抱朴子外篇 / 用刑
譬存玄胎息,呼吸吐納,含景內視,熊經鳥伸者,長生之術也。然艱而且遲,為者鮮成,能得之者,萬而一焉。病篤痛甚,身困命危,則不得不攻之以針石,治之以毒烈。若廢和鵲之方,而慕松喬之道,則死者眾矣。仁之為政,非為不美也。然黎庶巧偽,趨利忘義。若不齊之以威,糾之以刑,遠羨羲農之風,則亂不可振,其禍深大。以殺止殺,豈樂之哉!
新字:譬存玄胎息,呼吸吐納,含景内視,熊経鳥伸者,長生之術也。然艱而且遅,為者鮮成,能得之者,万而一焉。病篤痛甚,身困命危,則不得不攻之以針石,治之以毒烈。若廃和鵲之方,而慕松喬之道,則死者衆矣。仁之為政,非為不美也。然黎庶巧偽,趨利忘義。若不斉之以威,糾之以刑,遠羨羲農之風,則乱不可振,其禍深大。以殺止殺,豈楽之哉!
書き下し
譬えば玄を存し胎息し、呼吸吐納し、景を含み内視し、熊経鳥伸する者は、長生の術なり。然れども艱にして且つ遅く、為す者成ること鮮く、能く之を得る者は。病篤く痛み甚だしく、身困しみ命危うければ、則ち之を攻むるに針石を以てし、之を治むるに毒烈を以てせざるを得ず。若し和・鵲の方を廃して、松・喬の道を慕わば、則ち死する者衆からん。仁の政を為すは、美ならずと為すに非ざるなり。然れども黎庶は巧偽にして、利に趨り義を忘る。若し之を斉うるに威を以てせず、之を糾すに刑を以てせず、遠く羲・農の風を羨まば、則ち乱は振う可からず、其の禍深大なり。殺を以て殺を止む、豈に楽しまんや。
現代語訳
たとえば、玄を保ち胎息し、呼吸を吐納し、気を含んで内を見つめ、熊や鳥の動きを真似る導引は、長生の術である。しかし難しく時間がかかり、行う者のうち成し遂げる者は少なく、会得できる者は万に一人である。病が重く痛みが激しく、身は苦しみ命が危うくなれば、針や石で治し、強い薬で治療しないわけにはいかない。もし医和や扁鵲の方術を捨てて、赤松子や王子喬の道を慕えば、死ぬ者が多く出るだろう。仁による政治が美しくないというのではない。しかし民は巧みに偽り、利に走って義を忘れる。もし威で整えず、刑で正さず、遠く伏羲や神農の風を羨むなら、乱は収まらず、その禍は深く大きい。殺をもって殺を止めるのだ。どうして楽しんでそうしようか。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・用刑故に一を誅して以て万を振るい、少を損じて以て多を成す。之を櫛髪に方ぶれば、則ち利する所の者衆く、割疽に比ぶれば、則ち全うする所の者大なり。是を以て灸刺は惨痛なるも止む可からざるは、以て病を痊やせばなり。刑法は兇醜なるも罷む可からざるは、以て弊を救わばなり。六軍林の如く、未だ必ずしも皆勇ならず。鋒を排し火に陥ること、人情の憚る所なり。然るに顔を恬くして以て之を勧むれば、則ち命を投ずる者鮮く、断斬して以て之を威せば、則ち奮い撃たざる莫し。故に歓笑を役う者は、叱咤の速きに及ばず、誘悦を用うる者は、刑戮の斉うるに未だ若かず。是を以て安於は深谷に感じて其の法を厳にし、衛子は棄灰を疾みて其の辟を峻くす。夫れ其の畏るる所を以て、其の玩ぶ所を禁じ、峻にして犯されざるは、民を全うするの術なり。病を治するの術に明らかなる者は、未生の疾を杜ぎ、治乱の要に達する者は、将来の患を遏む。若し乃ち軽刑を以て重罪を禁じ、薄法を以て厚利を衛り、之を陳ぬること滋々章かにして、犯す者彌々多きは、阱を穿ちて以て路に当つるに似て、仁人の懐いを用うるに非ざるなり。
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抱朴子外篇・用刑「且つ刑は刃の由きなり。巧人は以て自ら成し、拙き者は以て自ら傷つく。国を治むるに道有りて之を助くるに刑を以てする者は、能く慝偽をして作らず、兇邪をして志を改めしむ。若し綱絶え網紊れ、罪を天に得、刑を用いて理を失えば、其の危うきこと必ず速かなり。亦た猶お水火は人を活かす所以にして、亦た人を殺す所以なるがごとく、能く用いると用いざるとに存するなり。「夫れ癥瘕除かずして、越人の術を修めざる者は、老彭の寿を図り難し。奸党実に繁くして、違を弾ずるの制を厳にせざる者は、未だ其の世を長くするの福を見ざるなり。但だ当に于張の徒を簡び、任ずるに法を以て世を理め、趙・陳の属を選び、季するに案劾を以てすべし。明主は神を上に留め、忠良は誠を下に尽くし、不善を見れば則ち鷹鹯の鳥雀を搏つが若く、乱の萌すを睹れば則ち草雉田の穢を芟るが若くせば、慶賞は謬りて加えず、誅戮は罪を失わず、則ち太平の軌は迪むに足らず。令して犯さざれば、庶幾わくは刑を廃して治を致す可きも、未だ敢えて然りと謂わざるなり」と。
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抱朴子外篇・用刑抱朴子曰く、仁を貴ばざる莫きも、仁を純にして以て治を致す能うもの無きなり。刑を賤しまざる莫きも、刑を廃して以て民を整うる能うもの無きなり。或るひと云う、「明后世を禦すれば、風向かいて草偃す。道洽く化醇なれば、安くにか刑を用いん」と。余乃ち之を論じて曰く、「夫れ徳教なる者は、黼黻の祭服なり。刑罰なる者は、捍刃の甲冑なり。若し徳教を以て狡暴を治むれば、猶お黼黻を以て剡鋒を禦ぐがごときなり。刑罰を以て平世に施せば、是れ甲を以て廟堂に升るなり。故に仁なる者は物を養うの器、刑なる者は非を懲らすの具なり。我之を利せんと欲するに、彼は之を害せんと欲し、仁を加えて悛むる無ければ、刑に非ざれば止まず。刑は仁の佐と為る、是に於いて知る可し。
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抱朴子外篇・用刑「但だ当に先ず令して後に誅し、情を得て喜ぶ勿かるべく、伯氏をして邑を失うに怨む無からしめ、虞・芮をして恥を知りて訟えざらしむるのみ。若し強暴は容を掩い、縄を操りて憚らず、含垢に誘われて、蔓を莫んじて除かず、藏疾の大言を恃みて、膏肓の近急を忘れば、何ぞ喉を焦す渇の身に切なるに、遥かに滄海を万里の外に指さし、滔天の水已に及びて、方に舟を長洲の林に造るに異ならんや。安んぞ夸父の禍を免れ、淪水の害を脱するを得んや。世人は申・韓の実事を薄んじ、老・荘の誕談を嘉す。然れども政を為して刑を錯く能わず、人を殺す者は其の死を原し、人を傷つくる者は其の罪を赦す。所謂土木・半瓦・胾は、朝の饑えを救う無き者なり。道家の言は、高きは則ち高し、之を用うれば弊あり、遼落迂闊なること、譬えば干将は以て線を縫う可からず、巨象は鼠を使う可からず、金舟は陽侯の波を凌ぐ能わず、玉馬は千里の跡を騁するに任えざるが猶し。
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抱朴子外篇・用刑「善く政を為す者は、必ず先ず此を端しくして以て彼を率い、親を治めて以て疏を整え、法を曲げて以て意を行わず、必ず罪有れば赦す無し。石碏の愛を割きて以て親を滅ぼし、晋文の情を忍びて以て頡を斬るが若し。故に仁は、政の脂粉なり。刑は、世を禦するの轡策なり。脂粉は体中の至急に非ざるも、轡策は須臾も無かる可からず。粛恭少しく怠れば、則ち慢惰已に至り、威厳暫く弛めば、則ち群邪心を生ず。怒るに当たりて怒らざれば、奸臣は虎と為り、殺すに当たりて殺さざれば、大賊乃ち発す。水久しくして河を壊り、山は咫尺より起こる。尋木千丈も、毫末より始まる。鑽燧の火は、勺水もて滅す可く、鵠卵の未だ孚らざるは、指掌もて縻ぐ可し。其の沖飈に乗じて巨野を燎き、六羽を奮いて朝霞を凌ぐに及べば、則ち智勇と雖も制する能わず。
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抱朴子外篇・用刑或る人曰く、「刑辟の興るは、蓋し叔世に存す。人を立つるの道は、唯だ仁と義のみ。我清静にして民自ら正し、我無欲にして民自ら樸なり。鮮を烹るの戒めは、其の煩わしきを欲せず。寛にして以て人を愛すれば則ち衆を得、悦びて以て人を使えば則ち下附く。故に孟子は仁を体するを以て安と為し、揚子雲は申・韓を屠宰と謂う。夫れ策を繁くし轡を急にするは、造父の御に非ず。有虞は手に指揮せず。故に有虞は手に指揮せず、口に煩言せず、己を恭しくして南面するのみにして、治化雍熙たり。宓生は政を以て俗を率い、琴を弾じ詩を詠じ、身は堂を下らずして、漁者宵に粛なり。
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