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家道訓 / 巻之三・総論下

一古語に、一物あれば一累をそふといへり。草木鳥獸器物など、何にても一向にこのみ過せば、必ず其物に心をうばはれ、心に一のわづらひをそふるなり。其上、事をこのめば、ひまと財とをつひやし、下人をなやます。このまざれば事すくなくしてよし。君につかへていとまなき人、父の家にありて孝行にひまなき人、官職をあづかる人、藝術の家業ある人、此の四等の人は、心を淸くし事をはぶくを宗として、さし當りたる職分をつとむべし。事を好み物を玩ぶべからず。事を好みて隙をつひやせば、我が身にさしあたりたる職分の務には、必ずうとくなる。

新字:一古語に、一物あれば一累をそふといへり。草木鳥獣器物など、何にても一向にこのみ過せば、必ず其物に心をうばはれ、心に一のわづらひをそふるなり。其上、事をこのめば、ひまと財とをつひやし、下人をなやます。このまざれば事すくなくしてよし。君につかへていとまなき人、父の家にありて孝行にひまなき人、官職をあづかる人、芸術の家業ある人、此の四等の人は、心を清くし事をはぶくを宗として、さし当りたる職分をつとむべし。事を好み物を玩ぶべからず。事を好みて隙をつひやせば、我が身にさしあたりたる職分の務には、必ずうとくなる。

書き下し

一古語に、一物あれば一累をそふといへり。草木鳥獣器物など、何にても一向にこのみ過せば、必ず其物に心をうばはれ、心に一のわづらひをそふるなり。其上、事をこのめば、ひまと財とをつひやし、下人をなやます。このまざれば事すくなくしてよし。君につかへていとまなき人、父の家にありて孝行にひまなき人、官職をあづかる人、芸術の家業ある人、此の四等の人は、心を清くし事をはぶくを宗として、さし当りたる職分をつとむべし。事を好み物を玩ぶべからず。事を好みて隙をつひやせば、我が身にさしあたりたる職分の務には、必ずうとくなる。

現代語訳

古語に「一つの物があれば、一つの煩いが加わる」とあります。草木・鳥獣・器物など、何でもひたすら好みすぎれば、必ずその物に心を奪われ、心に一つの煩いを加えるのです。そのうえ、事を好めば、暇と財とを費やし、下の者を悩ませます。好まなければ事が少なくてよいのです。主君に仕えて暇のない人、父の家にいて孝行に暇のない人、官職を預かる人、芸術を家業とする人、この四種類の人は、心を清くし事を省くことを宗として、当面の職分を務めるべきです。事を好み物をもてあそんではいけません。事を好んで暇を費やせば、自分の身に当面する職分の務めには、必ず疎くなります。

解説

「一物あれば一累を添ふ」という古語を引き、物を好みすぎると心を奪われ、煩いが一つ増えると説きます。趣味の品や珍しい草木、鳥獣に凝れば、時間とお金を費やし、使用人まで振り回すことになります。とくに主君に仕える人、親の世話をする人、公職にある人、家業を持つ人は、心を清くし物事を省いて本来の務めに専念せよと言います。物を持つほど管理の手間と心配が増えるという指摘は、今の断捨離やミニマリズムの考え方を先取りしたものといえます。

この章句が説くこと

欲物趣味職分簡素

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