抱朴子外篇 / 弭訟
或曰:可使女氏受娉無豐約,皆以即日報板,後皆使時人署姓名於別板,必十人已上,必備遠行及死亡。又令女之父兄若伯叔,答婿家書,必手書一紙,若有變悔而證據明者,女氏父母兄弟,皆加刑罪。如此,庶於無訟者乎!
新字:或曰:可使女氏受娉無豊約,皆以即日報板,後皆使時人署姓名於別板,必十人已上,必備遠行及死亡。又令女之父兄若伯叔,答婿家書,必手書一紙,若有変悔而証拠明者,女氏父母兄弟,皆加刑罪。如此,庶於無訟者乎!
書き下し
或ひと曰く、「女氏をして娉を受くること豊約と無く、皆即日に報板せしめ、後に皆時人をして別板に姓名を署せしめ、必ず十人已上、必ず遠行及び死亡に備えしむ可し。又女の父兄若しくは伯叔をして、婿家に書を答えしめ、必ず手書の一紙とし、若し変悔有りて証拠明らかなる者は、女氏の父母兄弟、皆刑罪を加えん。此くの如くんば、庶わくは訟無き者ならんか」と。
現代語訳
ある人が言う。「女の家が結納を受けるときは、多い少ないを問わず、すべてその日のうちに返事の札を書かせ、後で同時代の人々に別の札へ姓名を署名させる。必ず十人以上とし、遠方への旅立ちや死亡の場合にも備えさせるべきである。また女の父兄または伯父叔父に、婿の家へ返書を書かせ、必ず自筆の一枚とし、もし心変わりがあって証拠が明らかなら、女の家の父母兄弟みなに刑罰を加える。こうすれば、おそらく訴訟はなくなるであろう」。
解説
篇の中の別案として、ある人が書面と証人による方法を示します。結納の額にかかわらずその日に返事の札を作り、十人以上に署名させ、旅立ちや死亡の場合に備える。さらに自筆の書状を取り、変心して証拠が明らかなら、家族全員を処罰するというものです。ここにあるのは、争いが起きてからの裁きに頼らず、事前に記録と証人を残す発想です。「必ず手書の一紙」と、当事者本人の筆を求める点は、現在の契約書管理に近く、口約束を可視化する工夫と言えます。ただ、罰が家族全員に及ぶ点は過剰で、記録の整備と罰則の重さは分けて考えるべきでしょう。
この章句が説くこと
皆即日に報板せしめ必ず十人已上必ず手書の一紙とし庶わくは訟無き者ならんか契約記録
関連する章句
-
抱朴子外篇・弭訟夫れ伏せざる人は、死を視ること帰するが猶し、血刃の禍は、是に於いて将に起こらんとす。今茍くも其の辞訟の小醜を惜しみて、其の忍び難きの大恨みを構うるは、所謂其の僦覧の煩わしきを愛しみて、其の雕殞の酷きを忘るるなり。夫れ物を市に買う者、或いは価を加えて之を奪えば、則ち忍びて忿然たらざるは鮮し、況んや奪われて告ぐるを待つの妻をや。此の法遂に用いらるれば、婚を結ぶ者をして、敬を納め親迎すと雖も、猶お奪わるるの慮りを抱かしめん。何となれば、劉君の論は、同牢を以て断と為す、固なり。爾れば則ち女氏は幣を受くること積年なりと雖も、恒に意に在るの威を挟み、数ば奪う可きを恃みて、必ず婿を択ぶに惰り、婿小しく意を得ざれば、便ち改悔するを得、讎を結び禍を帯びること、此れより甚だしきは莫し。曩人の法を画きし、慮りは終始に関わり、漸を杜ぎ萌を防ぎ、思うこと良に精しきも、恣奪の路を関さず、報板の制を以て断ずるは、殆ど決する有らんか。
-
抱朴子外篇・弭訟抱朴子答えて曰く、「劉君は徳譲の淩替を憫れみ、民争の化を損なうを疾み、我を速くせしむると雖も訟えて、室家足らず、和を用うるの貴きも、将に遂に淪胥せんとす。讜言を創めて以て世の遺を拾い、嘉謀を建てて以て流遁を拯う。紛嘩の俗は、将に此を以て易り、無恥の風は、将に此に由りて移らん。情偽を弥綸すること、固より間し難し。誠に経国の永法、至益の篤論なり。洪は不敏を以て、至理を識らず、造次に問いを承け、竊かに疑い有り。夫れ婚媾の結びは、義として逼迫する無し、彼は則ち簡択して求め、此は則ち意に可なれば乃ち許す。軽諾して後に悔ゆるは、罪は女氏に在り、言を食み信を棄て、与奪情に任するは、厳防峻制も、未だ之を弭むる能わず。今猥りに之を恣にし、唯だ裨娉を倍にするを責むれば、貧者の憚る所にして、財に豊かなる者は、則ち其の願いに適う。後に許す所の者は、或いは能く富殖して、其の裨娉を助けば、必ず甘心する所ならん。然れば則ち先の家は拱默して、言有るを得ず、情を原ねて之を論ずれば、能く怨嘆する無からんや。
-
抱朴子外篇・弭訟姑子の劉君士由の論に曰く、「人綱は夫婦に始まり、判合は二儀に擬う。是の故に大婚の礼は、古人の重んずる所、将に二姓の好を合わせて、以て祖宗の基を承けんとす。主人は門に拝迎し、命を廟に聴き、玄纁・贄幣、親ら御して綏を授く。婿に三年の喪有れば、命を女氏に致し、女氏許諾して敢えて改めず。大喪既に没すれば、命を婿に請い、婿に辞有りて、然る後に乃ち嫁ぐ。崇敬・譲る所以なり。豈に先に訟えて後に婿とすと謂うこと有らんや。而るに末世は軽慢にして、化を傷つけ俗を敗り、挙げて義を修めず、許して与えず、訟鬩穢辱して、官曹に煩塞す。今諸もろの婚を争う者をして、未だ同牢に及ばざれば、皆義絶を聴し、而して酒礼を倍還し、其の幣帛を帰さしむ可し。其の嘗て已に再び離れたる者は、一倍の裨娉。其の三たび絶つ者は、再倍の裨娉。此くの如くんば、離るる者は訟心を生ぜず、貪吝なる者は重く受くるに利無し、乃ち王治の要術、易えざる永法なり」と。
-
抱朴子外篇・弭訟儻し女に国色有り、城を傾け絶倫なるも、豪右権臣の徒に値わば、目は冶容を玩び、心は礼度を忘れ、資は千金を累ね、情に吝しむ所無し。十倍して娉を還すも、猶お憚らざる所、況んや但だ一なるをや。華氏は孔父を殺して其の妻を取るに難しとせず、楚人は子の為に婦を迎えて、其の美なるを以て自ら納る。此を以て之を論ずれば、豈に居産を傾竭して以て女氏の前家の直を還すを助くるを惜しまんや。小人は軽薄にして、睚眥も怨みと成り、又衰を委て盛を逐い、冷を蹋み熱に趨るを喜ぶ。此の法の行わるれば、則ち必ず貧賤より多く奪いて富貴に与えんか。審らかならず吾が君、何れの方を以て弊を防がんとするか。
-
牧民忠告・聽訟訟(しょう)を起こすに原書(げんしょ)有り、訟牒(しょうちょう)なる者是れなり。蓋し蚩蚩(しし)の氓(たみ)は刑憲に暗(くら)し、訟を書する者誠に能く之を開くに枉直(おうちょく)を以てし、之を暁(さと)すに利害を以てすれば、愧服(きふく)せずして両(ふた)つながら釈(と)けて退く者鮮(すくな)し。惟(た)だ其の心獲る所に利あれば、其の是非を含糊(がんこ)にし、陽(おもて)には解き陰(うら)には嗾(そそのか)し、左に縦(ゆる)め右に擒(とら)え、智を舞わし民を弄び、厭(あ)かず已(や)まず、所以(ゆえ)に厥(そ)の今吏(り)情偽(じょうぎ)混淆し、之を能く信ずる莫き者は、蓋し此れに職(もと)づくなり。大抵(たいてい)一方の訟、宜しく一二の老成煉事(ろうせいれんじ)の者を択びて之を書せしむべし。月に比(くら)べ季に考え、其の功過を酌(く)みて賞罰を加う。若(も)し夫れ毆詈仮質(おうりかしつ)、凡そ切ならざるの訟は、其の宜しきに従いて之を諭(さと)し遣(や)るに聴(まか)す。之を諭して伏さざれば、乃ち官に達す。終に悛(あらた)むる心無くば、律するに三尺を以てす。此くの如くんば則ち訟源(しょうげん)清む可くして、民間澆薄(みんかんぎょうはく)の俗庶幾(こいねが)わくは復(ま)た厚きに帰らん。
-
抱朴子外篇・廣譬抱朴子曰く、丹書鉄券、牲を刺し血を歃るも、違約の弊を救う能わざれば、則ち結縄の検を以てし難し。五刑九伐、赤族の威も、覬覦の奸を止むるに足らざれば、則ち干を舞わして化す可からず。是を以て《書》に世重の文有り、《易》に随時の宜有り。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る