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家道訓 / 巻之三・総論下

一おろかなれば人を恨みやすし。故に史記に曰く、知あれば輕しく人を恨みず。此言むべなるかな。知ある人は、人の我が心にかなはざることあるをば、故あるらんとおもひ、人をとがめず。或は人のしわざの道にそむけるは、生れつきておろかなる故と思ひて、人をゆるす。たとへば、赤子の井に、入らんとするが如くなればなり。又人の生つき偏なれば、其の行正しからず。智者は其の偏なる病、あはれむべきことを知りていからず。家の主となる人は此の心得あるべし。親戚家人、我が心にかなはざるをうらみいかりて堪忍せざれば、家道和睦せず。

新字:一おろかなれば人を恨みやすし。故に史記に曰く、知あれば軽しく人を恨みず。此言むべなるかな。知ある人は、人の我が心にかなはざることあるをば、故あるらんとおもひ、人をとがめず。或は人のしわざの道にそむけるは、生れつきておろかなる故と思ひて、人をゆるす。たとへば、赤子の井に、入らんとするが如くなればなり。又人の生つき偏なれば、其の行正しからず。智者は其の偏なる病、あはれむべきことを知りていからず。家の主となる人は此の心得あるべし。親戚家人、我が心にかなはざるをうらみいかりて堪忍せざれば、家道和睦せず。

書き下し

一おろかなれば人を恨みやすし。故に史記に曰く、知あれば軽しく人を恨みず。此言むべなるかな。知ある人は、人の我が心にかなはざることあるをば、故あるらんとおもひ、人をとがめず。或は人のしわざの道にそむけるは、生れつきておろかなる故と思ひて、人をゆるす。たとへば、赤子の井に、入らんとするが如くなればなり。又人の生つき偏なれば、其の行正しからず。智者は其の偏なる病、あはれむべきことを知りていからず。家の主となる人は此の心得あるべし。親戚家人、我が心にかなはざるをうらみいかりて堪忍せざれば、家道和睦せず。

現代語訳

愚かであれば人を恨みやすいのです。それで史記に「知があれば軽々しく人を恨まない」と言います。この言葉はもっともです。知ある人は、人が自分の心にかなわないことがあれば、何か理由があるのだろうと思って人を咎めません。あるいは人の行いが道に背いているのは、生まれつき愚かだからだと思って人を許します。たとえば赤子が井戸に入ろうとしているようなものだからです。また人の生まれつきが偏っていれば、その行いは正しくありません。智者はその偏りという病があわれむべきことを知っていて怒りません。家の主となる人は、この心得があるべきです。親戚や家の者が自分の心にかなわないのを恨み怒って堪忍しなければ、家の道は和睦しません。

解説

愚かな人ほど人を恨みやすく、智ある人は軽々しく人を恨まないと、益軒は史記の言葉として引いて説きます。人が思いどおりに動かないときは何か事情があるのだろうと考え、道に背く行いは生まれつきの偏りという病だと見てあわれむというのです。孟子の「赤子の井に入らんとする」のたとえを重ねています。相手の行動の背景を想像すると怒りが和らぐというのは、今の心理学でもよく言われることです。家族への苛立ちを鎮める知恵として、身近に役立つ教えです。

この章句が説くこと

智恨み堪忍家族許す

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