抱朴子外篇 / 安貧
抱朴子曰:昔漢火寢耀,龍戰虎爭,九有幅裂,三家鼎據。有樂天先生者,避地蓬轉,播流岷益,始處昵於文休,末見知於孔明。而言高行方,獨立不群,時人憚焉,莫之或與。時二公之力,不能違眾,遂令斯生沈抑衡蓽,齒漸桑榆,而韋布不改。而時主思賢,不聞不知;當途之士,莫舉莫貢。潛側武之陋巷,竄繩樞之蓬屋,進廢經世之務,退忘治生之車,草梨餐屢空,朝不謀夕。
新字:抱朴子曰:昔漢火寝耀,竜戦虎争,九有幅裂,三家鼎拠。有楽天先生者,避地蓬転,播流岷益,始処昵於文休,末見知於孔明。而言高行方,独立不群,時人憚焉,莫之或与。時二公之力,不能違衆,遂令斯生沈抑衡蓽,歯漸桑榆,而韋布不改。而時主思賢,不聞不知;当途之士,莫舉莫貢。潜側武之陋巷,竄縄枢之蓬屋,進廃経世之務,退忘治生之車,草梨餐屡空,朝不謀夕。
書き下し
抱朴子曰く、昔、漢の火耀を寝め、龍戦い虎争い、九有幅裂し、三家鼎のごとく据る。楽天先生なる者有り、地を避けて蓬のごとく転じ、岷益に播流し、始め文休に昵処し、末に孔明に知らる。而して言は高く行いは方、独立して群れず、時人は之を憚り、之に与する莫し。時に二公の力も、衆に違う能わず、遂に斯の生をして衡蓽に沈抑せしめ、歯は桑楡に漸るも、韋布改めず。而るに時主は賢を思うも、聞かず知らず、当塗の士は、挙げず貢めず。側武の陋巷に潜み、縄枢の蓬屋に竄れ、進みては経世の務めを廃し、退きては治生の車を忘れ、草梨の餐は屢ば空しく、朝に夕を謀らず。
現代語訳
抱朴子は言う。昔、漢の火徳の輝きが衰え、龍が戦い虎が争い、天下は裂けて、三家が鼎のように並び立った。楽天先生という者がいて、地を避けて蓬のように転じ、岷や益の地に流れて、はじめは文休と親しく過ごし、最後に孔明に知られた。そして言葉は高く行いは方正で、独り立って群れず、当時の人はこれを憚り、与する者はいなかった。そのとき二公の力でも、衆の意に逆らうことができず、とうとうこの人を粗末な家に沈め抑え、年は桑楡の晩年に近づいても、布衣のままで改めなかった。それなのに時の君主は賢者を思いながら、聞きも知りもせず、要路の士は、推挙もせず貢進もしない。狭い路地の陋巷に潜み、縄を枢にした蓬の家に身を隠し、進んでは世を治める務めを廃し、退いては生計を治める道を忘れ、粗末な食事はしばしば絶え、朝に夕べのことを考えられない。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
抱朴子外篇・安貧楽天先生答えて曰く、「六芸備さに研き、八索必ず該ぬ。斯れ則ち富めるなり、翰を振い藻を摛べ、徳音窮まり無し、斯れ則ち貴きなり。仁を求めて仁至る、旃を舎てて焉くにか如かん。夫れ重淵に棲みて以て霊を頤い、万物を外にして自得し、紛埃を険途に遺し、精神を玄黙に澄ます。牖を窺わずして以て遐く覧、微言を判ちて惑い靡し。復た之を設くるに台鼎を以てすと雖も、猶お確爾として革まらず。曷ぞ肯えて貧を憂えて賈豎と利を争い、窮を戚えて凡瑣と達を競わんや。吾子は茍くも商販は以て宝を崇ぶ可く、耕すは以て饑えを免る可きを知るも、麋を逐う者は兎を顧みず、道遠き者は其の到ること遅きを識らず。且つ夫れ尚父の刀を鼓つや、素首にして乃ち奇を吐く。万鈞の重たるや、沖飈も移す能わず。簫韶未だ九成ならざれば、霊鳥は儀を紆らす。是を以て扶搖を俟ちて蒼霄に登る者は、詘を蓬蒿の杪に棄てず、蘭筋に騁せて六万に陟る者は、途を蹇驢の群に争わず。大孝は必ず親を辱しむるの険を畏る、故に子春は下堂に戦悸す。上智は得難きの財を貴ばず、故に唐虞は金を捐てて璧を抵つ。明哲は禍を未だ来らざるに消し、知士は利を聞きては害を慮る。而るに吾子は凡仆を言いて以て舟を泛べ、孳孳として屋を潤し、隋珠を勧めて雀を弾たしめ、虎口を控きて肉を奪わしめ、遺体を不測に軽んじ、重険に触れて以て遠く至らしむ。髪膚の明戒を忘れ、乾没を冀い難きに尋ぬ。若し夫れ焚輸傾巌、木抜け石飛び、陽侯山のごとく峙ち、洪涛山のごとく巍く、軽艘は塵のごとく漂い、力は心に違い、嗟泣に従いて逮ぶ罔きは、乃ち達者の微を見るを悟る。
-
抱朴子外篇・安貧自ら以て所を得たりと為すと雖も、猶お未だ迂闊を免れず。事に身後の功無く、物に時に違うの盛り無し。今、海内は瓜分し、英雄は力もて競い、象恭滔天、猾夏命を放にし、駑蹇は星のごとく馳せて路を兼ね、豺狼は口を奮いて交ごも争う。当塗は袂を投じて屈を訟え、素士は塵を蒙りて径を履み、純儒は皇道を釈てて五霸の術を治め、碩生は四科を棄てて月旦の評を恤う。筐篚の実つる者は、草萊より進み、資地に乏しき者は、朝廷より退く。黄白を握る者は、金門を排して玉堂に陟り、方策を誦する者は、世讎を結びて泥濘に委てらる。贄幣の濃き者は、瓦石も珪璋と成り、請託の薄き者は、龍駿も林坰に棄てらる。党援の多き者は、驚飈に偕して雲を淩ぎ、交結の狭き者は、踊鼈を侶として沈泳す。
-
抱朴子外篇・安貧夫れ丸泥すら已に彭蠡の沸騰を遏む能わず、独賢も亦た焉んぞ流遁の正を失うを反す能わん。今、先生は入りては儋石の儲え無く、出でては束修の調え無し。徒に章を含むこと龍鳳の如く、文を被ること虎豹の如く、之を吐けば波濤の如く、之を陳ぶれば錦繡の如くして、環堵に凍餓す、何ぞ計の疏なるを吊わざらん。奚ぞ軽舟を泛べて迅に托し、飛帆を禦して遠く之かざる。瑰貨を朔南に交わし、金碧を九疑に収めん。崔烈の遐武に迪み、好爵を清時に縻がざるや。徒に述作に疲労するは、豈に蟬蛻の期有らんや。独り身を苦しめて以て名と為すは、乃ち黄老の蚩う所なり」と。
-
抱朴子外篇・安貧是に於て偶俗公子、造りて之を詰りて曰く、「蓋し聞く、伊呂の才有る者は、久しく窮賤に滞らず、猗頓の術を懐く者は、長く饑寒に処らず。達者は其の変を知るを貴び、智士は匱らざるを験す。故に範生は出でては呉を滅ぼし越を霸とし、命世の佐と為り、入りては貨殖して生を営み、万金の貲を累ぬ。天の貧しきは六極に在り、富は五福に在り、『詩』は加うるを美とし、『易』は人を聚むるを貴ぶ、垂餌香しければ則ち鱣鮪来り、懸賞厚ければ則ち果毅奮う、長卿の犢鼻を解きて朱旄を擁する所以、曲逆の席扉より下りて茅土を享くる所以、不韋の十万の邑を食む所以、張侯の囹圄の困を抜く所以なり。故に下郷は倹にして悔咎の辰を獲、漂嫗は豊にして千金の報を蒙る。先生は少伯の奇略無く、専ら思いを六経に鋭くし、忽ち米長の実禍を絶ち、不朽の虚名を慕い、詭遇して以て禄を干むるを恥じ、炫沽して以て栄を要むるを羞じ、西伯の畋を冀い、黄河の将に清まんとするを俟つ。列子の菜色に甘んじ、全神を邈にして形を遺る、何ぞ騏驥を図画して以て徒行の労に代え、遥かに海水を指して以て口焦の渇を解き、魚網を峻極の巓に張り、鈞緡を修木の末に施すに異ならんや。
-
抱朴子外篇・嘉遁抱樸子曰く、懐冰先生という者有り。周流の棲遑を薄んじ、吐握の良苦を悲しむ。膏壌を陸海に譲り、爰に斥鹵に躬耕す。六奇を秘して以て括囊し、琳瑯を含みて吐かず。清音を謐くすれば則ち之を或いは聞くこと莫く、輝藻を掩えば則ち世睹ることを得ず。朝華を朱門に背き、恬寂を蓬戸に保つ。軌躅を金張の閭に絶ち、浩然を幽人の伍に養う。栄顕を謂いて不幸と為し、玉帛を以て草土と為す。霊規を雲表に抗げ、独り今に違いて古に遂う。峻岫の巍峨に庇り、翠蘭の芳茵に藉く。流霞の澄液を漱ぎ、八石の精英を茹らう。思いは眇眇焉として虹霓の端に居るが若く、意は飄飄焉として倒景の隣に在るが若し。万物も其の和を攪す能わず、四海も其の神を汩すに足らず。
-
抱朴子外篇・守塉抱朴子曰く、余が友人に潜居先生なる者有り、寝丘の争う莫きを慕い、塉土を簡びて宇を葺き、精を芸文に鋭くし、意は学稼を忽にし、屡ば有年を失い、飢色顔に在り。或る人難じて曰く、「天は礼の廩実に在るを知り、施しの博きは貨の豊かなるに由り、高きは有余に出で、倹は不足に生ず。故に十千は詩人に美とせられ、食貨は八政に首たり。躬稼は克配の業に基づき、耦耕は不改の楽しみ有り。奇士の居るや、進みては鴻鸞を侶として翮を振い、退きては陶白に参じて生を理め、仕うれば必ず霸王、居れば必ず千金。是を以て昔人は必ず膏壌を科して以て利を分かち、四体を勤めて稼穡し、原菽の与与たるを播き、嘉蔬の翼翼たるを茂らせ、麰秬の千倉を収め、我が庾の惟れ億なるを積み、出でては連騎して以て遊畋し、入りては侯服して玉食す。而るに先王の宅此するや、亢陽なれば則ち谷を出でて塵を飏げ、重陰なれば則ち天に滔りて丘を淩ぎ、陸に秀を含むの苗無く、水に穂を吐く株無く、稗糲は圌廩に曠しく、薪爨は庖厨に廃す。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る