言志四録 / 言志録 第二百十九条 一物を多くすれば一累を多くす
多一物。斯多一事。多一事。斯多一累。
書き下し
一物を多くすれば、斯に一事を多くす。一事を多くすれば、斯に一累を多くす。
現代語訳
物が一つ増えれば、それだけ用事が一つ増える。用事が一つ増えれば、それだけ煩いが一つ増える。
解説
物を一つ増やせば、その分の手間が一つ増え、手間が一つ増えればその分の煩いが一つ増える。簡潔な連鎖で、所有と煩いの関係を言い当てた一条です。物を持てば管理や維持が必要になり、それが心を縛る「累」となります。道家の寡欲の思想にも通じますが、一斎はこれを日常の実感として述べています。現代の生活や仕事にもそのまま当てはまる指摘で、道具や制度、会議やルールも、一つ加えるたびに運用の手間と気がかりが増えていきます。何かを加えることで問題を解決しようとするとき、それが新たな煩いを生まないかを考え、むしろ減らすことで身軽になれないかと問い直す材料になる言葉です。
この章句が説くこと
簡素寡欲煩い身軽さ
関連する章句
-
言志四録・言志後録 第十六条 我自ら累す人或いは外物を累と為すと謂ふ。愚は則ち謂ふ、万物は皆我と同体なり、必ずしも累と為さず。蓋し我自ら累するなり。
-
言志四録・言志耋録 第百二十四条 得失の二字世を渉るの道は、得失の二字に在り。得べからざるを得ること勿れ。失ふべからざるを失ふこと勿れ。此くの如きのみ。
-
言志四録・言志晩録 第二百六十五条 人事は落葉の如し人事の叢集すること落葉の如し。之を掃へども復た来る。畢竟窮まり已むこと無し。緊要の大事に非ざるよりは、則ち迅速に一掃し、遅疑すべからず。乃ち胸中綽として余暇有りと為す。
-
言志四録・言志録 第三十一条 閑事を認めて実事と為す今人率ね口に多忙を説く。其の為す所を視るに、実事を整頓するは十に一二、閑事を料理するは十に八九。又閑事を認めて以て実事と為す。宜なり其の多忙なるや。志有る者は誤りて此の窠を踏むこと勿れ。
-
言志四録・言志耋録 第百四十三条 富貴は心に在り物余り有る、之を富と謂ふ。富を欲するの心は、即ち貧なり。物足らざる、之を貧と謂ふ。貧に安んずるの心は、即ち富なり。富貴は心に在りて、物に在らず。
-
言志四録・言志耋録 第百五十一条 心を養ふは寡欲に善きは莫し心を養ふは寡欲より善きは莫し。君子の自ら養ふ者、宜しく是くの如くなるべし。人を待つに至りては、則ち然らず。人をして各々其の欲を達せしむるのみ。但だ欲にも亦公私有り。弁ずべし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る