十善法語 / 巻第五・不綺語戒
ヨク交易スル者ハ。財利善根ト共ニ成スル。上君ニ事ル。父母ニ事フル。下妻子眷屬ノ惠ミ。子孫ノ教導。ミナ此中ニ立ルシヤ。大人言ヲ寄ス。僕從奔走ス。時ニ當テハ枯骨ニ皮肉ヲ生スル。大抵如法ニ得。如法ニ積テ如法ニ用レハ。商賈タル者ノ天命全キシヤ。四分ノ一ヲ貯ヘ守ルハ。佛說ノアル處シヤ。支那ニ陶朱公カ越ニ功ヲ成シテ。ソノ位ニ居ラス。齊ニ往キ。陶ニ住テ。家ニ萬金ヲ累ネ。隣里鄕黨ヲ賑ハス。聖教ノ中ニハ。鼠金長者カ亡父ノ命ヲ守テ家ヲ興ス。圓滿長者カ兄ノ家ヲ富シテ。後出家セシ。須達長者善生長者ノ類財ヲ以テ無上道ノ基本トナス。ミナ面白カルベキコトシヤ。此財アツテ此樂アルハ。絲竹管絃ノ及トコロ。狂言綺語ノ及トコロニハアルマシキシヤ。
新字:ヨク交易スル者ハ。財利善根ト共ニ成スル。上君ニ事ル。父母ニ事フル。下妻子眷属ノ恵ミ。子孫ノ教導。ミナ此中ニ立ルシヤ。大人言ヲ寄ス。僕従奔走ス。時ニ当テハ枯骨ニ皮肉ヲ生スル。大抵如法ニ得。如法ニ積テ如法ニ用レハ。商賈タル者ノ天命全キシヤ。四分ノ一ヲ貯ヘ守ルハ。仏説ノアル処シヤ。支那ニ陶朱公カ越ニ功ヲ成シテ。ソノ位ニ居ラス。斉ニ往キ。陶ニ住テ。家ニ万金ヲ累ネ。隣里郷党ヲ賑ハス。聖教ノ中ニハ。鼠金長者カ亡父ノ命ヲ守テ家ヲ興ス。円満長者カ兄ノ家ヲ富シテ。後出家セシ。須達長者善生長者ノ類財ヲ以テ無上道ノ基本トナス。ミナ面白カルベキコトシヤ。此財アツテ此楽アルハ。糸竹管絃ノ及トコロ。狂言綺語ノ及トコロニハアルマシキシヤ。
書き下し
ヨク交易スル者ハ。財利善根ト共ニ成スル。上君ニ事ル。父母ニ事フル。下妻子眷属ノ恵ミ。子孫ノ教導。ミナ此中ニ立ルシヤ。大人言ヲ寄ス。僕従奔走ス。時ニ当テハ枯骨ニ皮肉ヲ生スル。大抵如法ニ得。如法ニ積テ如法ニ用レハ。商賈タル者ノ天命全キシヤ。四分ノ一ヲ貯ヘ守ルハ。仏説ノアル処シヤ。支那ニ陶朱公カ越ニ功ヲ成シテ。ソノ位ニ居ラス。斉ニ往キ。陶ニ住テ。家ニ万金ヲ累ネ。隣里郷党ヲ賑ハス。聖教ノ中ニハ。鼠金長者カ亡父ノ命ヲ守テ家ヲ興ス。円満長者カ兄ノ家ヲ富シテ。後出家セシ。須達長者善生長者ノ類財ヲ以テ無上道ノ基本トナス。ミナ面白カルベキコトシヤ。此財アツテ此楽アルハ。糸竹管絃ノ及トコロ。狂言綺語ノ及トコロニハアルマシキシヤ。
現代語訳
よく交易する者は、財利と善根をともに成就する。上は君に仕え、父母に仕える。下は妻子や眷属への恵み、子孫の教え導き、みなこの中に成り立つのである。大人が言葉を寄せ、従者が奔走する。時に当たっては、枯れた骨に皮と肉を生じさせる(困窮する者を救う)。おおよそ法にかなって得て、法にかなって積み、法にかなって用いれば、商人である者の天命は全うされるのである。四分の一を蓄え守るのは、仏説のあるところである。中国では陶朱公(范蠡)が越で功を成し遂げて、その位に居座らず、斉に行き、陶に住んで、家に万金を重ね、隣近所や郷里を賑わした。聖教の中では、鼠金長者が亡き父の遺命を守って家を興した。円満長者が兄の家を富ませて、後に出家した。須達長者や善生長者の類は、財をもって無上道の基とした。みな面白いはずのことである。この財があってこの楽しみがあるのは、糸竹管絃の及ぶところ、狂言綺語の及ぶところにはないはずである。
解説

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万民徳用・商人日用・答前半答て云はく、売買をせん人は、先つ得利の增すべき心つかひを修行すべし、その心遣と云ふは、他の事にあらず、身命を天道に抛て、一筋に正直に道を学ぶへし。正直の人には、諸天のめぐみふかく、仏陀神明の加護有りて、災難を除き、自然に福をまし、衆人愛敬浅からずして、万事心に叶ふべし。私欲を専として、自他を隔て、人をぬきて得利を思ふ人には、天道のたゝりありて、禍をまし、万民のにくみをうけ、衆人愛敬なくして、万事心に叶ふへからす。貴賤上下、貧福得失、命の長短、皆是れ先世の因果なり。私に名聞利養を願ふとも、更にゆるし有るべからす。結句三悪道の業增長して、天道に背き、必すその科を蒙るへし。是れを恐れ慎みて、私欲の念をすて、此の売買の作業は、国中の自由をなさしむへき役人に、天道よりあたへたまふ所也と思ひ定めて、此の身は天道に任て、得利を思ふ念を休め、正直の旨を守て商せんには、火のかばけるにつき、水の下れるに随てなかるゝかごとく、天の福相応して、万事心に叶ふべし。然りと雖も、福徳を得て悦ぶべきにあらず、有漏の善根、無漏の善根といふ事あり。此の夢幻泡影の世界生滅の宝なき身を宝と定めて、常住の念はなれず、世界に専ら執着の念有りて善を行ふを、有漏の善根と名付けたり。有漏善は、福徳の因縁なり。有漏善を行ひて、高位福人と成りて、楽至極するとも、ろの因尽くる時節有りて、必す悪道に入るなり。