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神皇正統記 / 巻一 天神七代

宝山にとゞまりて不動のしるしとなりけんことや正説なるべからん。龍田も宝山ちかき所なれば、龍神を天柱国柱といへるも、深秘の心あるべきにや。日本紀・旧事本紀・古語拾遺等にのせざらん事は末学の輩ひとへに信用しがたかるべし。彼書の中猶一決せざること多し。況異書におきては正とすべからず。かくて、此二神相はからひて八の嶋をうみ給ふ。先、淡路の州をうみます。淡路穂之狭別と云ふ。次、伊与の二名の州をうみます。一身に四面あり。一を愛比売と云、これは伊与也。二を飯依比売と云、是は讚岐也。三を大宜都比売と云、これは阿波也。四を速依別と云、是は土左也。次、筑紫の州をうみます。又一身に四面あり。一を白日の別と云、是は筑紫也。後に筑前・筑後と云ふ。二を豊日別と云、これは豊国也。後に豊前・豊後と云ふ。三を昼日別と云、是は肥の国也。後に肥前・肥後と云ふ。四を豊久士比泥別と云、是は日向也。後に日向・大隅・薩摩と云。次、壱岐の国をうみます。天比登都柱と云ふ。次、対馬の州をうみます。天之狭手依比売と云ふ。

新字:宝山にとゞまりて不動のしるしとなりけんことや正説なるべからん。竜田も宝山ちかき所なれば、竜神を天柱国柱といへるも、深秘の心あるべきにや。日本紀・旧事本紀・古語拾遺等にのせざらん事は末学の輩ひとへに信用しがたかるべし。彼書の中猶一決せざること多し。況異書におきては正とすべからず。かくて、此二神相はからひて八の嶋をうみ給ふ。先、淡路の州をうみます。淡路穂之狭別と云ふ。次、伊与の二名の州をうみます。一身に四面あり。一を愛比売と云、これは伊与也。二を飯依比売と云、是は讃岐也。三を大宜都比売と云、これは阿波也。四を速依別と云、是は土左也。次、筑紫の州をうみます。又一身に四面あり。一を白日の別と云、是は筑紫也。後に筑前・筑後と云ふ。二を豊日別と云、これは豊国也。後に豊前・豊後と云ふ。三を昼日別と云、是は肥の国也。後に肥前・肥後と云ふ。四を豊久士比泥別と云、是は日向也。後に日向・大隅・薩摩と云。次、壱岐の国をうみます。天比登都柱と云ふ。次、対馬の州をうみます。天之狭手依比売と云ふ。

書き下し

宝山にとゞまりて不動のしるしとなりけんことや正説なるべからん。龍田も宝山ちかき所なれば、龍神を天柱国柱といへるも、深秘の心あるべきにや。日本紀・旧事本紀・古語拾遺等にのせざらん事は末学の輩ひとへに信用しがたかるべし。彼書の中猶一決せざること多し。況異書におきては正とすべからず。かくて、此二神相はからひて八の嶋をうみ給ふ。先、淡路の州をうみます。淡路穂之狭別と云ふ。次、伊与の二名の州をうみます。一身に四面あり。一を愛比売と云、これは伊与也。二を飯依比売と云、是は讃岐也。三を大宜都比売と云、これは阿波也。四を速依別と云、是は土左也。次、筑紫の州をうみます。又一身に四面あり。一を白日の別と云、是は筑紫也。後に筑前・筑後と云ふ。二を豊日別と云、これは豊国也。後に豊前・豊後と云ふ。三を昼日別と云、是は肥の国也。後に肥前・肥後と云ふ。四を豊久士比泥別と云、是は日向也。後に日向・大隅・薩摩と云。次、壱岐の国をうみます。天比登都柱と云ふ。次、対馬の州をうみます。天之狭手依比売と云ふ。

現代語訳

宝山にとどまって不動のしるしとなったというのが正しい説であろうか。龍田も宝山に近い所であるから、龍神を天柱国柱と言ったのも深い秘めた意味があるのだろうか。『日本書紀』『旧事本紀』『古語拾遺』などに載せていないことは、末学の者はひたすら信用しがたいであろう。それらの書の中でもなお一つに決まらないことが多い。まして異書においては正しいとすべきではない。こうして、この二神は相談して八つの島を生まれた。まず淡路の州を生まれた。淡路穂之狭別という。次に伊予の二名の州を生まれた。一つの身に四つの面がある。一を愛比売といい、これは伊予である。二を飯依比売といい、これは讃岐である。三を大宜都比売といい、これは阿波である。四を速依別といい、これは土佐である。次に筑紫の州を生まれた。また一つの身に四つの面がある。一を白日別といい、これは筑紫である。後に筑前・筑後という。二を豊日別といい、これは豊国である。後に豊前・豊後という。三を昼日別といい、これは肥の国である。後に肥前・肥後という。四を豊久士比泥別といい、これは日向である。後に日向・大隅・薩摩という。次に壱岐の国を生まれた。天比登都柱という。次に対馬の州を生まれた。天之狭手依比売という。

解説

逆矛の諸説を吟味したあと、親房は拠るべき典拠の基準をはっきり示す。日本書紀・旧事本紀・古語拾遺に載っていないことは、末学の者は信じてはならない。しかもそれらの書どうしでも一致しないことが多いのだから、まして「異書」は正しいとしてはならない、という。中世には神道の秘伝書が数多く作られたが、親房はそれらを基準の外に置き、古い正史と古伝に照らして取捨している。続く国生みでは、伊予の二名の州を愛比売・飯依比売などの四面に分ける古事記系の神名を用い、それぞれを当時の国名に当てはめる。神代の物語を、読み手がよく知る地理と結びつけて示しているのである。何を根拠とし、何を根拠としないかを最初に宣言しておけば、議論は迷わない。判断の基準を先に明かすことは、書く者にも決める者にも欠かせない。

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