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家道訓 / 巻之三・総論下

一衆人と下部は、人の恩をあつくうけてもわすれやすし。是其の人のつねなれば、怒りとがむべからず。此の如き人は必ず此の如く恩を忘るゝものぞと知るべし。怨みとがむるは我がおろかなるなり。われ年のつもりに、世の人を多く見るに、恩を受けてわすれざる人はきはめてまれなり。十人に一人もありがたし。是衆人のつねのならひぞと思ふべし。もし恩を忘れざる人あらば善人なるべし。人の恩をうけば長くわするべからず。必ずむくふべし。恩をほどこしては忘るべし。恩を賴むべからず。

新字:一衆人と下部は、人の恩をあつくうけてもわすれやすし。是其の人のつねなれば、怒りとがむべからず。此の如き人は必ず此の如く恩を忘るゝものぞと知るべし。怨みとがむるは我がおろかなるなり。われ年のつもりに、世の人を多く見るに、恩を受けてわすれざる人はきはめてまれなり。十人に一人もありがたし。是衆人のつねのならひぞと思ふべし。もし恩を忘れざる人あらば善人なるべし。人の恩をうけば長くわするべからず。必ずむくふべし。恩をほどこしては忘るべし。恩を頼むべからず。

書き下し

一衆人と下部は、人の恩をあつくうけてもわすれやすし。是其の人のつねなれば、怒りとがむべからず。此の如き人は必ず此の如く恩を忘るるものぞと知るべし。怨みとがむるは我がおろかなるなり。われ年のつもりに、世の人を多く見るに、恩を受けてわすれざる人はきはめてまれなり。十人に一人もありがたし。是衆人のつねのならひぞと思ふべし。もし恩を忘れざる人あらば善人なるべし。人の恩をうけば長くわするべからず。必ずむくふべし。恩をほどこしては忘るべし。恩を頼むべからず。

現代語訳

多くの人や下働きの者は、人から厚く恩を受けても忘れやすいものです。これはそういう人の常なので、怒り咎めてはいけません。このような人は必ずこのように恩を忘れるものだと知るべきです。恨み咎めるのは自分が愚かなのです。私は年を重ねて世の人を多く見てきましたが、恩を受けて忘れない人はきわめてまれです。十人に一人もいません。これは多くの人の常の習いだと思うべきです。もし恩を忘れない人がいれば、善人でしょう。人の恩を受けたら長く忘れてはいけません。必ず報いるべきです。恩を施したら忘れるべきです。恩を当てにしてはいけません。

解説

八十歳を超えた益軒が、世の人を多く見てきた経験から、恩を受けて忘れない人は十人に一人もいないと率直に語ります。だから恩を忘れる人を恨むのは自分が愚かなのであり、施した恩は忘れよ、当てにするなと説きます。一方、自分が受けた恩は長く忘れず必ず報いよと言います。益軒は十訓の別の巻でも「恩を施しては念ふこと勿れ、恵みを受けては忘るること勿れ」という古語を引いて同じことを説いています。見返りを期待するから腹が立つ、という人間関係の悩みの根を、端的に言い当てています。

この章句が説くこと

恩報恩施し人間関係堪忍

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