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家道訓 / 巻之三・総論下

一家人に對するに、嚴正にして厚重なれば、おのづから威ありて人あなどらず。かくの如くなれば、怒りてはげしく惡言を出さゞれども、人おそる。一子弟はいふに及ばず、下部に對すとも、其の罪あるをいかり、惡言を出していやしむべからず。又うちたゝきはづかしめて、犬馬の如くいやしむべからず。下部も亦人の子にして、人倫なり。人倫の交此のごとく情なかるべからず。いやしくとも、人倫の道を以てつかふべし。いはんや天地のうみて子としてあはれみ給ふ人なれば、いやしめにくむべからず。又人の過惡を責めて、人のために我が心を亂して、怒りにやぶらるべからず。是己ををさめ人ををさむる道を失へりといふべし。怒甚しければ、必ず目をいらゝげことばをあらくして、人をいやしむるにいたる。君子のしわざ、此の如く心をとりみだしてみぐるしかるべからず。又責めらるゝ者は、我が惡しきをわすれ、恥辱にあひたるを本意なくおもひ、いかりうらみて心服せず。下部にあやまりあらば、只從容として誠を以ていましめ正さば、彼もし人心あらば感通すべし。

新字:一家人に対するに、厳正にして厚重なれば、おのづから威ありて人あなどらず。かくの如くなれば、怒りてはげしく悪言を出さゞれども、人おそる。一子弟はいふに及ばず、下部に対すとも、其の罪あるをいかり、悪言を出していやしむべからず。又うちたゝきはづかしめて、犬馬の如くいやしむべからず。下部も亦人の子にして、人倫なり。人倫の交此のごとく情なかるべからず。いやしくとも、人倫の道を以てつかふべし。いはんや天地のうみて子としてあはれみ給ふ人なれば、いやしめにくむべからず。又人の過悪を責めて、人のために我が心を乱して、怒りにやぶらるべからず。是己ををさめ人ををさむる道を失へりといふべし。怒甚しければ、必ず目をいらゝげことばをあらくして、人をいやしむるにいたる。君子のしわざ、此の如く心をとりみだしてみぐるしかるべからず。又責めらるゝ者は、我が悪しきをわすれ、恥辱にあひたるを本意なくおもひ、いかりうらみて心服せず。下部にあやまりあらば、只従容として誠を以ていましめ正さば、彼もし人心あらば感通すべし。

書き下し

一家人に対するに、厳正にして厚重なれば、おのづから威ありて人あなどらず。かくの如くなれば、怒りてはげしく悪言を出さざれども、人おそる。一子弟はいふに及ばず、下部に対すとも、其の罪あるをいかり、悪言を出していやしむべからず。又うちたたきはづかしめて、犬馬の如くいやしむべからず。下部も亦人の子にして、人倫なり。人倫の交此のごとく情なかるべからず。いやしくとも、人倫の道を以てつかふべし。いはんや天地のうみて子としてあはれみ給ふ人なれば、いやしめにくむべからず。又人の過悪を責めて、人のために我が心を乱して、怒りにやぶらるべからず。是己ををさめ人ををさむる道を失へりといふべし。怒甚しければ、必ず目をいららげことばをあらくして、人をいやしむるにいたる。君子のしわざ、此の如く心をとりみだしてみぐるしかるべからず。又責めらるる者は、我が悪しきをわすれ、恥辱にあひたるを本意なくおもひ、いかりうらみて心服せず。下部にあやまりあらば、只従容として誠を以ていましめ正さば、彼もし人心あらば感通すべし。

現代語訳

家の者に対して厳正で重々しくあれば、おのずから威厳があって人は侮りません。このようであれば、怒って激しく悪口を言わなくても、人は恐れます。子弟は言うまでもなく、下働きの者に対しても、その罪あることを怒って悪口を言っていやしめてはいけません。また打ちたたき辱めて、犬や馬のようにいやしめてはいけません。下働きの者もまた人の子であり、人倫の一員です。人と人との交わりが、このように情けのないものであってはなりません。卑しい身分であっても、人倫の道によって使うべきです。まして天地が生み、子としてあわれまれる人なのだから、いやしめ憎んではいけません。また人の過ちや悪を責めて、人のために自分の心を乱し、怒りに負けてはいけません。これは己を治め人を治める道を失ったというべきです。怒りが甚だしければ、必ず目を怒らせ言葉を荒くして、人をいやしめるに至ります。君子のすることは、このように心を取り乱して見苦しくてはいけません。また責められる者は、自分の悪いことを忘れて、辱めを受けたことを不本意に思い、怒り恨んで心服しません。下働きの者に過ちがあれば、ただゆったりとして誠をもって戒め正せば、彼にもし人の心があれば感じ通じるでしょう。

解説

家の者に対しては、厳正で重々しくあれば怒鳴らなくても自然に威厳が備わると説きます。子弟だけでなく使用人に対しても、罵ったり打ちたたいて辱めたりしてはならず、使用人も天地が生んだ人の子であり人倫の一員だと言います。そして怒りに任せて責めれば、自分の心を乱すうえ、相手は恥を恨んで心服しないと指摘します。落ち着いて誠をもって戒めれば、相手に人の心があれば必ず通じるというのです。叱り方ひとつで相手の受け止め方が変わることは、今の子育てや職場でも同じです。

この章句が説くこと

威厳怒り叱り方使用人誠

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