抱朴子外篇 / 酒誡
夫酒醴之近味,生病之毒物,無毫分之細益,有丘山之巨損,君子以之敗德,小人以之速罪,耽之惑之,鮮不及禍。世之士人,亦知其然,既莫能絕,又不肯節,縱心口之近欲,輕召災之根源,似熱渴之恣冷,雖適己而身危也。小大亂喪,亦罔非酒。然而俗人是酣是湎,其初筵也,抑抑濟濟,言希容整,詠《湛露》之「厭厭」,歌「在鎬」之「愷樂」,舉「萬壽」之觴,育「溫克」之義。日未移晷,體輕耳熱。夫琉璃海螺之器並用,滿酌罰余之令遂急。醉而不止,拔轄投井。
新字:夫酒醴之近味,生病之毒物,無毫分之細益,有丘山之巨損,君子以之敗徳,小人以之速罪,耽之惑之,鮮不及禍。世之士人,亦知其然,既莫能絶,又不肯節,縦心口之近欲,軽召災之根源,似熱渇之恣冷,雖適己而身危也。小大乱喪,亦罔非酒。然而俗人是酣是湎,其初筵也,抑抑済済,言希容整,詠《湛露》之「厭厭」,歌「在鎬」之「愷楽」,舉「万寿」之觴,育「温克」之義。日未移晷,体軽耳熱。夫琉璃海螺之器並用,満酌罰余之令遂急。酔而不止,抜轄投井。
書き下し
夫れ酒醴の近味は、病を生ずる毒物にして、毫分の細益無く、丘山の巨損有り。君子は以て徳を敗り、小人は以て罪を速くす。之に耽り之に惑えば、禍に及ばざること鮮し。世の士人も、亦其の然るを知れども、既に絶つ能わず、又節するを肯んぜず、心口の近欲を縦にし、災いを召く根源を軽んず。熱渇の冷を恣にするが似く、己に適うと雖も身危うし。小大の乱喪も、亦酒に非ざる罔し。然れども俗人は是れ酣し是れ湎し、其の初筵や、抑抑済済として、言希に容整い、《湛露》の「厭厭」を詠じ、「在鎬」の「愷楽」を歌い、「万寿」の觴を挙げ、「温克」の義を育う。日未だ晷を移さずして、体軽く耳熱し。夫れ琉璃・海螺の器並び用い、満酌・罰余の令遂に急なり。醉いて止まず、轄を拔きて井に投ず。
現代語訳
そもそも酒は、手近な味わいでありながら病を生む毒物で、毫ほどの益もなく、丘や山ほどの大きな損がある。君子はこれによって徳を損ない、小人はこれによって罪を招く。耽り惑えば、禍に及ばないことは稀である。世の士人もそうだと知っていながら、絶つことができず、節することも承知せず、心と口の目先の欲を縦にして、災いを招く根源を軽んじている。熱で渇いた者が冷たいものを思うままに飲むようなもので、自分には心地よくても身が危うい。大小の乱れや滅びも、酒によらないものはない。それなのに俗人は酔い痴れ、その宴の初めは慎み深くいかめしく、言葉は少なく姿勢も整い、『湛露』の「厭厭」を詠じ、「在鎬」の「愷楽」を歌い、「万寿」の杯を挙げ、「温克」の義を養う。ところが日影がまだ移らないうちに、体は軽くなり耳は熱くなる。ガラスや海螺の杯が並び用いられ、満杯に注ぐこと、罰の杯を余さず飲ませる決まりがついに急がれる。酔ってやめず、客を引き止めるために車の轄を抜いて井戸に投げ込む。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
説苑・說叢聖人の衣や體に便にして以て身を安んじ、其の食や腹に安んず。衣を適し食を節し、口目に聽かず。
-
説苑・雜言孔子曰く、「中人の情は、余り有れば則ち侈り、足らざれば則ち倹にし、禁無ければ則ち淫し、度無ければ則ち失し、欲を縦にすれば則ち敗る。飲食に量有り、衣服に節有り、宮室に度有り、畜聚に数有り、車器に限有るは、以て乱の源を防ぐなり。故に夫れ度量は明らかにせざる可からず、善言は聴かざる可からず」と。
-
葉隠・聞書第一大酒にて後れを取りたる人、数多(あまた)なり。別して残念の事なり。まず我が丈け分(たけぶん)をよく覚え、その上は飲まぬ様にありたきなり。そのうちにも、時により、酔い過す事あり。酒座(しゅざ)には就中(なかんずく)気をぬかさず、図(はか)らぬ事出来(しゅったい)ても間に合う様に、了簡(りょうけん)あるべき事なり。また酒宴は……
-
尚書・說命中寵を啓きて侮りを納るる無かれ、過ちを恥じて非を作す無かれ。
-
葉隠・聞書第一時により、人に用(よう)をいい、物をもらう事有り。それも度重(たびかさ)ならば、無心(むしん)になり、いやしかるべし。何とぞ済む事ならば、用をいわぬように有りたきなり。
-
論語・述而篇子は釣りして綱せず、弋して宿を射ず。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る