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家道訓 / 巻之四・用財上

一いにしへは、三年耕して、必ず一年の食ありといへり。此の意は、農人は、三年田をつくれば一年の食の餘計あり。たとへば、四町の田地をつくれば、三町のふるまひをなし、一町のなりはひを殘して用ひず。三年過ぐれば、三町のなりはひの餘計出でくる故に、たとひ水旱風蟲の凶年にあひて、五穀みのらざれども飢饉の患なく、財用事かけず。士と工商の家も、此の計をもつて知るべし。是を以てはかるに、いにしへの法は、士は君より賜はる所の祿を、每年四にわかち、三分を用ひて一分をばたくはへ置きて用ひず。一分を三年かさぬれば三分となるゆゑ、もしは凶年にあひ變にあひても、困苦のうれひなし。三分の一をたくはへ置くは、凶年のため、或は、水火盜賊不意の變をたすけ、又軍用にそなへ、人の困窮をすくはんがためなり。是いにしへ財を用ふるの法なり。此の法を行へば、四民ともに財ゆたかにして、貧窮のうれひなし。是古今通用すべき良法なり。

新字:一いにしへは、三年耕して、必ず一年の食ありといへり。此の意は、農人は、三年田をつくれば一年の食の余計あり。たとへば、四町の田地をつくれば、三町のふるまひをなし、一町のなりはひを残して用ひず。三年過ぐれば、三町のなりはひの余計出でくる故に、たとひ水旱風虫の凶年にあひて、五穀みのらざれども飢饉の患なく、財用事かけず。士と工商の家も、此の計をもつて知るべし。是を以てはかるに、いにしへの法は、士は君より賜はる所の禄を、毎年四にわかち、三分を用ひて一分をばたくはへ置きて用ひず。一分を三年かさぬれば三分となるゆゑ、もしは凶年にあひ変にあひても、困苦のうれひなし。三分の一をたくはへ置くは、凶年のため、或は、水火盗賊不意の変をたすけ、又軍用にそなへ、人の困窮をすくはんがためなり。是いにしへ財を用ふるの法なり。此の法を行へば、四民ともに財ゆたかにして、貧窮のうれひなし。是古今通用すべき良法なり。

書き下し

一いにしへは、三年耕して、必ず一年の食ありといへり。此の意は、農人は、三年田をつくれば一年の食の余計あり。たとへば、四町の田地をつくれば、三町のふるまひをなし、一町のなりはひを残して用ひず。三年過ぐれば、三町のなりはひの余計出でくる故に、たとひ水旱風虫の凶年にあひて、五穀みのらざれども飢饉の患なく、財用事かけず。士と工商の家も、此の計をもつて知るべし。是を以てはかるに、いにしへの法は、士は君より賜はる所の禄を、毎年四にわかち、三分を用ひて一分をばたくはへ置きて用ひず。一分を三年かさぬれば三分となるゆゑ、もしは凶年にあひ変にあひても、困苦のうれひなし。三分の一をたくはへ置くは、凶年のため、或は、水火盗賊不意の変をたすけ、又軍用にそなへ、人の困窮をすくはんがためなり。是いにしへ財を用ふるの法なり。此の法を行へば、四民ともに財ゆたかにして、貧窮のうれひなし。是古今通用すべき良法なり。

現代語訳

昔は「三年耕せば、必ず一年の食がある」と言いました。その意味は、農民は三年田を作れば一年分の食の余りがあるということです。たとえば四町の田地を作れば、三町分の暮らしをして、一町分の収穫を残して用いません。三年過ぎれば、三町分の収穫の余りが出てくるので、たとえ水害・日照り・風害・虫害の凶年にあって五穀が実らなくても、飢饉の憂いがなく、財用に事欠きません。士や工商の家も、この計によって知るべきです。これによってはかると、昔の法は、士は主君から賜った禄を毎年四つに分け、三分を用いて一分はたくわえておいて用いません。一分を三年重ねれば三分となるので、もし凶年にあい変事にあっても、困り苦しむ憂いがありません。三分の一をたくわえておくのは、凶年のため、あるいは水害・火災・盗賊など不意の変事を助け、また軍用に備え、人の困窮を救うためです。これが昔の財を用いる法です。この法を行えば、四民ともに財が豊かで、貧窮の憂いがありません。これは古今に通じて用いるべき良法です。

解説

礼記王制篇の「三年耕せば必ず一年の食有り」から、収入の四分の一を蓄えて三分で暮らすという方法を導いています。三年続ければ一年分の蓄えができ、凶作や災害、急な出費に備えられるというのです。武士の禄も毎年四つに分けて一分を蓄えよと具体的です。収入の一定割合を先に貯蓄に回し、残りで暮らすという今の「先取り貯蓄」の考え方そのもので、生活費の一年分を備えておけば安心だという助言にも重なります。三百年前の家計術の確かさに驚かされます。

この章句が説くこと

貯蓄礼記備え家計凶年

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