十善法語 / 巻第八・不貪欲戒
此位アリテ居ル。下ヲ侮レバ害ノ生スルコトヲ知ル。亂世ニハ功勞ノ臣ト坐起ヲ共ニシテ其忠義ヲ勵マス。治世ニハ。有德ヲ尊重シテ風化ヲ淳厚ニスルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。諸ノ賢聖德ヲ隱シテ凡夫ニ如同スル。此儀シヤ。此富アリテ有ツ。妄ニ用フレハ德ヲ敗ルコトヲ知ル。財利民ノ爲ニツム。器械國ノ爲ニ設ク。城邑橋梁。神社佛閣。ソノ教ニ隨テ國界ヲ莊嚴スルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。資財ミナ三寶ニ歸シテ自ラ畜積セヌ。此儀シヤ。此威力アリテ他ヲ伏スル。驕レハ禍蕭牆ノ中ニ起ル。顏色常ニ和ス。威嚴此中ニアリテ盡ルコトナイ。音聲常ニ和ス。威嚴此中ニ在テ盡ルコトナイ。擧動常ニ謙下ス。威嚴此中ニ在テ盡ルコトナイ。萬國ヲ制伏スルニ。十分ノ威權ヲ用ヒヌ。此中威海外ヲ靡ケ。德鰥寡ニ及フト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。遺教經ニ執持應器以乞自活。自見如是トアル。此儀シヤ。
新字:此位アリテ居ル。下ヲ侮レバ害ノ生スルコトヲ知ル。乱世ニハ功労ノ臣ト坐起ヲ共ニシテ其忠義ヲ励マス。治世ニハ。有徳ヲ尊重シテ風化ヲ淳厚ニスルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。諸ノ賢聖徳ヲ隠シテ凡夫ニ如同スル。此儀シヤ。此富アリテ有ツ。妄ニ用フレハ徳ヲ敗ルコトヲ知ル。財利民ノ為ニツム。器械国ノ為ニ設ク。城邑橋梁。神社仏閣。ソノ教ニ随テ国界ヲ荘厳スルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。資財ミナ三宝ニ帰シテ自ラ畜積セヌ。此儀シヤ。此威力アリテ他ヲ伏スル。驕レハ禍蕭牆ノ中ニ起ル。顔色常ニ和ス。威厳此中ニアリテ尽ルコトナイ。音声常ニ和ス。威厳此中ニ在テ尽ルコトナイ。挙動常ニ謙下ス。威厳此中ニ在テ尽ルコトナイ。万国ヲ制伏スルニ。十分ノ威権ヲ用ヒヌ。此中威海外ヲ靡ケ。徳鰥寡ニ及フト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。遺教経ニ執持応器以乞自活。自見如是トアル。此儀シヤ。
書き下し
此位アリテ居ル。下ヲ侮レバ害ノ生スルコトヲ知ル。乱世ニハ功労ノ臣ト坐起ヲ共ニシテ其忠義ヲ励マス。治世ニハ。有徳ヲ尊重シテ風化ヲ淳厚ニスルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。諸ノ賢聖徳ヲ隠シテ凡夫ニ如同スル。此儀シヤ。此富アリテ有ツ。妄ニ用フレハ徳ヲ敗ルコトヲ知ル。財利民ノ為ニツム。器械国ノ為ニ設ク。城邑橋梁。神社仏閣。ソノ教ニ随テ国界ヲ荘厳スルト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。資財ミナ三宝ニ帰シテ自ラ畜積セヌ。此儀シヤ。此威力アリテ他ヲ伏スル。驕レハ禍蕭牆ノ中ニ起ル。顔色常ニ和ス。威厳此中ニアリテ尽ルコトナイ。音声常ニ和ス。威厳此中ニ在テ尽ルコトナイ。挙動常ニ謙下ス。威厳此中ニ在テ尽ルコトナイ。万国ヲ制伏スルニ。十分ノ威権ヲ用ヒヌ。此中威海外ヲ靡ケ。徳鰥寡ニ及フト云コトシヤ。沙門法ノ中ハ。遺教経ニ執持応器以乞自活。自見如是トアル。此儀シヤ。
現代語訳
この位があって居る。下の者を侮れば害が生じることを知る。乱世には、功労のある臣と立ち居を共にして、その忠義を励ます。治世には、有徳の人を尊重して、風俗の教化を厚くするということである。沙門の法の中では、諸々の賢聖が徳を隠して凡夫と同じようにしている、この規則である。この富があって持つ。みだりに用いれば徳を損なうことを知る。財利は民のために積む。器械は国のために設ける。城邑や橋梁、神社や仏閣は、その教えに従って国の境域を荘厳するということである。沙門の法の中では、資財をみな三宝に帰して、自ら蓄えない、この規則である。この威力があって他を従わせる。驕れば、禍が垣根の内から起こる。顔色は常に和やかである。威厳はこの中にあって尽きることがない。声は常に和やかである。威厳はこの中にあって尽きることがない。立ち居振る舞いは常に謙り下る。威厳はこの中にあって尽きることがない。万国を制し伏するのに、十分の威権を用いない。この中で、威は海外をなびかせ、徳は身寄りのない者にまで及ぶということである。沙門の法の中では、遺教経に、「鉢を手に持って、乞うて自活する。自らこのように見よ」とある、この規則である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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牧民忠告・御下小にしては一邑(いちゆう)と為り、大にしては天下と為るも、賞罰明らかなれば、則ち声色を煩わさずして威令自(おのずか)ら行わる。人徒(ただ)民を治むるの難きを知りて、吏を治むるの尤(もっと)も難きを知らず。蓋し吏は官と比(ひ)し、詭詐(きさ)生じ易し。民は官に遠く、理法を知る能わず、誤(あやま)って然(しか)して犯す、宜(むべ)なるかな矜(あわれ)む可きがごとし。吏は則ち日(ひび)法律の中に処り、知らざるに非ざるなり、小過懲(こ)らさざれば、必ず大患を為し、忌憚(きたん)する所無からん。嘗て聞く、「民を治むるは目を治むるが如し、撥触(はっしょく)すれば則ち益々昏(くら)し。吏を治むるは歯牙(しが)を治むるが如し、剔漱(てきそう)すれば則ち益々利(と)し」と。《伝》に曰わく、「威其の愛に克てば允(まこと)に済(な)る、愛其の威に克てば允に罔(あやま)る」と。功(こう)此れに法(のっと)りて行わば、断じて治め難きに至らじ。
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『呻吟語』外篇・治道・威其の愛に克つ大眾を動かし、萬民を齊ふるには、之に主とするに慈愛を以てして、之を行ふに威嚴を以てするを要す。故に曰く、「威其の愛に克つ」と。又た曰く、「一たび怒りて天下の民を安んず」と。若し姑息寬緩、煦煦沾沾たらば、便ち是れ婦人の仁にして、一些の事も濟し得ず。
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論語・学而篇子曰く、「君子重からざれば則ち威あらず、学べば則ち固ならず。忠信を主とし、己に如かざる者を友とすること無かれ、過てば則ち改むるに憚ること勿かれ。」
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『呻吟語』外篇・治道・姑息の禍は威嚴より甚だし姑息の禍は威嚴より甚だし。此れ長厚者と道ふ可からず。
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『管子』形勢墜岸三仞は、人の大いに難しとする所なり、而して猿猱は焉に飲む。故に曰く、伐矜專を好むは、事を舉ぐるの禍なり。其の野を行かざれば、其の馬に違わず。能く予えて取ること無き者は、天地の配なり。怠倦なる者は及ばず、廣むる無き者は神を疑う。神なる者は内に在り、及ばざる者は門に在り。内に在る者は將に假さんとし、門に在る者は將に待たんとす。曙に戒めて怠る勿かれ、後れ穉ければ殃に逢う。朝に其の事を忘るれば、夕べに其の功を失う。邪氣内に入れば、正色乃ち衰う。君君たらざれば則ち臣臣たらず、父父たらざれば則ち子子たらず。上其の位を失えば則ち下其の節を踰え、上下和せざれば、令乃ち行われず。衣冠正しからざれば則ち賓者肅まず、進退儀無ければ則ち政令行われず、且つ懷け且つ威あらば則ち君道備わる。
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風姿花伝・第三 問答条々問、能に位の差別を知る事如何。答、これ目利の眼にはやすく見ゆるなり。凡そ位のあがるとは、能の重々の事なれども、ふしぎに十ばかりの能者にも、この位おのれとあがれる風体あり。但し稽古なからむには、おのれとあがる位ありともいたづら事なり。先づ稽古の劫入りて位のあらむは、常のことなり。また生得あがる位とは長なり。嵩と申すは別の事なり。多く人、長と嵩とを同じやうに思ふなり。嵩と申すは、ものものしくせのある形なり。またいふ、嵩は一切にわたる義なり。位長には別の物なり。たとへば、生得幽玄なる所ある、これ上の位か。然れども、さらに幽玄にはなき仕手の、長のあるもあり。これは幽玄ならぬ長なり。また初心の人思ふべし。稽古に上の位を心がけんは、返々かなふまじ。位はいよいよかなはで、あまさへ稽古しける分もさがるべし。所詮、位長のあがらんことは、かくべつの心得ありて得ずしては、大方かなふまじ。また稽古の劫入りて垢落ちぬれば、この位おのれと出来ることあり。稽古とは、音曲、舞、はたらき、物まね、かやうの品々をきはむる形木なり。よくよく工夫して思ふに、幽玄の位は生得の物か、闌けたる位は劫入りたるところか、心中に案をめぐらすべし。