抱朴子外篇 / 嘉遁
「又欲推短才以厘雷同,仗獨是以彈眾非。然不睹金雖克木,而錐鉆不可以伐鄧林;水雖勝火,而升合不足以救焚山。寸膠不能治黃河之濁,尺水不能卻蕭丘之熱。是以身名並全者甚稀,而先笑後號者多有也。畏亢悔而貪榮之欲不滅,忌毀辱而爭肆之情不遣,亦猶惡濕而泳深淵,憎影而不就陰,穿舟而息漏,猛爨而止沸者也。「夫七尺之骸,稟之以所生,不可受全而歸殘也;方寸之心,制之在我,不可放之於流遁也。躬耕以食之,穿井以飲之,短褐以蔽之,蓬廬以覆之,彈詠以娛之,呼吸以延之,逍遙竹素,寄情玄毫,守常待終,斯亦足矣。且夫道存則尊,德勝則貴,隋珠彈雀,知者不為。何必須權而顯,俟祿而飽哉!
新字:「又欲推短才以厘雷同,仗独是以弾衆非。然不睹金雖克木,而錐鉆不可以伐鄧林;水雖勝火,而升合不足以救焚山。寸膠不能治黄河之濁,尺水不能却蕭丘之熱。是以身名並全者甚稀,而先笑後号者多有也。畏亢悔而貪栄之欲不滅,忌毀辱而争肆之情不遣,亦猶悪湿而泳深淵,憎影而不就陰,穿舟而息漏,猛爨而止沸者也。「夫七尺之骸,稟之以所生,不可受全而帰残也;方寸之心,制之在我,不可放之於流遁也。躬耕以食之,穿井以飲之,短褐以蔽之,蓬廬以覆之,弾詠以娯之,呼吸以延之,逍遥竹素,寄情玄毫,守常待終,斯亦足矣。且夫道存則尊,徳勝則貴,隋珠弾雀,知者不為。何必須権而顕,俟禄而飽哉!
書き下し
「又短才を推して以て雷同を厘め、独是に仗りて以て衆非を弾せんと欲す。然れども金は木に克つと雖も、錐鑽は以て鄧林を伐る可からず、水は火に勝つと雖も、升合は以て焚山を救うに足らざるを睹ず。寸膠は黄河の濁りを治する能わず、尺水は蕭丘の熱を却ける能わず。是を以て身名並び全き者は甚だ稀にして、先に笑い後に号ぶ者は多く有り。亢悔を畏れて栄を貪るの欲は滅せず、毀辱を忌みて争肆の情は遣らず。亦た湿を悪みて深淵に泳ぎ、影を憎みて陰に就かず、舟に穿ちて漏れを息め、猛く爨ぎて沸くを止むるがごとき者なり。夫れ七尺の骸は、之を稟くるに生ずる所を以てし、全きを受けて残えるを以て帰す可からず。方寸の心は、之を制すること我に在り、之を流遁に放つ可からず。躬耕して以て之を食らい、井を穿ちて以て之を飲み、短褐以て之を蔽い、蓬廬以て之を覆い、弾詠以て之を娯しみ、呼吸以て之を延ばし、竹素に逍遙し、情を玄毫に寄せ、常を守りて終わりを待つ。斯れ亦た足れり。且つ夫れ道存すれば則ち尊く、徳勝れば則ち貴し。隋珠もて雀を弾つは、知者は為さず。何ぞ必ずしも権を須ちて顕れ、禄を俟ちて飽かんや」。
現代語訳
「また、乏しい才を推し立てて世の付和雷同を正し、ただ自分だけが正しいという立場で大勢の誤りを糾弾しようとする。しかし、金は木に勝つといっても、錐では鄧林の大森林は切り倒せず、水は火に勝つといっても、一升ばかりの水では燃える山を救えないことを見ていない。一寸の膠では黄河の濁りを治められず、一尺の水では蕭丘の熱を冷ませない。だから、身も名もともに全うした者はごく稀で、先に笑い後で泣く者が多い。行きすぎの悔いを恐れても栄えをむさぼる欲は消えず、そしりや恥を嫌っても争う心は去らない。これは湿気を嫌って深い淵に泳ぎ、影を憎みながら日陰に行かず、舟に穴をあけて水漏れを止めようとし、火を強く焚いて湯の沸くのを止めようとするようなものだ。七尺の身体は、生まれ持った天与のものであり、完全に受けたものを欠けたまま返してはならない。方寸の心を制するのは私自身にあり、勝手気ままに放ってはならない。自ら耕して食べ、井戸を掘って水を飲み、粗末な衣で身を覆い、蓬の庵で屋根とし、琴と詠じて楽しみ、呼吸を整えて命を延ばし、書物の間を逍遥し、思いを筆に寄せ、常の道を守って終わりを待つ。これで十分である。そもそも道が存すれば尊く、徳が優れていれば貴い。隋侯の珠で雀を撃つようなことは、知者はしない。どうして権勢を待って世に現れ、俸禄を待って腹を満たす必要があろうか」。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・嘉遁「且つ夫れ貧に安んずる者は財無きを以て富と為し、卑に甘んずる者は仕えざるを以て栄と為す。故に幼安は海に浮かびて神を澄ませ、胡子は心を退耕に甘んず。逢・比は令徳の罪有り、信・布は功大なるの刑に陥る。一枝は以て鸞羽を戢むるに足る、何ぞ豊林を煩わさん。潢洿は以て龍鱗を泛ぶるに足る、豈に滄海を事とせんや。藜藿は八珍より嘉く、寒泉は醽醁より旨し。躡履は赤舄より美しく、縕袍は袞服より麗し。把橦は杖鉞より安らかに、鳴条は絲竹より楽し。茅茨は丹楹より艶しく、辨椽は刻桷より珍し。高峰に登りて台榭と為し、巌霤を疵して華屋と為す。篇章を積みて敖庾と為し、玄談を宝として金玉と為す。細人の近戀を棄て、庸隷の欲する所を捐つ。九臯に遊びて以て歓びを含み、智慧を遣りて以て俗を絶つ。尺蠖に同じく屈し、光を蔵めて樸を守る。拙を表し訥を示し、止まるを知りて常に足る。然る後に芝芳を咀嚼し、風のごとく飛び雲のごとく浮かぶ。景を九陽に晞し、翼に附して高く遊び、仰ぎては梧桐に棲み、俯しては玄洲に集う。孰か轡を銜みて櫪に伏し、繡を被る犠牛に同じからんや」と。
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抱朴子外篇・嘉遁是に於いて懐冰先生は蕭然として遐かに眺め、気を天衢に遊ばせ、情神は遼緬として、傍らに物無きが若し。俯して答えて曰く、「嗚呼、是の言有らんや。蓋し至人は無為にして、神を沖漠に棲ましめ、志を禄利に役せず、故に害辱も加うる能わず。険途に躊躇せず、故に傾墜も患いと為る能わず。藜藿も供せざるも、意は方丈に佚し、庸民と斉編なるも、心は有土に歓ぶ。宜僚の舎に寝ね、干木の閭を閉ざし、荘莱の友を携え、陋巷の居を治め、確として嶽のごとく峙ちて抜けず。豈に巻舒に懐い有らんや。欲広ければ則ち和を濁すを以て、故に世務を委てて紆眄せず。位極まる者は憂い深きを以て、故に勢利に背きて余疑無し。其の貴きは爵を以てせず、富めるは財を以てせず。雲鵬に侶して以て高く逝く。故に腐鼠に翮を縈わせず。蕃武を以て厚誡と為す。故に簞瓢に楽しみを改めず。
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抱朴子外篇・安貧夫れ丸泥すら已に彭蠡の沸騰を遏む能わず、独賢も亦た焉んぞ流遁の正を失うを反す能わん。今、先生は入りては儋石の儲え無く、出でては束修の調え無し。徒に章を含むこと龍鳳の如く、文を被ること虎豹の如く、之を吐けば波濤の如く、之を陳ぶれば錦繡の如くして、環堵に凍餓す、何ぞ計の疏なるを吊わざらん。奚ぞ軽舟を泛べて迅に托し、飛帆を禦して遠く之かざる。瑰貨を朔南に交わし、金碧を九疑に収めん。崔烈の遐武に迪み、好爵を清時に縻がざるや。徒に述作に疲労するは、豈に蟬蛻の期有らんや。独り身を苦しめて以て名と為すは、乃ち黄老の蚩う所なり」と。
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抱朴子外篇・嘉遁「夫れ縄舒ぶれば則ち木直く、正進めば則ち邪雕む。有虞挙ぐれば則ち四凶戮せられ、宣尼任ぜられば則ち少正卯梟せらる。猶お震雷駭けば則ち鼛鼓堙み、朝日出づれば則ち蛍燭幽るるがごとし。招魂の病を拯わざれば、則ち越人の絶技を效うこと無く、多難の世を奨めざれば、則ち非常の遠量を知る無し。高拱して以て溺るるを観るは、践む勿きの仁に非ず。道を懐きて以て国を迷わしむるは、作者の務めに非ず。若し中唐に占日の草を殖え、朝陽に鳴鳳の音を繁くし、郊に独角の獣を跱め、野に連理の林を攢むを俟たば、長旌は巻かれて懸けられず、干戈は戢められて尋ねられず、少伯は方に功成るに告退せんとす。孰か能く相い陸沈を擢んでんや。深く願わくは先生、遠からずして復るを迷わず」と。
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抱朴子外篇・任命「士は能く貴ぶ可きの行いを為せども、俗をして必ず之を貴ばしむる能わず。能く用う可きの才と為れども、世をして必ず之を用いしむる能わず。褐を被て草を茹い兎を罝すれば、則ち心歓び意得て、将に身を終えんとするが如く、冕を服し軺に乗り、朱を兼ね紫を重ぬれば、則ち固より有するが若し。常に布衣の如くなるは、此れ至人の懐を用うるなり。席上の珍積まず、環堵の操粋ならざるが若きは、予の罪なり。之を知る者希にして、名位の臻らず、玉を以て石と為し、鳳を謂いて鷃と曰う者は、余の罪に非ざるなり。夫れ見知を汲汲とし、否滞を悒悒とするは、裳民の情なり。浩然として気を養い、淡爾として欲靡きは、悶うる無きの志なり。時至り道行わるれば、器の大なる者は悦ばず。天地の間、命を知る者は憂えず。若し乃ち万金の貨に徇いて、以て百十の售を索めば、多く失い幹毛を乾かさん。我は則ち未だ暇あらざるなり」と。
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抱朴子外篇・嘉遁「蓋し禄厚き者は責め重く、爵尊き者は神労す。故に漆園は綸を垂れて卿相の貴を顧みず、柏成は耜を操りて諸侯の高きを屑しとせず。羊説は屠肆に安んじ、楊朱は其の一毛を吝む。僥求の徒は、欲す可きに昧く、集まるに木を択ばず、仕うるに世を料らず、進むを貪りて負乗の禍いを慮らず、任を受けて不堪の敗れを計らず。栄貴を論ずれば則ち伊周を引きて以て溺るるを救うと言い、亢悔を言えば則ち覆餗を諱みて記さず。河龍の睡を伺いて明珠を撥り、量表の寵に居りて患い無きを冀う。漏刻の安きに耽りて、必至の危うきを蔽う。朝菌の栄無くして、大椿の寿を望む。薄氷を蹈みて夏日を待ち、朽枝に登りて勁風を須つに似たり。淵魚の芳餌を引き、沢雉の毒粒を咽むがごとし。漏脯を咀みて以て饑えを充たし、鴆酒に酣いて以て渇きを止むるなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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