家道訓 / 巻之二・総論中
一富貴の家に、貧賤なる親戚の出入するは、主人の仁愛のあつきことあらはれて、其家の面目とすべし。かゝる人の來るを恥づべからず。一我が身の大事ありて、思慮決しがたきことあり、又おほやけに申すこと、皆思慮ある人に問ひはかり、其人の評論にしたがふべし。我が身のことは、私慾あるゆゑ、才ある人も心くらくなりて、善惡の理見えがたし。我が思慮する所、十分によしとおもへど、傍より見ればあしきこと多し。人の上のよきもあしきも、わきよりは明らかに見えやすし。碁をかこむものは、まよひて手見えず、かたはらより見る者は眼あるが如し。すべて人は、一世の內大事ありて、我が思案にていかゞせんと、獨り決定しがたき事多し。知慮ありてよく是非を分別する朋友を平生もとめて、常にしたしく交り、大事ある時、其の人の思慮をかり用ふべし。我が身、又は子弟などの身に大事あらば、われひとりはからひて、決定することなかれ。知慮ありて其の事をよく心得たらん人に問ひはかるべし。
新字:一富貴の家に、貧賤なる親戚の出入するは、主人の仁愛のあつきことあらはれて、其家の面目とすべし。かゝる人の来るを恥づべからず。一我が身の大事ありて、思慮決しがたきことあり、又おほやけに申すこと、皆思慮ある人に問ひはかり、其人の評論にしたがふべし。我が身のことは、私慾あるゆゑ、才ある人も心くらくなりて、善悪の理見えがたし。我が思慮する所、十分によしとおもへど、傍より見ればあしきこと多し。人の上のよきもあしきも、わきよりは明らかに見えやすし。碁をかこむものは、まよひて手見えず、かたはらより見る者は眼あるが如し。すべて人は、一世の内大事ありて、我が思案にていかゞせんと、独り決定しがたき事多し。知慮ありてよく是非を分別する朋友を平生もとめて、常にしたしく交り、大事ある時、其の人の思慮をかり用ふべし。我が身、又は子弟などの身に大事あらば、われひとりはからひて、決定することなかれ。知慮ありて其の事をよく心得たらん人に問ひはかるべし。
書き下し
一富貴の家に、貧賤なる親戚の出入するは、主人の仁愛のあつきことあらはれて、其家の面目とすべし。かかる人の来るを恥づべからず。一我が身の大事ありて、思慮決しがたきことあり、又おほやけに申すこと、皆思慮ある人に問ひはかり、其人の評論にしたがふべし。我が身のことは、私慾あるゆゑ、才ある人も心くらくなりて、善悪の理見えがたし。我が思慮する所、十分によしとおもへど、傍より見ればあしきこと多し。人の上のよきもあしきも、わきよりは明らかに見えやすし。碁をかこむものは、まよひて手見えず、かたはらより見る者は眼あるが如し。すべて人は、一世の内大事ありて、我が思案にていかがせんと、独り決定しがたき事多し。知慮ありてよく是非を分別する朋友を平生もとめて、常にしたしく交り、大事ある時、其の人の思慮をかり用ふべし。我が身、又は子弟などの身に大事あらば、われひとりはからひて、決定することなかれ。知慮ありて其の事をよく心得たらん人に問ひはかるべし。
現代語訳
富貴の家に貧賤な親戚が出入りするのは、主人の仁愛が厚いことが表れていて、その家の面目とすべきです。そのような人が来るのを恥じてはいけません。自分の身に大事があって思慮が決まりにくいこと、また公に申し出ることは、皆思慮のある人に問いはかって、その人の意見に従うべきです。自分の身のことは私欲があるので、才ある人でも心が暗くなって、善悪の理が見えにくいのです。自分が思慮したところを十分によいと思っても、傍らから見れば悪いことが多いのです。人の身の上のよいことも悪いことも、脇からは明らかに見えやすいものです。碁を打つ者は迷って手が見えず、傍らで見る者は目があるようなものです。すべて人は、一生の内に大事があって、自分の思案でどうしようかと独りでは決めにくいことが多いのです。知慮があってよく是非を分別する友を平生から求めて、常に親しく交わり、大事のときにその人の思慮を借りて用いるべきです。自分の身や子弟の身に大事があれば、自分一人ではからって決めてはいけません。知慮があってその事をよく心得ている人に問いはかるべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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