抱朴子外篇 / 嘉遁
抱樸子曰:有懷冰先生者,薄周流之棲遑,悲吐握之良苦。讓膏壤於陸海,爰躬耕乎斥鹵。秘六奇以括囊,含琳瑯而不吐。謐清音則莫之或聞,掩輝藻則世不得睹。背朝華於朱門,保恬寂乎蓬戶。絕軌躅於金張之閭,養浩然於幽人之仵。謂榮顯為不幸,以玉帛為草土。抗靈規於雲表,獨違今而遂古。庇峻岫之巍峨,藉翠蘭之芳茵。漱流霞之澄液,茹八石之精英。思眇眇焉若居乎虹霓之端,意飄飄焉若在乎倒景之鄰。萬物不能攪其和,四海不足汩其神。
新字:抱樸子曰:有懐冰先生者,薄周流之棲遑,悲吐握之良苦。譲膏壤於陸海,爰躬耕乎斥鹵。秘六奇以括嚢,含琳瑯而不吐。謐清音則莫之或聞,掩輝藻則世不得睹。背朝華於朱門,保恬寂乎蓬戸。絶軌躅於金張之閭,養浩然於幽人之仵。謂栄顕為不幸,以玉帛為草土。抗霊規於雲表,独違今而遂古。庇峻岫之巍峨,藉翠蘭之芳茵。漱流霞之澄液,茹八石之精英。思眇眇焉若居乎虹霓之端,意飄飄焉若在乎倒景之鄰。万物不能攪其和,四海不足汩其神。
書き下し
抱樸子曰く、懐冰先生という者有り。周流の棲遑を薄んじ、吐握の良苦を悲しむ。膏壌を陸海に譲り、爰に斥鹵に躬耕す。六奇を秘して以て括囊し、琳瑯を含みて吐かず。清音を謐くすれば則ち之を或いは聞くこと莫く、輝藻を掩えば則ち世睹ることを得ず。朝華を朱門に背き、恬寂を蓬戸に保つ。軌躅を金張の閭に絶ち、浩然を幽人の伍に養う。栄顕を謂いて不幸と為し、玉帛を以て草土と為す。霊規を雲表に抗げ、独り今に違いて古に遂う。峻岫の巍峨に庇り、翠蘭の芳茵に藉く。流霞の澄液を漱ぎ、八石の精英を茹らう。思いは眇眇焉として虹霓の端に居るが若く、意は飄飄焉として倒景の隣に在るが若し。万物も其の和を攪す能わず、四海も其の神を汩すに足らず。
現代語訳
抱樸子は言う。懐冰先生という人がいた。天下を巡り歩いて落ち着かない暮らしを軽んじ、食事の途中でも客に会う(周公のような)苦労を気の毒に思っていた。肥えた土地は大地と海に譲り、塩分の多い痩せ地で自ら耕した。六つの奇策を胸に秘めて袋の口を閉じるように語らず、美しい玉を含んだまま吐き出さなかった。澄んだ音を鳴らさないので聞く者はなく、輝く文才を隠すので世に知られることもない。栄える朱塗りの門に背を向け、あばら屋で静かな安らぎを守った。金氏・張氏のような権門の里とは足跡を絶ち、隠者たちの仲間の中で浩然の気を養った。栄達を不幸とみなし、玉や絹を土くれ同然に見た。霊妙な規範を雲の上に掲げ、ひとり今の世に背いて古い道を追った。高い岩山の懐に身を寄せ、翠の蘭の香る敷物に座り、流れる霞の澄んだ露で口をすすぎ、八石の精を食らう。思いははるかに虹の端にいるようで、心はひらひらと影の逆さに映る天上の隣にいるようだった。万物もその調和を乱せず、四海もその精神を濁すことはできなかった。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・嘉遁是に於いて懐冰先生は蕭然として遐かに眺め、気を天衢に遊ばせ、情神は遼緬として、傍らに物無きが若し。俯して答えて曰く、「嗚呼、是の言有らんや。蓋し至人は無為にして、神を沖漠に棲ましめ、志を禄利に役せず、故に害辱も加うる能わず。険途に躊躇せず、故に傾墜も患いと為る能わず。藜藿も供せざるも、意は方丈に佚し、庸民と斉編なるも、心は有土に歓ぶ。宜僚の舎に寝ね、干木の閭を閉ざし、荘莱の友を携え、陋巷の居を治め、確として嶽のごとく峙ちて抜けず。豈に巻舒に懐い有らんや。欲広ければ則ち和を濁すを以て、故に世務を委てて紆眄せず。位極まる者は憂い深きを以て、故に勢利に背きて余疑無し。其の貴きは爵を以てせず、富めるは財を以てせず。雲鵬に侶して以て高く逝く。故に腐鼠に翮を縈わせず。蕃武を以て厚誡と為す。故に簞瓢に楽しみを改めず。
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抱朴子外篇・嘉遁懐冰先生曰く、「聖化の盛んなること、誠に高論の如し。出処の事は、人各々懐う有り。故に堯舜上に在りて、箕潁に巣棲の客有り。夏后世を御して、窮藪に耒を握る賢有り。豈に此の険を慮る有らんや。蓋し各々安んずる所に附くなり。是を以て其の志を高尚にして、王侯に仕えざるは、爻象に存す。匹夫の執る所にして、延州の節を守るは、聖人も許せり。「僕の丘園に逍遙し、跡を草沢に斂むる所以は、誠に才は政事に非ず、器は民を治むるに乏しく、而も多士雲のごとく起こり、髦彦鱗のごとく萃まり、文武朝に盈ち、庶事既に康らかなるを以て、故に復た熠耀を挙げて日月の間に廁じ、甂瓴を洪鍾の側に拊ち、軽扇を堅冰の節に貢し、裘爐を隆暑の月に炫かすを欲せざるなり。必ず無用に捐てられ、非時の巨嗤を速かん。若し経を擁して著述せば、以て真を全うし名を成し、末化を補う有る可し。若し堪えざる所を強いば、則ち顛沛して咎めを惟い、小狐に悔いを同じくせん。故に其の長ずる所に居りて、以て其の短なる所を全うするのみ。立朝の勲、即戎の労無しと雖も、後生を切磋し、道を弘め正を養わば、塗を殊にして致を一にし、民を損なうに非ず。劣者は其の一介を全うす。何ぞ許由に及ばんや。聖世恕して之を容るること、有唐に同じく曠くせば、亦た可ならずや」と。
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抱朴子外篇・嘉遁「且つ夫れ貧に安んずる者は財無きを以て富と為し、卑に甘んずる者は仕えざるを以て栄と為す。故に幼安は海に浮かびて神を澄ませ、胡子は心を退耕に甘んず。逢・比は令徳の罪有り、信・布は功大なるの刑に陥る。一枝は以て鸞羽を戢むるに足る、何ぞ豊林を煩わさん。潢洿は以て龍鱗を泛ぶるに足る、豈に滄海を事とせんや。藜藿は八珍より嘉く、寒泉は醽醁より旨し。躡履は赤舄より美しく、縕袍は袞服より麗し。把橦は杖鉞より安らかに、鳴条は絲竹より楽し。茅茨は丹楹より艶しく、辨椽は刻桷より珍し。高峰に登りて台榭と為し、巌霤を疵して華屋と為す。篇章を積みて敖庾と為し、玄談を宝として金玉と為す。細人の近戀を棄て、庸隷の欲する所を捐つ。九臯に遊びて以て歓びを含み、智慧を遣りて以て俗を絶つ。尺蠖に同じく屈し、光を蔵めて樸を守る。拙を表し訥を示し、止まるを知りて常に足る。然る後に芝芳を咀嚼し、風のごとく飛び雲のごとく浮かぶ。景を九陽に晞し、翼に附して高く遊び、仰ぎては梧桐に棲み、俯しては玄洲に集う。孰か轡を銜みて櫪に伏し、繡を被る犠牛に同じからんや」と。
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抱朴子外篇・任命抱朴子曰く、余の友人に居泠先生なる者有り。恬愉静素にして、形神相い忘れ、外に驚愚の容を飾らず、内に有容の心を寄せず。精を墳誥に遊ばせ、楽しみて以て憂いを忘る。昼は羲和の末景を競い、夕べは望舒の余耀を照らし、道は遠きとして究めざる靡く、言は微とて研かざる無し。然れども車跡は権右の国に軔けず、尺牘は貴勢の庭を経ず。是を以て名は蓬戸を出でず、身は畎畝を離れず。是に於て翼亮大夫、候いて之を難じて曰く、「余は聞く、淵蟠起こらば則ち玄雲赴き、道化雨のごとく沾わば則ち逸才奮うと。故に康衢に角歌の音有り、鼎俎に凌風の跡を発す。之を沽れば則ち不貲の賈を収め、之を踴らせば則ち在天の挙に超ゆ。逸景を旸谷に耀かし、大明を九垓に播く。勲は当世を蔭い、声は罔極に揚がる。故に尋仞の途は甚だ近けれども往かざる者は、追風の脚あると雖も到る能わず。楹棁の下は至って卑けれども動かざる者は、鴻鶤の翅ありと雖も未だ及ばず。況んや足を大荒の表に寝かせ、羽を幽梧の枝に斂めて、安んぞ迅きを効して以て景を尋ね、軽きを蒼霄に振るうを得んや。
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抱朴子外篇・守塉抱朴子曰く、余が友人に潜居先生なる者有り、寝丘の争う莫きを慕い、塉土を簡びて宇を葺き、精を芸文に鋭くし、意は学稼を忽にし、屡ば有年を失い、飢色顔に在り。或る人難じて曰く、「天は礼の廩実に在るを知り、施しの博きは貨の豊かなるに由り、高きは有余に出で、倹は不足に生ず。故に十千は詩人に美とせられ、食貨は八政に首たり。躬稼は克配の業に基づき、耦耕は不改の楽しみ有り。奇士の居るや、進みては鴻鸞を侶として翮を振い、退きては陶白に参じて生を理め、仕うれば必ず霸王、居れば必ず千金。是を以て昔人は必ず膏壌を科して以て利を分かち、四体を勤めて稼穡し、原菽の与与たるを播き、嘉蔬の翼翼たるを茂らせ、麰秬の千倉を収め、我が庾の惟れ億なるを積み、出でては連騎して以て遊畋し、入りては侯服して玉食す。而るに先王の宅此するや、亢陽なれば則ち谷を出でて塵を飏げ、重陰なれば則ち天に滔りて丘を淩ぎ、陸に秀を含むの苗無く、水に穂を吐く株無く、稗糲は圌廩に曠しく、薪爨は庖厨に廃す。
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抱朴子外篇・嘉遁「且つ夫れ玄黄は遐邈にして人生は倏忽たり。過隙の促きを以て罔極の間に托す。迅きこと奔星の蹔く見るるが猶く、飄ること飛矢の電のごとく経るに似たり。聊か且く優遊して以て自得す。安んぞ能く形を外物に苦しめんや。夫れ鸞は網に絓からず、驎は阱に堕ちず。彼の鳥獣を相るに、猶お患いを為すを知る。風塵の徒は、曾ち是れ未だ吝まざるか。夫の要離の家を滅ぼして以て功を效し、紀信の燔に赴きて以て楚を誑き、陳賈の頸を刎ねて以て弟を証し、仲由の命を投じて葅醢せられ、嬴門の剣に伏して以て心を表し、聶政の恵に感じて屠葅し、荊卿の臏を絶ちて以て燕に報い、樊公の悲しみを含みて首を授くるが若きは、皆下愚の狂惑にして、豈に上智の取る攸ならんや。
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