家道訓 / 巻之五・用財中
一我が身の私慾をすくなくすれば、身をやしなひ自樂むに、多くの財をつひやさずして事足りぬべし。大富貴の人といへど、人にかはりて大に飮み食ふことならず。多くきぬをかさね著せず、大なる屋宅に居らずして、身を安くす。しかれば身の養は、分外をねがはずとも事たりぬべし。
新字:一我が身の私慾をすくなくすれば、身をやしなひ自楽むに、多くの財をつひやさずして事足りぬべし。大富貴の人といへど、人にかはりて大に飲み食ふことならず。多くきぬをかさね著せず、大なる屋宅に居らずして、身を安くす。しかれば身の養は、分外をねがはずとも事たりぬべし。
書き下し
一我が身の私慾をすくなくすれば、身をやしなひ自楽むに、多くの財をつひやさずして事足りぬべし。大富貴の人といへど、人にかはりて大に飲み食ふことならず。多くきぬをかさね著せず、大なる屋宅に居らずして、身を安くす。しかれば身の養は、分外をねがはずとも事たりぬべし。
現代語訳
自分の私欲を少なくすれば、身を養い自ら楽しむのに、多くの財を費やさなくても事足りるはずです。大富豪の人であっても、人に代わって大いに飲み食いすることはできません。多くの着物を重ね着することもなく、大きな屋敷に住まなくても身を安らかにできます。ですから身の養いは、分を超えたことを願わなくても足りるはずです。
解説
富の多少ではなく、欲の多少が暮らしの必要額を決めるという短い条です。どれほどの金持ちでも胃袋は一つ、着物も一度に何枚も着られないという具体的な言い方がわかりやすく、欲を減らせば財を増やさなくても満ち足りるという結論に導きます。老子の「足るを知る」にも通じる発想で、家道訓の倹約論の土台になっています。収入を追い続けるより、自分にとって十分な水準を知ることが心の安らぎにつながるという点は、今の働き方や消費を考えるうえでも示唆的です。
この章句が説くこと
欲足る財質素楽しみ
関連する章句
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『家道訓』巻之六・用財下一財禄はかぎりあり、私欲はかぎりなし。かぎりなき欲にまかせては、必ず財つきて困窮す。富める人も貧しき人も倹約にて、物ごとに嗜慾をこらへ、酒食衣服家居など、よろづの用、我が身上よりかろくうすくすると見ゆるが、理にかなひて能きほどなるべし。殊に貧家はかくの如くにして、やうやう我が得る所の財禄を用ひつくして、あまりなく不足なし。不足なければ、小禄の家も人に借り求むるに及ばず。然るに、万の身の俸養分限に過ぎて、心にまかせぬれば、富家といへども後は財不足し、みづからくるしむのみならず、人の妨となり、一生の苦み、子孫の不幸となる。貧家は、人にほどこし貧窮をすくふほどこそなくとも、せめて人の妨とならざるべし。
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『家道訓』巻之五・用財中衣食家居器物の美をこのまず、物ずきをこのまず。気に合はざるとてかるがるしく改め作らず、営作をこのまず、無用の器物をこのまず、無益の芸能をこのまず、およそこのむ事すくなし。このむ事すくなきは、則是わざはひを好まざるなり。斯くのごとくなる人は、必ず人のいさめをよく聞き用ひてふせがず、
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『家道訓』巻之五・用財中むげのことなり。およそ、一とせの衣食の費は多からず、やどりは茅屋一間に起きふして足りぬ。しもべは、我労にかはる人の外はなくても事かかず。うつはものは、只飲食の器日用の調度のみ助となる。其外の器皆用なし。人の身をやしなふには、此のあまたの物にすぎず。これを備ふるは、さほどつひえおほからず。然れば財禄ある人、倹約をだに行はば、自俸するに余あるべし。不足して人に乞ひ借るに及ぶべからず。然るに財用を多く費し過し、人に乞ひ借り、みづから困窮にいたり、一生身をくるしめ人を苦しめ、子孫まで困窮せしむるは悲むべし。是用財の良法を知らざればなり。
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『家道訓』巻之六・用財下一財を用ふるに、心を用ふると用ひざるとによりて、財の費の多少甚しきことなり。よく心を用ひて無用の費をはぶき、つつしみて約なるべし。おろそかにして多く用ふべからず。たとへば養生の道は、物ごとにすくなくするをよしとす。酒食をすくなくし、色欲をすくなくし、言と怒をすくなくするの類なり。財を用ふるも亦、此の如くなるべし。物ごとに多く用ひ過すべからず。然れども、費ををしむことあまり緊密にすぐれば、我が心を苦しめ人に害あり。緊密なる内にゆるやかなるがよし。人をつかふも亦かくの如し。日々少しのいとまなきやうにつかへば、人くるしみて其の所を得がたし。少しいとまあるやうに人をつかふべし。
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『家道訓』巻之五・用財中一つひえをはぶきおごりをおさへて、家財の分限に応じて用ふべし。分限の外に越えて用ふべからず。おごりつひえをおさへて私慾をこらふるには、つとめて力を用ひざれば為しがたし。心よわくしては、欲にひかれて行はれず。又世俗のそしりをおそれては、倹約は行ひがたし。ちからを用ひて行ひ遂ぐべし。欲にひかれそしりを恐るるは力量なし。欲にかつには剛を以てす。おそれざるは勇者のわざなり。
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『家道訓』巻之五・用財中一我が身に俸ずることはうすくして、人にほどこし礼義を行ふ事をあつくする、是用財の良法なり。今の人は、我が身に俸ずるにはおごり、人にほどこし礼義を行ふにはうすくす。是用財の道をうしなへり。一我が財禄の分限をわすれ、後の困窮を考へずして、当時の嗜慾にまかせ、分に過ぎて財を用ふれば、必ず財足らず。財不足するによりて、廉恥の心なく、つとむべき礼義を行ひがたく、人の困苦をめぐまず、あたふべき物をあたへず、奉公をつとむべきちからなく、軍用にともし。是家をたもち財を用ふる道を知らざればなり。然れば貴賤ともに、家ををさむるには、必ず財の用ひやうを知るべし。是人世の尤切要なる急務なり。
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