家道訓 / 巻之二・総論中
一家のさかえ衰ふるは、家法の正しくなるを盛とし、家法のすたるを衰とす。富貴なりとて盛とすべからず、貧賤なりとて衰とすべからず。家の盛衰は、禮義の行はるゝと行はれざるとによれり。是古人のいへる意なり。今の世の人も、亦かくの如く心得べし。
新字:一家のさかえ衰ふるは、家法の正しくなるを盛とし、家法のすたるを衰とす。富貴なりとて盛とすべからず、貧賤なりとて衰とすべからず。家の盛衰は、礼義の行はるゝと行はれざるとによれり。是古人のいへる意なり。今の世の人も、亦かくの如く心得べし。
書き下し
一家のさかえ衰ふるは、家法の正しくなるを盛とし、家法のすたるを衰とす。富貴なりとて盛とすべからず、貧賤なりとて衰とすべからず。家の盛衰は、礼義の行はるると行はれざるとによれり。是古人のいへる意なり。今の世の人も、亦かくの如く心得べし。
現代語訳
家の栄えと衰えは、家の法が正しいのを盛りとし、家の法がすたれるのを衰えとします。富貴であるからといって盛りとしてはいけません。貧賤であるからといって衰えとしてはいけません。家の盛衰は、礼義が行われるか行われないかによります。これが古人の言ったことの意味です。今の世の人も、またこのように心得るべきです。
解説
家の盛衰を何ではかるかという問いに、益軒は財の多寡ではなく家法と礼義が行われているかどうかだと答えます。富んでいても家法が乱れていれば衰えつつあり、貧しくても礼義が行われていれば栄えている、というのです。前の巻で、三親が和さなければ富んでいても家はやせていると言ったのと同じ考えです。売上や資産だけで会社の健全さを判断できないのと同じで、家庭の豊かさも、そこで暮らす人の関係や規律の確かさで見るべきだという教えです。
この章句が説くこと
家盛衰礼義家法富
関連する章句
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『家道訓』巻之四・用財上一人もし富貴にして、たからを多く貯へもたば、是天より我一人にあつくし給ふにあらず、多く人をすくはしめんために、我にさづけたまふとおもひて、天命にしたがひて、つねに仁愛の心をもちて、貧苦なる人をめぐみ、飢饉する者をすくひて、善を行ふを以て楽とすべし。是天の御心にそむかざるなり。斯くのごとくならば、富貴なるかひありて、大なる楽なるべし。財を多くもちても、我が身ひとりの俸養におごり、人にほどこさずして善を行はざるは、無用の物なり。石瓦を多くもてるに同じ。かかる人を守銭虜と古人の云ひけんもむべなり。財をもてるかひなくして、貧賤の人と同じ。一財を用ふる道をしらで貧窮なれば、父母をやしなふにうすく、人に与ふべき物をあたへず、人を恵むことなりがたく、人のおひめをかへさず、廉恥の道行はれがたく、人の恵を受けてむくいず。官となりても、貧なれば民をむさぼりやすく、忠義をつとめがたし。礼義にそむき、心術に害あること、皆是困窮よりおこる。困窮は倹約ならざるよりおこれり。然る故に、倹約は家ををさむる要道なり。
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論語・季氏篇斉の景公、馬千駟有り。死するの日、民徳として称する無し。伯夷・叔斉、首陽の下に餓う。民今に到るまで之を称す。其れ斯を之謂うか。
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『武士道』第七章 至誠信實・富の道は名誉の道に非ず然るに聞く、米国の如き実業国に於てすら、実業家中、十の八は破産せざるなしと。されば士族の商業の能く成功したるもの、百人にして一人を算ふるも、亦た敢て驚くに足らず。要するに武士道の道義を商業に施さんと欲して、為に蕩尽したる財産の数量は、殆ど計るべからざるものあらん。識見ある士人の、直ちに富の道は名誉の道に非ざるを認めたるも、亦た宜なりと謂ふべし。この二者の道の由つて岐るる処は、果していづれにありや。レッキーがかつて誠実の誘因として挙げたる実業、政治、哲学の三者中、其一は武士道全く之を欠き、其二は封建制度の政治社会に在りて、殆ど此れが発達を見ること能はざりき。而して誠実信義の徳の、士林の道徳範囲に於て其重きをなすに至りたる所以は、其哲学的誘因に由れるものにして、即ちレッキーの所謂、至高の形態に於て発達したるものなり。
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論語・述而篇子曰く、富にして求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾も亦た之を為さん。如し求む可からずんば、吾が好む所に従わん。
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論語・学而篇子貢曰く、「貧しくして諂うこと無く、富みて驕ること無きは如何。」子曰く、「可なり。未だ貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好む者には若かざるなり。」子貢曰く、「詩に云う、『切するが如く、磋するが如く、琢するが如く、磨するが如し』と。其れ斯を之謂うか。」子曰く、「賜や、始めて与に詩を言う可きのみ。諸に往を告げて来を知る者なり。」
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徒然草・第217段ある大福長者の曰く、「人は万をさしおきて、一向に徳をつくべきなり。貧しくては生けるかひなし。富めるのみを人とす。徳をつかむとおもはば、すべからくまづその心づかひを修行すべし。その心といふは他の事にあらず。人間常住の思ひに住して、仮にも無常を観ずる事なかれ。これ第一の用心なり。次に万事の用をかなふべからず。人の世にある、自他につけて所願無量なり。欲に従ひて志を遂げむと思はば、百万の銭ありといふとも、しばらくも住すべからず。所願は止むときなし。財は尽くる期あり。かぎりある財をもちてかぎりなき願ひに従ふこと、得べからず。所願心に兆すことあらば、われを亡すべき悪念きたれりと、かたく慎みおそれて、小用をもなすべからず。次に、銭を奴の如くしてつかひ用ゐるものと知らば、長く貧苦を免るべからず。君の如く神のごとくおそれ尊みて、従へ用ゐることなかれ。次に恥にのぞむといふとも、怒り怨むる事なかれ。次に正直にして、約をかたくすべし。この義を守りて利をもとめむ人は、富の来ること、火の乾けるに就き、水の下れるに従ふが如くなるべし。銭つもりて尽きざるときは、宴飮声色を事とせず、居所をかざらず、所願を成ぜざれども、心とこしなへに安く楽し。」と申しき。そもそも人は所願を成ぜむがために財をもとむ。銭を財とする事は、願ひをかなふるが故なり。所願あれどもかなへず、銭あれども用ゐざらむは、全く貧者とおなじ。何をか楽しびとせむ。このおきてはたゞ人間の望みを絶ちて、貧を憂ふべからずと聞えたり。欲をなして楽しびとせむよりは、しかじ財なからむには。癰疽を病む者、水に洗ひて楽しびとせむよりは、病まざらむには如かじ。こゝに至りては、貧富分くところなし。究竟は理即にひとし。大欲は無欲に似たり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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