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自警録 / 第十八章 知らぬ恩人に対する感謝・英国碩学の観たる神道の要旨

先年交換教授として渡米するにつき、その準備の一つとして、研究というほどの深い事もないが、少しく調査したいことがあって、神道に関する書物を読んでみた。そのうちに英国の碩学、ことに日本の古代宗教および文学に精通せるアストン先生の書中に、神道は知恩と愛情の宗教なりという一句があった。これが僕の眼に大いにとまった。また同氏の説明を見てますますこの一句の味わいが理解せられた。 その後ある友人が、日本の神道を研究するには、必ず黒住宗忠の説を窺わねばならぬと注意してくれて、懇にもこの偉人に関する出版物を送ってくれた。これを読んでいっそうアストン氏のさきの言の誤らざると、否、誤らざるどころでない、実によく穿っていることを感じて、その後ますます恩誼を知るの感を深めることについて、心のうちに努めている。

書き下し

先年交換教授として渡米するにつき、その準備の一つとして、研究というほどの深い事もないが、少しく調査したいことがあって、神道に関する書物を読んでみた。そのうちに英国の碩学、ことに日本の古代宗教および文学に精通せるアストン先生の書中に、神道は知恩と愛情の宗教なりという一句があった。これが僕の眼に大いにとまった。また同氏の説明を見てますますこの一句の味わいが理解せられた。 その後ある友人が、日本の神道を研究するには、必ず黒住宗忠の説を窺わねばならぬと注意してくれて、懇にもこの偉人に関する出版物を送ってくれた。これを読んでいっそうアストン氏のさきの言の誤らざると、否、誤らざるどころでない、実によく穿っていることを感じて、その後ますます恩誼を知るの感を深めることについて、心のうちに努めている。

現代語訳

先年、交換教授としてアメリカへ渡るにあたり、その準備のひとつとして、研究というほど深いものではありませんが、少し調べたいことがあって、神道に関する書物を読んでみました。そのなかに、イギリスの碩学で、とくに日本の古代宗教と文学に精通しているアストン先生の書物があり、神道は恩を知ることと愛情の宗教である、という一句がありました。これが私の目に大いにとまりました。同氏の説明を見て、ますますこの一句の味わいが理解できました。 その後、ある友人が、日本の神道を研究するには、必ず黒住宗忠の説をうかがわねばならないと注意してくれ、親切にもこの偉人に関する出版物を送ってくれました。それを読んで、アストン氏の先の言葉が誤っていないどころか、実によく本質を突いていると感じ、その後はますます恩義を知るという心持ちを深めるよう、心の中で努めています。

解説

十八章は、知らぬ間に受けている恩への感謝を説く章で、その入口がこの一節です。新渡戸は渡米の準備で神道の書を読み、英国の日本学者アストンの、神道は知恩と愛情の宗教だという一句に目を留めます。続いて友人の勧めで、幕末に黒住教を開いた黒住宗忠の説に触れ、その見立てが正しいと感じました。ここでは神道の優劣を論じるより、恩を知るという心の姿勢が主題です。仕事でも、成果を自分の力だけと考えると視野が狭くなります。誰の支えの上に立っているかを知ることが、謙虚さと信頼の出発点になります。
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この章句が説くこと

知恩神道アストン黒住宗忠愛情感謝

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