古典を学びたいすべての人に 法人向けワークシート法人向けワークシート

自警録 / 第二十五章 理想と実現・理想家に対する世論の変遷(2)

偉大なる凡人となるは平凡なる豪傑となるよりも、はるかに上乗であると思う。米国に行きてことに感ずることは、この国には偉大なる凡人の多きことは、ほとんど日本において平凡なる豪傑の多きがごとくである。凡人をして偉大ならしむるのはそれ思想乎。思想ほど恐しき力はない。人の動くのはみな思想の力によるのである。すなわち世の細事大業も機械に譬うれば思想なる原動力の発現にほかならない。これを草木に譬うれば、緑の柳、紅の花と現れる世の変化も思想なる根より起こるものであるから、なにはさておき根の培養は怠れない。根さえ確かなれば、幹なり枝なり葉なり花なり自然の結果として栄える。 誰人も経験あることならんが、だんだん年とるについても、若きとき思い込んだ思想が、なにごとについてもヒョコヒョコと胸底に浮かび出で、あるいは邪魔し、あるいは手伝いし、われわれの今日の仕事に関係を絶たない。 「三つ子の心は百までも」「老馬路を忘れず」という。青年時代に植えた種子は、よかれ、悪しかれ、いつまでも身辺に纒いつく。 古き書にもあるとおり、「汝一度水田に種子を播け、数日を経て収穫すべし」と。われわれひとたび播ける種子の酬いは、われわれ自身が刈らねばならぬ。若い時に植える種子は、後年植えるものよりいっそう深く根を張る。 植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらんはなこそ散らめ根さへ枯れめや とあるごとく、単に植えさえしておけば、秋のない年はいざ知らんが、いったい一年間に秋のなきはずはないから、必ず秋がくるに相違ない。その秋がくれば、草木の性質として花を咲かす機会到来は必定。けだし去年の花は縦しまったく散り了っても、根さえ枯れずに健全なれば。

書き下し

偉大なる凡人となるは平凡なる豪傑となるよりも、はるかに上乗であると思う。米国に行きてことに感ずることは、この国には偉大なる凡人の多きことは、ほとんど日本において平凡なる豪傑の多きがごとくである。凡人をして偉大ならしむるのはそれ思想乎。思想ほど恐しき力はない。人の動くのはみな思想の力によるのである。すなわち世の細事大業も機械に譬うれば思想なる原動力の発現にほかならない。これを草木に譬うれば、緑の柳、紅の花と現れる世の変化も思想なる根より起こるものであるから、なにはさておき根の培養は怠れない。根さえ確かなれば、幹なり枝なり葉なり花なり自然の結果として栄える。 誰人も経験あることならんが、だんだん年とるについても、若きとき思い込んだ思想が、なにごとについてもヒョコヒョコと胸底に浮かび出で、あるいは邪魔し、あるいは手伝いし、われわれの今日の仕事に関係を絶たない。 「三つ子の心は百までも」「老馬路を忘れず」という。青年時代に植えた種子は、よかれ、悪しかれ、いつまでも身辺に纒いつく。 古き書にもあるとおり、「汝一度水田に種子を播け、数日を経て収穫すべし」と。われわれひとたび播ける種子の酬いは、われわれ自身が刈らねばならぬ。若い時に植える種子は、後年植えるものよりいっそう深く根を張る。 植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらんはなこそ散らめ根さへ枯れめや とあるごとく、単に植えさえしておけば、秋のない年はいざ知らんが、いったい一年間に秋のなきはずはないから、必ず秋がくるに相違ない。その秋がくれば、草木の性質として花を咲かす機会到来は必定。けだし去年の花は縦しまったく散り了っても、根さえ枯れずに健全なれば。

現代語訳

偉大な凡人になることは、平凡な豪傑になるよりも、はるかに上等だと思います。アメリカに行ってとくに感じることは、この国には偉大な凡人が多いことで、ほとんど日本に平凡な豪傑が多いのと同じです。凡人を偉大にするものは、それは思想でしょうか。思想ほど恐ろしい力はありません。人が動くのはすべて思想の力によるのです。つまり、世の細かなことも大きな事業も、機械にたとえれば、思想という原動力が現れたものにほかなりません。草木にたとえれば、緑の柳、紅の花と現れる世の変化も、思想という根から起こるものですから、何はさておき、根の培養は怠れません。根さえ確かなら、幹も枝も葉も花も、自然な結果として栄えます。 誰にも経験があることでしょうが、だんだん年をとるにつけても、若いときに思い込んだ思想が、何事についてもひょいひょいと胸の底に浮かび出て、邪魔をしたり手伝いをしたりして、私たちの今日の仕事と関係を絶ちません。 「三つ子の魂百まで」「老馬は路を忘れず」と言います。青年時代に植えた種は、よかれ悪しかれ、いつまでも身辺にまといつきます。 古い書にもあるとおり、「あなたが一度水田に種をまけば、数日を経て収穫するだろう」とあります。私たちが一度まいた種の報いは、私たち自身が刈り取らなければなりません。若いときに植える種は、後年に植えるものよりいっそう深く根を張ります。 「植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらん花こそ散らめ根さへ枯れめや」 とあるように、ただ植えておきさえすれば、秋のない年ならともかく、一年のうちに秋がないはずはないので、必ず秋は来ます。その秋が来れば、草木の性質として、花を咲かせる機会が到来するのは必定です。去年の花がたとえすっかり散ってしまっても、根さえ枯れずに健全であれば。

解説

新渡戸は、偉大な凡人は平凡な豪傑よりはるかに上だと言い、その違いを生むのは思想という根だと語ります。柳や花は根の現れで、根を養えば幹も花も自然に栄えるのです。若いころ植えた種は深く根を張り、のちの仕事にも浮かび出る、と実体験に即して述べ、「三つ子の魂百まで」などの諺を引きます。引かれる古書の句や歌も、まいた種は必ず実るという趣旨です。人材育成や自己教育においても、短期の成果より、根に当たる価値観の形成を重視せよ、という示唆になります。
『人生の方程式』の表紙

人生を、一行の式にしてみた。

志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。

本の中身を見る

この章句が説くこと

偉大な凡人思想の根三つ子の魂種まき収穫培養

関連する章句

本2冊(人生の方程式・人生の教科書)+師導1か月=700円本を見る