば家の貧富も亦同じかるべきに、一人は家富みゆたかに、よろづ不足なし。一人はまどしくせはせはしく、常にたからを借りて、利に利を加へて人にあたへうばはれて、財をつひやしつくし、後には其の借れるものをつぐのはず、年々にやうやく貧困にいたる。是何故ぞや。財の用ひやうよきとあしきとによれり。よきとは、後をおもんぱかりて今をつつしむなり。あしきは此うらなり。
現代語訳
財の用い方のよしあしは、たとえば今、兄弟二人がいて、その家の財禄の分限も、家族の人数も同じで、父の譲った財も同じで、父の借りた負債がないのも同じだとします。そうであれば家の貧富もまた同じであるはずなのに、一人は家が富んで豊かで、万事不足がありません。一人は貧しくせわしなく、常に金を借りて、利に利を加えて人に払い、奪われて財を費やし尽くし、後にはその借りたものを返せず、年々しだいに貧困に至ります。これはなぜでしょうか。財の用い方のよしあしによるのです。よいとは、後を考えて今を慎むことです。悪いとは、この裏です。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『家道訓』巻之四・用財上一家ををさめ、財を用ふるに、事ごとに心を用ひて精しくし、こまやかにして疎略なるべからず。おごらずやぶさかならず、過不及なくよき程にすべし。用ひ過すはおごれり、不及なるはやぶさかなり。心あしくして、大やうにおろそかなれば、財の用ひやう過不及にして、或はおごり或はやぶさかなり。与ふべきものを与へず、与ふまじきものに与へ、多く与ふべき者にすくなくし、すくなかるべきに多くするは、事そむきて理にあたらず。是心を用ひず、用ひても精しからざるなり。
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『家道訓』巻之五・用財中一家ををさむるは、国ををさむるに同じ。財を用ひ人を用ふ、此二事をつつしむべし。質実にして盗まざるやつこをえらびてつかひ、財をつかさどらしむべし。財をつかさどるやつこかだましければ、我が利慾のみいとなみて、主君をあざむきて主人の家をやぶる。財を用ふると人を用ふるとの二は、家ををさむるの要なり。心を用ふべし。一およそ、人家の必ず貧しくなる事、天の禍にもあらず、人の不徳によれり。まづ後のうれひをおもんぱからずして、堪忍の心なく、只今の口腹耳目の欲をほしいままにし、倹約をきらひ、分限よりおごりてつひえをいとはず、このんで人の財を借り、おひめ多けれどもうれへず、買へる物のあたひをつぐのはず。それを乞ひもとむれば、いかりていよいよあたへず。
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『家道訓』巻之五・用財中故に財ををさめて家をたもつの道は、借ることを禁ずべし。少し借れば多く借るにいたる。多く借れば家をたもちがたし。借ることしばしばにいたれば、後は必ず家を破る。然れども、故ありて財ともしき時、已むことを得ずして、人の財を借り用ひば、なるべきほどは、我が身と妻子の俸養を薄くして、艱難をこらへ、財をたくはへあつめて、借れるものを早くつぐのふべし。借れるものあまたつぐのはずんば、万の俸養を甚かろくして艱難をこらへ、身をくるしめて財をあつめ、返さんと約せし期をたがへず、約にそむくべからず。
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『家道訓』巻之六・用財下一後の事遠慮なき人は、当時身のやしなひにおごり、酒食をゆたかにし、家居をよくし、衣服をかざり、欲をほしいままにして費ををしまず、財つきぬれば人に借ることをうれへず。財を貸す人だにあれば幸にして、おほく借ることをこのむ。是眼前を快くして、後の災をかへりみず。然るに只今さへ我が財なくして、人に借り求むるほどなるに、借れる財に、年々利息くははりゆけば、いよいよ財つきて、借れる物をつぐのふべき力なくて、必ず家をやぶる。初に早く後の事をおもんぱかり、後の憂なき計をなすべし。
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『家道訓』巻之五・用財中一我が身に俸ずることはうすくして、人にほどこし礼義を行ふ事をあつくする、是用財の良法なり。今の人は、我が身に俸ずるにはおごり、人にほどこし礼義を行ふにはうすくす。是用財の道をうしなへり。一我が財禄の分限をわすれ、後の困窮を考へずして、当時の嗜慾にまかせ、分に過ぎて財を用ふれば、必ず財足らず。財不足するによりて、廉恥の心なく、つとむべき礼義を行ひがたく、人の困苦をめぐまず、あたふべき物をあたへず、奉公をつとむべきちからなく、軍用にともし。是家をたもち財を用ふる道を知らざればなり。然れば貴賤ともに、家ををさむるには、必ず財の用ひやうを知るべし。是人世の尤切要なる急務なり。
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『家道訓』巻之五・用財中一借の一字は家を破るの基なり。此の一字をかたく禁ずべし。財禄の多少、大身小身に随つて、其の分限の内にて、不足なきやうに財を用ふべし。ともしきをこらへて人に借るべからず。分限の外に用ひ過せば、必ず財足らずして人に借る。財を借れば、年年に利息を出し、其の利息に又利加はり、後につもりては、其のおひめおびただしくなり、必ず家産をやぶる。借りて利息を人にあたふれば、後は我が財は我が用にはたたず、皆人にうばはれ人の物となる。をしむべし。故に家をたもつの道は、分限の外に財をつひやさずして、分内にて事足るをよしとす。いかに貧困にして自由ならずと力量を用ひこらへて、分外の事をなすべからず。如此せば、人にもとめずして足りぬべし。
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