家道訓 / 巻之一・総論上
一子をそだつるには、おごりとほしいまゝなるをはやくいましむべし。衣服器用以下、萬の俸養、わが身の俸祿よりかろくうすく、ばうぞくなるべし。愛を過して、物ごとにゆたかに華美なるは、是子におごりを敎ふるなり。いとけなき時よりおごれば、年長じてますます甚し。はじめゆたかにして、後におさゆるはあしし。始めかゞみて、後にやうやくのぶるはよし。いとけなきよりいましめて、僞なくして誠を本とす。よろづの事、質朴にすべし。又おこたりわがまゝなるをはやくいましめて、へりくだりゆづる事ををしふべし。子をそだつるに、はやくをしふると、左右の人をえらぶとにありといへるは、賈誼が名言なり。此の二に心を用ふべし。はやくをしへざれば惡にうつりやすし。附きしたがふ人あしければ、あしき事を見聞きて、一生のわざはひとなる。幼よりあしき事を見聞しては、先入の言主となり、後に善事を見聞きてもうつらず。あしき癖つきては、後にならひとなりて改りがたし。
新字:一子をそだつるには、おごりとほしいまゝなるをはやくいましむべし。衣服器用以下、万の俸養、わが身の俸禄よりかろくうすく、ばうぞくなるべし。愛を過して、物ごとにゆたかに華美なるは、是子におごりを教ふるなり。いとけなき時よりおごれば、年長じてますます甚し。はじめゆたかにして、後におさゆるはあしし。始めかゞみて、後にやうやくのぶるはよし。いとけなきよりいましめて、偽なくして誠を本とす。よろづの事、質朴にすべし。又おこたりわがまゝなるをはやくいましめて、へりくだりゆづる事ををしふべし。子をそだつるに、はやくをしふると、左右の人をえらぶとにありといへるは、賈誼が名言なり。此の二に心を用ふべし。はやくをしへざれば悪にうつりやすし。附きしたがふ人あしければ、あしき事を見聞きて、一生のわざはひとなる。幼よりあしき事を見聞しては、先入の言主となり、後に善事を見聞きてもうつらず。あしき癖つきては、後にならひとなりて改りがたし。
書き下し
一子をそだつるには、おごりとほしいままなるをはやくいましむべし。衣服器用以下、万の俸養、わが身の俸禄よりかろくうすく、ばうぞくなるべし。愛を過して、物ごとにゆたかに華美なるは、是子におごりを教ふるなり。いとけなき時よりおごれば、年長じてますます甚し。はじめゆたかにして、後におさゆるはあしし。始めかがみて、後にやうやくのぶるはよし。いとけなきよりいましめて、偽なくして誠を本とす。よろづの事、質朴にすべし。又おこたりわがままなるをはやくいましめて、へりくだりゆづる事ををしふべし。子をそだつるに、はやくをしふると、左右の人をえらぶとにありといへるは、賈誼が名言なり。此の二に心を用ふべし。はやくをしへざれば悪にうつりやすし。附きしたがふ人あしければ、あしき事を見聞きて、一生のわざはひとなる。幼よりあしき事を見聞しては、先入の言主となり、後に善事を見聞きてもうつらず。あしき癖つきては、後にならひとなりて改りがたし。
現代語訳
子を育てるには、おごりとわがままを早く戒めるべきです。衣服や器物をはじめ、あらゆる身の回りの養いは、自分の身の俸禄より軽く薄く、質素にすべきです。愛しすぎて何事も豊かで華美にするのは、子におごりを教えるのです。幼いときからおごれば、年長じてますますひどくなります。初めに豊かにして後で抑えるのは悪く、初めに縮めておいて後にだんだん伸ばすのはよいのです。幼いときから戒めて、偽りなく誠を本とさせます。万事質朴にすべきです。また怠けやわがままを早く戒めて、へりくだり譲ることを教えるべきです。「子を育てるのは、早く教えることと、そばに付く人を選ぶことにある」というのは賈誼の名言です。この二つに心を用いるべきです。早く教えなければ悪に移りやすいのです。付き従う人が悪ければ、悪いことを見聞きして一生の災いとなります。幼いときから悪いことを見聞きすると、先に入った言葉が主となって、後に善いことを見聞きしても移りません。悪い癖がつくと、後に習い性となって改めにくいのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『家道訓』巻之一・総論上一子弟のいとけなき年より、よき師をえらび求めて、はやく聖賢の書を読ませ、善ををしへ悪をいましめ、孝弟忠信礼義廉恥の道を知らしめ、行はしむべし。かりそめにも、悪しき友に交らしむべからず。是第一にいましむべし。あしき事、見聞かしむべからず。いとけなき時は、殊に悪しき事は早くうつりやすし。よき事もあしき事も、先入の言はやく主となる。よき友を求めてまじはらしめ、よき事を見聞かしむべし。善悪皆習ひ馴るるよりうつりやすし。習ひ馴るる事つつしむべし。
-
『和俗童子訓』巻之一・総論上一小児の時より、早く父母兄長に事へ、賓客に対して、礼を勤め、読書、手習、芸能を勤めまなびて、悪しき方に移るべきいとまなく苦労さすべし。はかなき遊にひまを費さしめて、ならはし悪しくすべからず。衣服、飲食、器物、居処、僕従に至るまで、其家の位よりまどしくばうそくにして、もてなしうすく、心のままならざるがよし。幼き時艱難に習へば、年たけて難苦に堪へやすく、忠孝の勤を苦まず、病少なく驕なくして、放逸ならず。能く家を保ちて、一生の間、幸となり、後の楽多し。もし不意の変にあひ、貧窮に至り、或は戦場に出でても、身の苦なし。斯の如く子を育つるは、誠によく子を愛するなり。又幼少より養豊かにして、もてなしあつく、心のままにして安楽なれば、おごりにならひ、私慾多くして、病多く、艱難に堪へず、父母に事へ君に仕ふるに、勤を苦みて、忠孝も行ひ難く、学問芸能の勤成り難し。
-
『和俗童子訓』巻之一・総論上一凡小児を育つるには、始て生れたる時、乳母を求むるに、必温和にして慎み、まめやかに詞少き者をえらぶべし。乳母の外、附き随ふ者をえらぶも、大やう斯の如くなるべし。始て飯を喰ひ、ものを言ひ、人の面を見て悦びいかる心を知る時より、常に其事に随ひて、時々教ふれば、ややおとなしく成りて、いましむる事易し。故に幼き時より、早く教ふべし。もし教へいましむる事おそくして、悪しき事をおほく見習ひ聞習ひ、くせになり僻事出来て後、教へいましむれども、始より心にそみ入りたる悪しき事、心の内に早くあるじとなりぬれば、あらためて善に移ること難し。たとへば小児の手習するに、始風体あしき手本を習へば、後に能き手をならひても移り難く、生改め難きがごとし。
-
『和俗童子訓』巻之一・総論上一凡小児の教は早くすべし。然るに凡俗の智なき人は、小児を早く教ふれば、気くじけてあしし、唯其心に任せて置くべし、後に智恵出来れば、ひとりよくなると言ふ。これ必愚なる人の言ふことなり。此言大なる妨なり。古人は、小児のはじめて能く食し、ものいふ時より、早く教ふ。遅く教ふれば、悪しき事を久しく見聞きて、先入の言、心の内に早く主となりては、後に善き事を教ふれどもうつらず。故に早く教ふれば入り易し。常に善き事を見せしめ聞かしめて、善き事にそみ習はしむべし。おのづから善にすすみやすし。悪しき事も、少しなる時早くいましむれば、去り易し、悪長じては、去り難し。古語に、両葉去らずんば将に斧柯を用ひんとすといへるがことし。婦人及び無学の俗人は、小児を愛する道を知らず、姑息のみにして、唯うまきものを多く食はせ、よき衣をあたたかに著せ、ほしいままに育つるをのみ、其子を愛すると思へり。
-
『益軒家訓』幼児須教一凡小児を教へ育つるに、始て飯を食ひ、初てものいひ、扨人の面を見て悦び怒る色を知る程より、常に絶間なく教ふれば、ややおとなしくなりて、誡むる事なくやすし。故に小児は早く教ふべし。教へ誡むる事遅くして、悪癖に成ては、改むる事なり難し。悪事多く聞馴れぬれば、後には善事を教へても移らず、偽れる事、驕り肆なる事を早くいましめて、必ゆるすべからず。幼より人を欺きいつはる事を、つよく咎むべし。又幼子をあざむきて、偽を教ふべからず。大やう小児の悪しくなりぬるは、父母乳母傅き馴るる人の、教の道知らで、其子の本性をそこなへる故なり。暫啼声を止めんとて、此を得さすべし、彼を与ふべしなどと賺して、誠なき事なれば、即是偽を教ふるなり。
-
『和俗童子訓』巻之一・総論上第一いつはれる事、次に気随にてほしいままなる事を、早くいましめて、必いつはり恣なる事をゆるすべからず。やんごとなき大家の子は、殊に早くいましめ教へざれば、年長じては、勢強く位高くして、諫め難し。凡小児のあしくなりぬるは、父母乳母かしづきなるる人の、教の道知らずして、其あしき事をゆるし、したがひほめて、其子の本性を害ふ故なり。或は暫く泣く声を止めんとて、あざむきすかして、姑息の愛をなす。其事誠ならざれば、則是偽を教ふるなり。又たはぶれに恐しき事どもを云聞かせ、よりよりおどしいるれば、後に臆病の癖となる。武士の子は、殊に是をいましむべし。幽霊、ばけもの、怪く誠なき物語、必いましめて聞かしむべからず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る