十善法語 / 巻第四・不妄語戒
世ニ富饒ナル者ハ妄語少キシヤ。若富家カ信ヲ失ヘハ。家ノ衰兆トナル。家ノ災害トナル。陶朱公ノ長子カ楚ニ往テ莊生ニ見テ。弟ノ命ヲ請ニ。初ニ千金ヲ贈トス。後國ニ大赦ノ行ルルヲ聞テ。再ヒ莊生カ舍ニ至ル。其金ヲ惜ム色アリ。莊生ソノ金ヲ還ス。終ニ弟カ刑ニ就タシヤ。此等ヲ以テ知レ。不妄語ハ富饒ノ家ニ相應スルシヤ。貧人傭力ノ類ハ妄語ヲ耻ヌ者モ多ク。亦其イチシルシキ害モ少キシヤ。タトヒ貧人モ眞實語ノ者。一分ノ富饒ノ德有ト云ヘキシヤ。
新字:世ニ富饒ナル者ハ妄語少キシヤ。若富家カ信ヲ失ヘハ。家ノ衰兆トナル。家ノ災害トナル。陶朱公ノ長子カ楚ニ往テ荘生ニ見テ。弟ノ命ヲ請ニ。初ニ千金ヲ贈トス。後国ニ大赦ノ行ルルヲ聞テ。再ヒ荘生カ舎ニ至ル。其金ヲ惜ム色アリ。荘生ソノ金ヲ還ス。終ニ弟カ刑ニ就タシヤ。此等ヲ以テ知レ。不妄語ハ富饒ノ家ニ相応スルシヤ。貧人傭力ノ類ハ妄語ヲ耻ヌ者モ多ク。亦其イチシルシキ害モ少キシヤ。タトヒ貧人モ真実語ノ者。一分ノ富饒ノ徳有ト云ヘキシヤ。
書き下し
世ニ富饒ナル者ハ妄語少キシヤ。若富家カ信ヲ失ヘハ。家ノ衰兆トナル。家ノ災害トナル。陶朱公ノ長子カ楚ニ往テ荘生ニ見テ。弟ノ命ヲ請ニ。初ニ千金ヲ贈トス。後国ニ大赦ノ行ルルヲ聞テ。再ヒ荘生カ舎ニ至ル。其金ヲ惜ム色アリ。荘生ソノ金ヲ還ス。終ニ弟カ刑ニ就タシヤ。此等ヲ以テ知レ。不妄語ハ富饒ノ家ニ相応スルシヤ。貧人傭力ノ類ハ妄語ヲ耻ヌ者モ多ク。亦其イチシルシキ害モ少キシヤ。タトヒ貧人モ真実語ノ者。一分ノ富饒ノ徳有ト云ヘキシヤ。
現代語訳
世に富み栄える者は妄語が少ないのである。もし富んだ家が信を失えば、家の衰える兆しとなり、家の災いとなる。陶朱公の長男が楚に行って荘生に会い、弟の命乞いをした時、初めに千金を贈った。後に国に大赦が行われると聞いて、再び荘生の家に行った。その金を惜しむ様子があった。荘生はその金を返し、ついに弟は刑に就いたのである。これらによって知りなさい。不妄語は富み栄える家に相応するのである。貧しい人や雇われの力仕事をする類は、妄語を恥じない者も多く、またその著しい害も少ないのである。たとえ貧しい人でも真実の言葉の者は、一分の富み栄える徳があると言うべきである。
解説
この章句が説くこと
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『武士道』第七章 至誠信實・富の道は名誉の道に非ず然るに聞く、米国の如き実業国に於てすら、実業家中、十の八は破産せざるなしと。されば士族の商業の能く成功したるもの、百人にして一人を算ふるも、亦た敢て驚くに足らず。要するに武士道の道義を商業に施さんと欲して、為に蕩尽したる財産の数量は、殆ど計るべからざるものあらん。識見ある士人の、直ちに富の道は名誉の道に非ざるを認めたるも、亦た宜なりと謂ふべし。この二者の道の由つて岐るる処は、果していづれにありや。レッキーがかつて誠実の誘因として挙げたる実業、政治、哲学の三者中、其一は武士道全く之を欠き、其二は封建制度の政治社会に在りて、殆ど此れが発達を見ること能はざりき。而して誠実信義の徳の、士林の道徳範囲に於て其重きをなすに至りたる所以は、其哲学的誘因に由れるものにして、即ちレッキーの所謂、至高の形態に於て発達したるものなり。
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論語・季氏篇斉の景公、馬千駟有り。死するの日、民徳として称する無し。伯夷・叔斉、首陽の下に餓う。民今に到るまで之を称す。其れ斯を之謂うか。
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論語・述而篇子曰く、富にして求む可くんば、執鞭の士と雖も、吾も亦た之を為さん。如し求む可からずんば、吾が好む所に従わん。
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論語・学而篇子貢曰く、「貧しくして諂うこと無く、富みて驕ること無きは如何。」子曰く、「可なり。未だ貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好む者には若かざるなり。」子貢曰く、「詩に云う、『切するが如く、磋するが如く、琢するが如く、磨するが如し』と。其れ斯を之謂うか。」子曰く、「賜や、始めて与に詩を言う可きのみ。諸に往を告げて来を知る者なり。」
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徒然草・第217段ある大福長者の曰く、「人は万をさしおきて、一向に徳をつくべきなり。貧しくては生けるかひなし。富めるのみを人とす。徳をつかむとおもはば、すべからくまづその心づかひを修行すべし。その心といふは他の事にあらず。人間常住の思ひに住して、仮にも無常を観ずる事なかれ。これ第一の用心なり。次に万事の用をかなふべからず。人の世にある、自他につけて所願無量なり。欲に従ひて志を遂げむと思はば、百万の銭ありといふとも、しばらくも住すべからず。所願は止むときなし。財は尽くる期あり。かぎりある財をもちてかぎりなき願ひに従ふこと、得べからず。所願心に兆すことあらば、われを亡すべき悪念きたれりと、かたく慎みおそれて、小用をもなすべからず。次に、銭を奴の如くしてつかひ用ゐるものと知らば、長く貧苦を免るべからず。君の如く神のごとくおそれ尊みて、従へ用ゐることなかれ。次に恥にのぞむといふとも、怒り怨むる事なかれ。次に正直にして、約をかたくすべし。この義を守りて利をもとめむ人は、富の来ること、火の乾けるに就き、水の下れるに従ふが如くなるべし。銭つもりて尽きざるときは、宴飮声色を事とせず、居所をかざらず、所願を成ぜざれども、心とこしなへに安く楽し。」と申しき。そもそも人は所願を成ぜむがために財をもとむ。銭を財とする事は、願ひをかなふるが故なり。所願あれどもかなへず、銭あれども用ゐざらむは、全く貧者とおなじ。何をか楽しびとせむ。このおきてはたゞ人間の望みを絶ちて、貧を憂ふべからずと聞えたり。欲をなして楽しびとせむよりは、しかじ財なからむには。癰疽を病む者、水に洗ひて楽しびとせむよりは、病まざらむには如かじ。こゝに至りては、貧富分くところなし。究竟は理即にひとし。大欲は無欲に似たり。
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