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神皇正統記 / 巻一 天神七代

次、隠岐の州をうみます。天之忍許呂別と云ふ。次、佐渡の州を生ます。建日別と云ふ。次、大日本豊秋津州をうみます。天御虚空豊秋津根別と云ふ。すべて是を大八州と云也。此外あまたの嶋を生給。後に海山の神、木のおや、草のおやまで悉うみましてけり。何れも神にませば、生給へる神の州をも山をもつくり給へるか。はた州山を生給に神のあらはれましけるか、神世のわざなれば、まことに難測。 二神又はからひてのたまはく、「我すでに大八州の国および山川草木をうめり。いかでかあめの下のきみたるものをうまざらむや。」とてまづ日神を生ます。此みこひかりうるはしくして国の内にてりとほる。二神よろこびて天におくりあげて、天上の事をさづけ給。此時天地あひさることとほからず。天のみはしらをもてあげ給。これを大日孁の尊と申。又天照太神とも申。女神にてまします也。次、月神を生ます。其光日につげり。天にのぼせて夜の政をさづけ給。次に、蛭子を生ます。みとせになるまで脚たゝず。天の磐樟船にのせて風のまゝはなちすつ。

書き下し

次、隠岐の州をうみます。天之忍許呂別と云ふ。次、佐渡の州を生ます。建日別と云ふ。次、大日本豊秋津州をうみます。天御虚空豊秋津根別と云ふ。すべて是を大八州と云也。此外あまたの嶋を生給。後に海山の神、木のおや、草のおやまで悉うみましてけり。何れも神にませば、生給へる神の州をも山をもつくり給へるか。はた州山を生給に神のあらはれましけるか、神世のわざなれば、まことに難測。 二神又はからひてのたまはく、「我すでに大八州の国および山川草木をうめり。いかでかあめの下のきみたるものをうまざらむや。」とてまづ日神を生ます。此みこひかりうるはしくして国の内にてりとほる。二神よろこびて天におくりあげて、天上の事をさづけ給。此時天地あひさることとほからず。天のみはしらをもてあげ給。これを大日孁の尊と申。又天照太神とも申。女神にてまします也。次、月神を生ます。其光日につげり。天にのぼせて夜の政をさづけ給。次に、蛭子を生ます。みとせになるまで脚たゝず。天の磐樟船にのせて風のまゝはなちすつ。

現代語訳

次に隠岐の州を生まれた。天之忍許呂別という。次に佐渡の州を生まれた。建日別という。次に大日本豊秋津州を生まれた。天御虚空豊秋津根別という。すべてこれを大八州というのである。このほか多くの島を生まれた。後には海や山の神、木の祖、草の祖まですべて生まれた。いずれも神でいらっしゃるのだから、生まれた神が州や山をも造られたのか。あるいは州や山を生まれたときに神が現れなさったのか。神代のわざであるから、まことに測りがたい。 二神はまた相談しておっしゃるには、「われらはすでに大八州の国および山川草木を生んだ。どうして天下の君となる者を生まないでいられようか」と言って、まず日神を生まれた。この御子は光がうるわしく、国の内を照り通した。二神は喜んで天に送り上げ、天上のことをお授けになった。この時は天と地がまだ遠く離れていなかった。天の御柱によって上げられた。これを大日孁尊と申しあげる。また天照大神とも申しあげる。女神でいらっしゃる。次に月神を生まれた。その光は日に次ぐ。天に上げて夜の政をお授けになった。次に蛭子を生まれた。三年になるまで足が立たなかった。天の磐樟船に乗せて風のままに放ち捨てた。

解説

大八州を生み終え、山川草木の神々まで生んだあと、二神は「天下の君」を生もうと相談する。国土が先にあり、それを治める主がそのあとに生まれるという順序である。こうして生まれた日神、すなわち天照大神を、親房ははっきり「女神にてまします也」と記す。皇統の祖を女神とすることは日本書紀以来の伝承で、この書もそのまま受け継いでいる。一方で、神が州や山を造ったのか、州や山を生んだときに神が現れたのかという問いには、「神世のわざなれば、まことに難測」と答えを出さない。分からないことに無理な説明を付けないのは、前の段で典拠の基準を示したのと同じ姿勢である。国土と山川がそろって、はじめて治める者が求められる。器が整ってから主を立てるというこの順序は、組織の立ち上げにも通じる。

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