抱朴子外篇 / 吳失
「然高概遠量,被褐懷玉,守靜潔誌,無欲於物,藏路淵洿,得意遺世,非禮不動,非時不見,困而無悶,窮而不悔,樂天任命,混一榮辱,進無悅色,退無戚容者,固有伏死乎雍瓦牖,安肯沽炫以進趨,揭其不貲之寶,以競燕石之售哉!孔墨之道,昔曾不行,孟軻揚雄,亦居困否,有德無時,有自來耳。世無離朱,皂白混焉。時乏管青,騏蹇糅焉。礫積於金匱,瑾瑤委乎溝洫,匠石緬而遐淪,梓豫忽而莫識,已矣,悲夫!我生不辰,弗先弗後,將見吳土之化為晉哉,南民之變成北隸也。」言猶在耳,而孫氏輿櫬。抱朴子聞之曰:二君之言,可為來戒。故錄於篇,欲後代知有吳失國,匪降自天也。若茍諱國惡,纖芥不貶,則董狐無貴於直筆,賈誼將受譏於過秦乎!
新字:「然高概遠量,被褐懐玉,守静潔誌,無欲於物,蔵路淵洿,得意遺世,非礼不動,非時不見,困而無悶,窮而不悔,楽天任命,混一栄辱,進無悦色,退無戚容者,固有伏死乎雍瓦牖,安肯沽炫以進趨,掲其不貲之宝,以競燕石之售哉!孔墨之道,昔曽不行,孟軻揚雄,亦居困否,有徳無時,有自来耳。世無離朱,皂白混焉。時乏管青,騏蹇糅焉。礫積於金匱,瑾瑤委乎溝洫,匠石緬而遐淪,梓予忽而莫識,已矣,悲夫!我生不辰,弗先弗後,将見呉土之化為晋哉,南民之変成北隸也。」言猶在耳,而孫氏輿櫬。抱朴子聞之曰:二君之言,可為来戒。故録於篇,欲後代知有呉失国,匪降自天也。若苟諱国悪,繊芥不貶,則董狐無貴於直筆,賈誼将受譏於過秦乎!
書き下し
然れども高概遠量、褐を被て玉を懐き、静を守り志を潔くし、物に欲無く、路を淵洿に蔵し、意を得て世を遺れ、礼に非ざれば動かず、時に非ざれば見われず、困しみて悶うる無く、窮して悔ゆる無く、天を楽しみ命に任せ、栄辱を混一し、進みては悦色無く、退きては戚容無き者は、固より雍の瓦牖に伏死する有り、安くんぞ肯えて沽り炫して以て進趨し、其の貲らざるの宝を掲げて、以て燕石の售を競わんや。孔墨の道、昔曾て行われず、孟軻・揚雄も、亦た困否に居る。徳有りて時無きは、自りて来る有るのみ。世に離朱無ければ、皂白混ず。時に管青乏しければ、騏蹇糅ず。礫は金匱に積まれ、瑾瑤は溝洫に委てられ、匠石は緬かに遐く淪み、梓豫は忽ち識る莫し。已んぬるかな、悲しきかな。我が生くること辰ならず、先ならず後ならず、将に呉土の化して晋と為り、南民の変じて北隷と成るを見んとす」と。言は猶お耳に在るに、孫氏は櫬を輿す。抱朴子之を聞きて曰く、二君の言は、来戒と為す可し。故に篇に録し、後代をして呉の国を失うこと、天より降るに匪ざるを知らしめんと欲す。若し茍くも国の悪を諱みて、繊芥も貶せずんば、則ち董狐は直筆に貴ぶ無く、賈誼は将に過秦を譏られんか。
現代語訳
しかし、志が高く度量が遠く、粗末な衣を着て玉を抱き、静けさを守り志を清く保ち、物に欲がなく、道を深い淵や濁りに蔵し、得心して世を忘れ、礼でなければ動かず、時でなければ現れず、困っても悶えず、窮しても悔いず、天を楽しみ命に任せ、栄えと辱めを一つにし、進んでも喜びの色なく、退いても憂いの顔がない者は、もとより雍の粗末な家の窓辺で伏して死ぬこともあるだろう。どうして自分を売り込み飾って進み出て、量り知れない宝を掲げて、燕の石を売る競争に加わろうか。孔子や墨子の道も、昔は行われず、孟子や揚雄も困窮と不遇に居た。徳があって時に恵まれないのは、昔からのことである。世に離朱がいなければ、黒と白が混じる。時に管青が乏しければ、駿馬と跛の馬が入り交じる。小石は金の箱に積まれ、美しい玉は溝に捨てられ、匠石は遥か遠く沈み、梓や豫章はたちまち知られなくなる。もう終わりだ、悲しいことだ。私が生まれたのは良い時ではなく、先でも後でもなく、まさに呉の地が変じて晋となり、南の民が北の隷属者に変わるのを見ようとしている」と。この言葉が耳に残っているうちに、孫氏は棺を車に載せて降伏した。抱朴子はこれを聞いて言う。二君の言葉は、将来への戒めとすべきである。だから篇に記録し、後の代の人に、呉が国を失ったのは天から降ったことではないと知らせたいのである。もしかりそめにも国の悪を隠し、わずかな欠点も批判しないのであれば、董狐は直筆を貴ばれず、賈誼は『過秦』の論を譏られるだろう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
抱朴子外篇・吳失抱朴子曰く、呉の杪季は、世を殊にして疾を同じくす。前疾の彼に失したるを知りて、此に弦を改むる能わず。乱亡の未だ遠からざるに鑑みて、傾車の前軌を躡み、枳首の草母を争うを睹て、同身の禍を忘れ、蟣虱の宴安するを笑い、事異なりて患い等しきを覚らず。競い済るの舟の沈むを見て、而も途を殊にして溺るること均しきを知らず。余は晋世に生まれ見ざる所なり。余が師鄭君、具さに親しく悉す所なり、毎に誨えて云う、呉の晩世は、尤も劇しき病あり、賢者は用いられず、滓穢は序に棄てられ、紀綱は馳紊し、舟を呑むもの多く漏る。貢挙は貨厚き者を以て前に在り、官人は党強き者を以て右と為し、富に匪ず勢に匪ざれば、窮年冀う無し。徳清く行高き者は、英逸を懐きて抑淪し、才有り力有る者は、雲物を躡みて官に躋る。主は上に昏く、臣は下に欺き、党せざれば得ず、競わざれば進まず、公に背くの俗は弥いよ劇しく、正直の道は遂に壊る。是に於て斥鷃は驚風に因りて霄を淩ぎ、朽舟は迅波に托して電のごとく邁き、鴛鳳は六翮を叢棘に巻き、鹢首は潢汙に滞りて擢でず。秉維の佐、牧民の吏は、母后の親に非ざれば、則ち阿諂の人なり。進みては過ちを補い遺を拾うの忠無く、退きては訟を聴くの幹無く、虚談すれば則ち口に氷霜を吐き、己を行えば則ち泥潦より濁る。
-
抱朴子外篇・吳失呉主は此れを思わず、夕に惕るるを加えず、佞諂の凡庸に、委ぬるに重任を以てし、危機は弓の弩を張るより急に、亡徴は日月に著れて、自ら岳に峙つより安く、唐虞も仰ぐ可しと謂う。目力は綺粲に疲れて、以て庶事の得失を覧ず、耳聡は淫音に尽きて、以て献言の邪正を証せず、谷帛は争わざるに靡され、而して以て戦士の凍餒を賑わさず、心神は愛媚に悦びて、以て存亡の弘理を念わず。蓋し崇替の源を軽んじて、宗廟の重きを忽せにする者なり。鄭君又た称す、其の師左先生は天柱に隠居し、出でて禄利を営まず、諸侯と友とせず、然れども心は太平を願い、窃かに桑梓を憂え、乃ち慨然として蓬屋の下に永嘆し、其の門生に告げて曰く、「漢は必ず耀を被り、黄精は載ち起こらん。枢紐を太微に纘ぎ、紫蓋を鶉首に回らす。天に聯なり物を理め、光く東夏に宅し、恵風は区外に被い、玄沢は宇内に洽からん。重訳して武を接ぎ、貢楛は庭に盈ち、蕩蕩巍巍として、上下に格り、承平にして文を守り、因循すること甚だ易し。而るに五弦は響きを謐め、南風は詠ぜず、上は恭己の逸を獲ず、下は康哉の歌を聞かず。飛龍は翔けて集まらず、淵虬は蟠りて躍らず、騶虞は冥昧に翳われ、朱華は牙して未だ秀でず、陰陽は相沴し、寒燠は節を繆り、七政は凶を告げ、陵谷は所を易え、殷雷は車の訇磕たり。龍潜の月に於いて、凝霜は朱明の運に肅殺す。玉燭は照らさず、沈醴は湧かず、郊声は塁多く、嘉生は遂げず。夫れ豈に他ならんや。誠に四凶去らず、元凱挙げられず、用うる者は賢ならず、賢なる者は用いられざるに由るなり。
-
抱朴子外篇・吳失屍禄の刺りを愧ずる莫く、戎を致すの禍を畏るる莫く、毀誉を以て蚕織と為し、威福を以て稼穡に代う。車服は則ち光りて以て鑑みる可く、豊屋には群鳥爰に止まる。叱咤は雷霆より疾く、禍福は鬼神より速く、勢利は邦君を傾け、儲積は公室より富む。出ては翟黄の衛従を飾り、入りては玉根の藻棁に遊ぶ。僮仆は軍を成し、門を閉じて市を為す。牛羊は原隰を掩い、田池は千里に布く。魚滄濯裘の倹有りて、以て趙宣・平仲の名を窃む。内には陶侃・文信の訾を崇び、実には安昌・董鄧の汙れ有り。造賓すれば嘉旨の俟を沐せず、饑士は升合の救いを蒙らずと雖も、金玉は堂に満ち、妓妾は房に溢れ、商販は千艘、腐谷は万庾、園囿は上林に擬し、館第は太極を僭し、梁肉は犬馬に余り、積珍は帑蔵に陥る。
-
抱朴子外篇・吳失其の士に接するや、葭莩の薄きも無く、其の自ら奉ずるや、理を尽くすの厚き有り。或いは律令の篇巻を開かずして、大理の位を窃み、几案の置かるる所を識らずして、機要の職に処り、五経の名目を知らずして、儒官の禄を饗け、尺紙の寒暑に閑わずして、著作の地に坐す。筆は狂簡ならずして、駁議の栄を受け、眉を低れ翼を垂れて、奏劾の選に充たり、人物の精粗を弁ぜずして、委ぬるに品藻の政を以てし、三才の軍勢を知らずして、節蓋の下に軒昂す。屢ば奔北の辱将と為るも、前鋒の顕号を失わず、菠麦の同異を別たずして、顧問の近任を忝叨す。夫れ魚質龍文は、是に似て非なり、水に遭えば喜び、獺を見れば即ち悲しむ。之に臨むに斧鋮の威を以てし、之を誘うに傾城の宝を以てすと雖も、猶お鉛鋒を犀兕より奪う能わず、駑蹇を聘して以て追風せしむ。重誅を忌まざるに非ず、美賞を悦ばざるに非ず、体は力む可からず、自ら奈何ともする無し。而るに之と百揆を輯熙し、大務を弘済せんと欲するは、猶お万鈞を尺舟の上に托し、千鍾を升合の中に求め、芻狗を紲ぎて盧鵲の効を責め、雞駑を構えて鷹揚の功を崇ぶがごとし。其の用う可からざること、亦た較然たり。
-
抱朴子外篇・擢才夫れ玉を以て石と為す者は、亦た将に石を以て玉と為さんとす。賢を以て愚と為す者は、亦た将に愚を以て賢と為さんとす者なり。石を以て玉と為すは、未だ傷つくること有らず。愚を以て賢と為すは、亡の診なり。蓋し亡を診するは、存すと雖も必ず亡び、猶お脈死する者の生くと雖も必ず死するがごとし。慎まざる可けんや。於戯、悲しいかな、之を思う莫き者なり。昔、仲尼は上聖なり、東のかた累を斉人に受け、南のかた子西に塞がる。文種は大賢なり、初め荊の俗に歯せられず、末に鈞如に雍遊す。年を競いて功を立つるは、亦た難からずや。夫れ結緑・玄黎は、陶・猗に非ざれば市る能わず。千鈞の重きは、賁・獲に非ざれば抱く能わず。白雪の弦は、霊・素に非ざれば徽にする能わず。邁倫の才は、明主に非ざれば用うる能わず。
-
抱朴子外篇・漢過若し夫れ体亮かに行い高く、神清く量遠く、諂笑して以て悦を取らず、曲言して以て心に負かず、霜を含み雪を履み、義は茍くも合わず、道に拠り方を推し、嶷然として群れず、風は疾しと雖も枝は撓まず、身は困しむと雖も操は改めず、進みては則ち辞を切にし論を正し、過ちを攻め闕を箴め、退きては則ち誠を端し私を杜ぎ、知りて為さざる無き者をば、之を門音騃徒苦と謂い、夙に興き夜に寐ね、退きて公に食し、憂労して損益し、力を畢して政を為す者をば、之を小器俗吏と謂う。是に於て明哲は色斯にして幽遁し、高俊は囊を括りて愚を佯り、疏賤の者は奮飛して木を択び、縶制の者は曲従して朝に隠れ、知者は其の秘算を吐くを肯んぜず、勇者は其の果毅を致さず、忠謇は離退し、奸兇は志を得、邪流は溢れて遏む可からず、偽途は辟けて杜ぐ可からず。以て上を淩ぎ下を替し、盗賊多く有り、宦者は人主の威を奪い、三九は庸豎の手に死するに臻る。忠賢の望士を、之を党人と謂い、囚捕誅鋤し、天下嗟嗷し、罪無く辜無きに、門を閉じて禍に遇う。微煙は蕭墻に起こりて、飈焚は宇宙に遍し。浅隙は膚寸に発して、波濤は四極に漂う。金城は庶寇に屠られ、湯池は一葦に航され、勁鋭は塵を望みて氷のごとく泮け、征人は戈を倒して奔北し、飛鋒は戸衣闥に薦まり、左衽は禁省を掠め、禾黍は廟堂に生じ、榛莠は玉階に秀で、雲観は変じて狐兔の藪と為り、象魏は化して虎豹の蹊と為り、東序は煙として委灰に燼き、生民は火に焦がれ淵火に淪む。兇家は国を害し、罪を竹帛に得、良史に褒言無く、金石に徳音無し。夫れ何ぞや。夫れ人の故なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る