十八史略 / 『十八史略』宋・太祖・雪の夜、太祖が趙普を訪ねる
自即位或微行幸功臣之家不可側趙普每退朝不敢脫衣冠一夕大雪普意上不復出矣久之聞叩門聲異甚亟出則上立雪中普惶恐迎拜即普堂設重裀地坐熾炭燒肉普妻行酒上以嫂呼之普從容問曰夜久寒甚陛下何以出上曰吾睡不能著一榻之外皆他人家也故來見卿普曰陛下少天下邪南征北伐此其時也願聞成算所向上曰吾欲取太原普默然良久曰非臣所知也太原當西北二邊使一舉而下邊患我獨當之何不姑留以俟削平諸國彼彈丸黑子之地將何所逃上笑曰吾意正爾姑試卿耳
新字:自即位或微行幸功臣之家不可側趙普毎退朝不敢脱衣冠一夕大雪普意上不復出矣久之聞叩門声異甚亟出則上立雪中普惶恐迎拝即普堂設重裀地坐熾炭焼肉普妻行酒上以嫂呼之普従容問曰夜久寒甚陛下何以出上曰吾睡不能著一榻之外皆他人家也故来見卿普曰陛下少天下邪南征北伐此其時也願聞成算所向上曰吾欲取太原普黙然良久曰非臣所知也太原当西北二辺使一舉而下辺患我独当之何不姑留以俟削平諸国彼弾丸黒子之地将何所逃上笑曰吾意正爾姑試卿耳
書き下し
即位してより、或いは微行して功臣の家に幸す。測るべからず。趙普、朝より退くごとに、敢えて衣冠を脱せず。一夕、大いに雪ふる。普、上は復た出でじと意う。久しくして、門を叩く声の異なるを聞く。甚だ亟かに出ずれば、則ち上、雪中に立つ。普、惶恐して迎え拝す。即ち普の堂に重裀を設け、地に坐し、炭を熾して肉を焼く。普の妻、酒を行る。上、嫂を以て之を呼ぶ。普、従容として問いて曰く、夜久しく寒さ甚だし。陛下何を以て出ずるや、と。上曰く、吾、睡りて著く能わず。一榻の外は、皆他人の家なり。故に来りて卿に見ゆ、と。普曰く、陛下、天下を少しとせんか。南征北伐、此れ其の時なり。願わくは成算の向かう所を聞かん、と。上曰く、吾、太原を取らんと欲す、と。普、黙然たること良や久しくして曰く、臣の知る所に非ざるなり。太原は西北の二辺に当たる。一挙にして下さば、辺患、我れ独り之に当たらん。何ぞ姑く留めて、以て諸国を削平するを俟たざる。彼の弾丸黒子の地、将に何れの所にか逃れんとする、と。上笑いて曰く、吾が意、正に爾り。姑く卿を試みしのみ、と。
現代語訳
即位してから、皇帝は、ときにお忍びで功臣の家を訪ねました。いつ来るか測れません。趙普は、朝廷から退くたびに、冠や衣服を脱ぐことをしませんでした。ある夜、大雪になりました。趙普は、皇帝はもう出てこないだろうと思いました。しばらくして、門を叩く尋常でない音が聞こえました。急いで出てみると、皇帝が雪の中に立っています。趙普は恐れ入って迎え、拝礼しました。そこで趙普の家の堂に厚い敷物を重ねて地面に座り、炭火をおこして肉を焼きました。趙普の妻が酒をついでまわり、皇帝は「義姉上」と呼びました。趙普は落ち着いて尋ねました。「夜も更けて寒さが厳しいのに、陛下はどうしてお出ましになったのですか」。皇帝は言いました。「眠れないのだ。寝台のほかは、すべて他人の家だからな。それでお前に会いに来た」。趙普は言いました。「陛下は、天下を小さいとお思いですか。南への遠征も北への討伐も、今がその時です。どのような見通しをお持ちか、うかがいたく思います」。皇帝は言いました。「私は太原を取りたい」。趙普はしばらく黙り込み、やがて言いました。「それは私の知るところではありません。太原は西北の二つの辺境を受け止める位置にあります。一挙に下せば、辺境の憂いを私たちだけが背負うことになります。どうしてしばらく残しておき、諸国を平らげてからにしないのでしょうか。あのような小さな地は、どこへ逃げましょうか」。皇帝は笑って言いました。「私の考えもまさにそのとおりだ。しばらく、お前を試してみただけだ」。
解説

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『宋名臣言行録』前集巻一・趙普太祖即位の初め、數々㣲行して以て人情を偵伺す。或いは功臣の家を過ぐること測る可からず。普、退朝する毎に敢えて衣冠を脱がず。一日大雪、夜に向かう。普、帝復た出でざらんと謂う。乆しくして叩門の聲を聞く。普亟かに出づれば、帝風雪の中に立つ。普惶懼して迎え拜す。帝曰く、巳に晉王と約せりと。已にして太宗至る。共に普の堂中に於て重䄄を設け、地に坐し、炭を熾んにして肉を燒く。普の妻酒を行る。帝、嫂を以て之を呼ぶ。普從容として問いて曰く、夜乆しく寒甚だし。陛下何を以て出づるや。帝曰く、吾れ睡りて著く能わず。一榻の外は皆な它人の家なればなり。故に來りて卿を見ると。普曰く、陛下天下を小とするや。南征北伐、今其の時なり。願わくは成算の向かう所を聞かん。帝曰く、吾れ太原を下さんと欲すと。普黙然たること乆しくして曰く、臣の知る所に非ざるなりと。帝其の故を問う。普曰く、太原は西北二邉に當たる。一舉して之を下さしめば、則ち二邉の患い、我れ獨り之に當たらん。何ぞ姑く留めて、以て諸國を削平するを俟たざる。則ち彈丸黒子の地、將に逃るる所無からんとす。帝笑いて曰く、吾が意正に此くの如し。特だ卿を試みるのみと。遂に江南を下すの議を定む。帝曰く、王全斌蜀を平らげて人を殺すこと多し。吾れ今之を思うに猶お耿耿たり。用う可からざるなりと。普是に於て曹彬を薦めて將と為し、潘美を以て之に副えしむ。
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十八史略・『十八史略』宋・太祖・太祖、宿将の兵権を解く上、既に筠・重進を誅し、枢密直学士趙普を召して問いて曰く、吾、天下の兵を息め、国家長久の計を為さんと欲す。其の道、何如、と。普、謂う、唐季より以来、帝主数しば易わるは、節鎮太だ重く、君弱く臣強きに由るのみ。今、稍や其の権を奪い、其の銭穀を制し、其の精兵を収むるに若くは莫し。則ち天下自ら安からん、と。又言う、殿前の帥石守信等は、皆統御の才に非ず。宜しく他職を授くべし、と。上悟り、守信等を召して宴す。酣にして左右を屏け、謂いて曰く、我、爾が曹の力に非ざれば此に至らず。然れども終夕、未だ嘗て枕を安んぜざるなり。此の位に居る者、誰か之を為さんと欲せざらん、と。守信等頓首して曰く、陛下何為れぞ此の言を出だす。天命已に定まる。誰か敢えて異心有らん、と。上曰く、汝が曹、異心無しと雖も、麾下の人の富貴を欲する如きは、一旦、黄袍を以て汝の身に加えなば、為さざらんと欲すと雖も、其れ得べけんや、と。皆頓首して泣きて曰く、臣等愚にして此に及ばず。惟だ陛下、哀矜して生くべきの途を指示せよ、と。上曰く、人生は白駒の隙を過ぐるが如し。好んで富貴する所の者は、金銭を多く積み、厚く自ら娯楽し、子孫をして貧乏無からしめんと欲するに過ぎざるのみ。汝が曹、何ぞ兵権を釈き去り、出でて大藩を守り、便好の田宅を択びて子孫の為に計り、多く歌童舞女を置き、日びに酒を飲みて相安んぜざる。亦た善からずや、と。皆拝謝して曰く、陛下、臣等を念うこと此に至る。謂う所の死を生かし骨に肉づくるなり、と。明日、皆疾と称して罷めんことを請う。
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『智囊』遠猶・宋太祖初め、太祖、趙普に謂いて曰く、「唐季より以来数十年、帝王は凡そ十たび姓を易え、兵革息まず。其の故は何ぞや」と。普曰く、「節鎮太だ重く、君弱く臣強きに由る。今、唯だ稍や其の権を奪い、其の銭穀を制し、其の精兵を収めば、則ち天下自ずから安らかならん」と。語未だ畢わらざるに、上曰く、「卿、言う勿かれ。我已に諭れり」と。〔辺批、聡明〕頃之くして、上は故人の石守信らと飲む。酒酣にして、左右を屏け、謂いて曰く、「我は爾曹の力に非ずんば、此に至るを得ず。汝が徳を念うこと、窮まり有る無し。然れども天子と為るも亦た大いに艱難にして、殊に節度使たるの楽しみに若かず。吾、今、終夕未だ嘗て枕を安んじて臥せず」と。守信ら曰く、「何の故ぞ」と。上曰く、「是れ知り難からず。此の位に居る者、誰か之を為さんと欲せざらん」と。守信ら皆な惶恐して頓首し、曰く、「陛下、何為れぞ此の言を出だす」と。上曰く、「然らず。汝が曹、心無しと雖も、其の麾下の人の富貴を欲するを如何せん。
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『宋名臣言行録』前集巻一・趙普語未だ畢らざるに、上曰く、卿復た言う勿かれ、吾れ已に諭れりと。頃くして上、晚朝に因りて故人の石守信・王審琦等と飲む。酒酣にして、上左右を屏けて謂いて曰く、我れ爾曹の力に非ずんば、此に至るを得ず。汝の徳を念うこと窮まり已む無し。然れども天子為るも亦た大いに艱難にして、殊に節度使為るの樂しみに若かず。吾れ今、終夕未だ嘗て敢えて安んじて枕して卧せざるなり。守信等皆な曰く、何の故ぞ。上曰く、是れ知り難からず。此の位に居る者、誰か之を為さんと欲せざらん。守信等皆な惶恐頓首して曰く、陛下何為れぞ此の言を出だす。今、天命已に定まる。誰か敢えて異心有らん。上曰く、然らず。汝曹心無しと雖も、其れ汝が麾下の人、富貴を欲する者を如何せん。一旦、黄袍を以て汝が身に加えば、汝為さざらんと欲すと雖も、得可からざるなり。皆な頓首涕泣して曰く、臣等愚かにして此に及ばず。惟だ陛下哀憐して、生く可きの塗を指示せよ。上曰く、人生は白駒の隙を過ぐるが如し。好んで富貴を為す所以の者は、多く金錢を積み、厚く自ら娱樂し、子孫をして貧乏無からしめんと欲するに過ぎざるのみ。汝曹何ぞ兵權を釋き去り、便好の田宅を擇びて之を市い、子孫の為に永久の業を立て、多く歌兒舞女を置き、日々に酒を飲みて相い歡び、以て其の天年を終えざる。君臣の間、兩つながら猜嫌無く、上下相い安んずるは、亦た善からずや。皆な再拜謝して曰く、陛下臣を念うこと此に及ぶは、所謂る死を生かして骨を肉づくるなり。明日皆な疾と稱して軍權を解かんことを請う。上之を許す。皆な散官を以て第に就く。慰撫賜賚する所以の者甚だ厚く、與に婚姻を結び、更めて制し易き者を置きて親軍を主らしむ。其の後又た轉運使・通判を置きて諸道の錢榖を主らしめ、天下の精兵を收選して以て宿衛に備う。而して諸功臣も亦た善終を以てし、子孫富貴にして、今に迄るまで絶えず。
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『宋名臣言行録』前集巻一・趙普普政を秉る。江南の後主、銀五萬兩を以て普に遺る。普太祖に白す。太祖曰く、此れ受けざる可からず。但だ書を以て答謝し、少しく其の來使に賂すれば可なりと。既にして後主、弟從善を遣わして入貢せしむ。常賜の外、宻かに白金を賚うこと普に遺りしの數の如し。江南の君臣、始めて上の偉度に震駭す。
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『宋名臣言行録』前集巻一・趙普昭憲太后聰明にして智度有り。嘗て太祖と大政を參決す。疾篤きに及び、太祖藥餌に侍して左右を離れず。太后曰く、汝、天下を得たる所以を知るかと。上曰く、此れ皆な祖考と太后の餘慶なりと。太后笑いて曰く、然らず。正に柴氏の幼兒をして天下を主らしめしに由るのみと。因りて太祖を戒めて曰く、汝萬歳の後、當に次を以て之を二弟に傳うべし。則ち汝の子を并せて亦た安きを獲んと。太祖頓首泣きて曰く、敢えて母の教えの如くせざらんやと。太后因りて普を榻前に召して約誓の書を為らしむ。普、紙尾に自ら名を署して云う、臣普書すと。之を金匱に藏め、謹宻の宮人に命じて之を掌らしむ。太宗即位するに及び、普、多遜の譛る所と為りて出でて河陽を守る。日夕、不測を憂う。上一旦金匱を發きて書を得、大いに悟る。遂に使いを遣わして急ぎ之を召す。普惶恐し、遺書を為りて家人と别れて而る後に行く。既に至りて復た相と為る。