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家道訓 / 巻之二・総論中

一客をまねきて饗せば、只眞實に客の心にかなふをむねとすべし。かざるべからず。食品すくなくいさぎよくし、味をよくしてすゝむべし。酒をすゝむるに心得あるべし。多少は、のむ人の分量にしたがふべし。少し强ふるはよし。しひても猶辭せば、其心に任すべし。酒をこのんでのむ人にも、分量の多少あり。其量を知らずしてたらざるは害なし。みだりにしひ過して、人をくるしむべからず。大に醉ひぬれば、禮義を失ひ、亂に及ぶ。放言を發し病を生ず。古人酒を狂藥と名づけしことむべなり。酒をこのむ人はあながちに辭せず、大かたは、其の人の心にまかせたらんこそ、客の心にかなひて宜しかるべけれ。酒は以てよろこびを合すといへば、只人の心をよろこばしめ、興をやるほどにすゝむべし。

新字:一客をまねきて饗せば、只真実に客の心にかなふをむねとすべし。かざるべからず。食品すくなくいさぎよくし、味をよくしてすゝむべし。酒をすゝむるに心得あるべし。多少は、のむ人の分量にしたがふべし。少し強ふるはよし。しひても猶辞せば、其心に任すべし。酒をこのんでのむ人にも、分量の多少あり。其量を知らずしてたらざるは害なし。みだりにしひ過して、人をくるしむべからず。大に酔ひぬれば、礼義を失ひ、乱に及ぶ。放言を発し病を生ず。古人酒を狂薬と名づけしことむべなり。酒をこのむ人はあながちに辞せず、大かたは、其の人の心にまかせたらんこそ、客の心にかなひて宜しかるべけれ。酒は以てよろこびを合すといへば、只人の心をよろこばしめ、興をやるほどにすゝむべし。

書き下し

一客をまねきて饗せば、只真実に客の心にかなふをむねとすべし。かざるべからず。食品すくなくいさぎよくし、味をよくしてすすむべし。酒をすすむるに心得あるべし。多少は、のむ人の分量にしたがふべし。少し強ふるはよし。しひても猶辞せば、其心に任すべし。酒をこのんでのむ人にも、分量の多少あり。其量を知らずしてたらざるは害なし。みだりにしひ過して、人をくるしむべからず。大に酔ひぬれば、礼義を失ひ、乱に及ぶ。放言を発し病を生ず。古人酒を狂薬と名づけしことむべなり。酒をこのむ人はあながちに辞せず、大かたは、其の人の心にまかせたらんこそ、客の心にかなひて宜しかるべけれ。酒は以てよろこびを合すといへば、只人の心をよろこばしめ、興をやるほどにすすむべし。

現代語訳

客を招いてもてなすなら、ただ真心で客の心にかなうことを旨とすべきです。飾ってはいけません。料理の品数は少なく清らかにし、味をよくして勧めるべきです。酒を勧めるには心得があるべきです。量の多少は、飲む人の分量に従うべきです。少し強いるのはよいのです。強いてもなお辞退するなら、その心に任せるべきです。酒を好んで飲む人にも、分量の多少があります。その量を知らずに足りないのは害がありません。むやみに強いすぎて人を苦しめてはいけません。大いに酔えば、礼儀を失って乱れに及びます。放言を発し、病を生じます。古人が酒を狂薬と名づけたのはもっともです。酒を好む人は無理に辞退しませんが、たいていはその人の心に任せておくのが、客の心にかなってよいでしょう。酒は喜びを合わせるものといわれるので、ただ人の心を喜ばせ、興を添えるほどに勧めるべきです。

解説

客をもてなすときは見栄を張らず、品数は少なくても清潔でおいしい料理を真心で出すのがよいと言います。酒については、相手の量に合わせ、少し勧めても断られたら無理強いせず、酔わせすぎないことを説きます。酒を狂薬と呼んだ古人の言葉にも触れ、酒は人の心を喜ばせ興を添えるほどでよいとします。飲酒の強要が問題視される今から見ても、益軒の心得は驚くほど現代的です。もてなしの目的は相手を喜ばせることで、自分の体面を保つことではないという基本に立ち返らせてくれます。

この章句が説くこと

もてなし酒真心礼節度

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