家道訓 / 巻之三・総論下
一財を多くたくはへて富める人、もし生れつきて仁心なくとも、我が身のため子孫のためを思ひて、善を行ひ人をたすくべし。財寶を多く子孫に殘さんよりは、財を捨てて廣く善を行ひ、父母兄弟親戚にあつくし、其の餘の人の貧を救ひ、飢寒を助くべし。是後の幸子孫の爲、財をのこすに甚まされり。
新字:一財を多くたくはへて富める人、もし生れつきて仁心なくとも、我が身のため子孫のためを思ひて、善を行ひ人をたすくべし。財宝を多く子孫に残さんよりは、財を捨てて広く善を行ひ、父母兄弟親戚にあつくし、其の余の人の貧を救ひ、飢寒を助くべし。是後の幸子孫の為、財をのこすに甚まされり。
書き下し
一財を多くたくはへて富める人、もし生れつきて仁心なくとも、我が身のため子孫のためを思ひて、善を行ひ人をたすくべし。財宝を多く子孫に残さんよりは、財を捨てて広く善を行ひ、父母兄弟親戚にあつくし、其の余の人の貧を救ひ、飢寒を助くべし。是後の幸子孫の為、財をのこすに甚まされり。
現代語訳
財を多くたくわえて富んだ人は、もし生まれつき仁の心がなくても、自分の身のため、子孫のためを思って、善を行い人を助けるべきです。財宝を多く子孫に残すよりは、財を捨てて広く善を行い、父母・兄弟・親戚に厚くし、そのほかの人の貧しさを救い、飢えや寒さを助けるべきです。これは後の幸いであり、子孫のためには、財を残すことよりはるかにまさっています。
解説
富める人は、たとえ生まれつき仁の心がなくても、自分と子孫のためを思って善を行えと説きます。財宝を子孫に残すより、財を用いて親族を厚くし、貧しい人を救うほうが、子孫にとってはるかに大きな幸いになるというのです。ここには「積善の家には必ず余慶あり」という易経の考えがあります。善意からでなくても、損得から始めてもよいから善を行えという言い方は、現実的で面白いところです。財産を遺すより、社会に還元して徳を遺すという考えは、今の寄付や財団の設立にも通じます。
この章句が説くこと
財善子孫施し陰徳
関連する章句
-
『家道訓』巻之一・総論上年をへて久しく行へば、其の善つもりて大なり。楽しむべし。貧しき人すら斯くの如くなるべし。況や富める人をや。富みて財あまりある人は、天道みてるを虧く理なれば、人にほどこさずして、財を多くあつめおけるは、後は必ずわざはひ出来て、財をうしなひ、子孫に其の財をのこしがたし。財多き人は、尤父母にあつくし、親戚朋友の乏しきをにぎはし、貧しき人をたすけ、飢寒をすくひて広く人を愛し、善を行ふべし。夫人をすくひたすくるは天の好み給ふ所、天道は善にさいはひし給ふ理なれば、かくの如くひろく人を愛すること久しくば、天のよろこび給ふことふかくして、福をうくることうたがひなかるべし。天道は還すことをこのむといへり。善を行へば天よりさいはひを下し、悪を行へば天よりわざはひを下し給ふ。
-
『家道訓』巻之四・用財上一我が身の養をうすくして、父母の奉養をあつくすべし。次に兄弟親戚朋友の貧窮なるをすくふべし。その外、飢寒艱苦する者をたすくるを以て楽とすべし。親戚のむすめ、嫁すべき時にいたれども、貧窮にして嫁する力なき者あり。吾もし力あらば、財をたすけて嫁せしむべし。凡財あらば、かくの如く有益の事をなすべし。財を吝むべからず。我が力にしたがひてほどこすべし。斯く善を行ひて人をたすけば、家富み財おほく持てるかひあり。善をすること斯くのごとくならば、豈たのしからずや。道理を知らざる人は、多くの財をつひやし無益の事をなして、義理にそむくこと多し。財宝を多くつひやして、道理にそむくはむげに愚なり。よくわきまへて、無益の事に財をつひやさず、益ある事に財を用ふべし。
-
『家道訓』巻之四・用財上一君より禄と位とを得るは、誠に難きことなり。されど、得る事かたきよりも、たもちて失はざること尤かたし。禄位を得ることは、幸にしても得る人あり。財禄をたもつてうしなはざることは、徳なければ成りがたし。幸ありて得れども、徳なくして失ふ人おほし。故に財禄ある人は、徳行をつつしんで其の財禄をたもつべし。又財禄をむさぼり、分外の富を求めて子孫にのこさんとせんより、家法を正しくし、子孫に道のをしへをのこすにはしかじ。子孫無道なれば、財禄をのこせども必ず失ふ。四民皆かくの如し。我が財禄をたもちて失はず、子孫長久ならしめんことをねがはば、只仁心を以て人をあはれみめぐみ、善を行ふをつねの楽とし、子孫に善ををしへ勧むべし。是天道にかなふ理なれば、当時目に見えたるさいはひなくとも、後に必ず天のめぐみをうくべし。是万金を捨てて神仏にへつらひいのるに百倍せる祈祷なり。これ我が私言にあらず、いにしへのかしこき人のをしへ、古今のためし明かなり。うたがふべからず。
-
『家道訓』巻之四・用財上鹿台の財、鉅橋の粟、おごりてはたもちがたし。鄧通が銅山の財、石崇が金谷の富も、不徳なればつひに失へり。又官禄をむさぼり、財宝をあつめて子孫にのこせども、我が身に仁愛を行はずして、積善なければ天道にそむきて、後の余慶なし。其の上子孫不肖にしては、其の官禄と財宝をたもちがたし。只陰徳を行ひて、つねに善をなし、ひろく人をすくひ、子孫に其の余福をのこし、又義方の教をなして、子孫の行を正しくせんこそ、子孫のさいはひとはなるべけれ。我が身一人にて、福禄を多くうけ過せば、天道みてるをかきて、子孫には福のこらず。我が身みづからさいはひの満てるをかきて、我がため子孫のため、禍をのがるべし。是自福をうけ過さずして、子孫に福をのこしあたふるなり。是智者のする所なり。
-
『家道訓』巻之四・用財上一人もし富貴にして、たからを多く貯へもたば、是天より我一人にあつくし給ふにあらず、多く人をすくはしめんために、我にさづけたまふとおもひて、天命にしたがひて、つねに仁愛の心をもちて、貧苦なる人をめぐみ、飢饉する者をすくひて、善を行ふを以て楽とすべし。是天の御心にそむかざるなり。斯くのごとくならば、富貴なるかひありて、大なる楽なるべし。財を多くもちても、我が身ひとりの俸養におごり、人にほどこさずして善を行はざるは、無用の物なり。石瓦を多くもてるに同じ。かかる人を守銭虜と古人の云ひけんもむべなり。財をもてるかひなくして、貧賤の人と同じ。一財を用ふる道をしらで貧窮なれば、父母をやしなふにうすく、人に与ふべき物をあたへず、人を恵むことなりがたく、人のおひめをかへさず、廉恥の道行はれがたく、人の恵を受けてむくいず。官となりても、貧なれば民をむさぼりやすく、忠義をつとめがたし。礼義にそむき、心術に害あること、皆是困窮よりおこる。困窮は倹約ならざるよりおこれり。然る故に、倹約は家ををさむる要道なり。
-
『家道訓』巻之四・用財上一財を多くたくはへて余りあらば、人に益あることにつかひ用ふべし。無益のいとなみをなして、財をつひやすはいたづら事なり。をしむべし。君子の財をみだりに用ひずしてをしむは、人に益あることに、財を用ひんがためなり。たとへば百万銭をつひやして万灯をともさんよりは、十万銭を出して、飢ゑたる者万人を養ふは益多し。又百万銭を出して、女子を嫁せしむれども、十万銭を出して子を教ふる人なしと、古人いへり。又大富の人は、一日の内にも千金をつひやして、無益の驕楽をなせども、百金を出して飢ゑたる人をすくふ人なきは何ぞや。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る