抱朴子外篇 / 嘉遁
於是有赴勢公子聞之,慨然而嘆曰:「空谷有項領之駿者,孫陽之恥也;太平遺冠世之才者,賞真之責也。安可令俊民全其獨善之分,而使聖朝乏乎元凱之用哉!」乃造而說曰:「徒聞振翅竦身,不能淩厲九霄,騰跚玄極,攸敘彜倫者,非英偉也。今先生操立斷之鋒,掩炳蔚之文,玩圖籍於絕跡之藪,括藻麗乎鳥獸之群,陳龍章於晦夜,沈琳瑯於重淵,蟄伏於盛夏,藏華於當春;雖復下帷覃思,殫毫騁藻,幽贊太極,闡釋元本,言歡則木梗怡顏如巧笑,語戚則偶嚬顣而滂沱,抑輕則鴻羽沈於弱水,抗重則玉石漂於飛波,離同則肝膽為胡越,合異則萬殊而一和,切論則秋霜春肅,溫辭則冰條吐葩,摧高則峻極頹淪,竦卑則淵池嵯峨,疵清則倚暗夜光,救濁則立澄黃河。然不能沾大惠於庶物,著弘勛於皇家,名與朝露皆晞,體與蜉蝣並化,忽崇高於聖人之寶,忘川逝於大耋之嗟,竊為先生不取焉。
新字:於是有赴勢公子聞之,慨然而嘆曰:「空谷有項領之駿者,孫陽之恥也;太平遺冠世之才者,賞真之責也。安可令俊民全其独善之分,而使聖朝乏乎元凱之用哉!」乃造而説曰:「徒聞振翅竦身,不能淩厲九霄,騰跚玄極,攸敘彜倫者,非英偉也。今先生操立断之鋒,掩炳蔚之文,玩図籍於絶跡之藪,括藻麗乎鳥獣之群,陳竜章於晦夜,沈琳瑯於重淵,蟄伏於盛夏,蔵華於当春;雖復下帷覃思,殫毫騁藻,幽賛太極,闡釈元本,言歓則木梗怡顔如巧笑,語戚則偶嚬顣而滂沱,抑軽則鴻羽沈於弱水,抗重則玉石漂於飛波,離同則肝胆為胡越,合異則万殊而一和,切論則秋霜春粛,温辞則冰条吐葩,摧高則峻極頽淪,竦卑則淵池嵯峨,疵清則倚暗夜光,救濁則立澄黄河。然不能沾大恵於庶物,著弘勛於皇家,名与朝露皆晞,体与蜉蝣並化,忽崇高於聖人之宝,忘川逝於大耋之嗟,窃為先生不取焉。
書き下し
是に於いて赴勢公子なる者有り、之を聞き、慨然として嘆じて曰く、「空谷に項領の駿なる者有るは、孫陽の恥なり。太平に冠世の才を遺すは、賞真の責めなり。安んぞ俊民をして其の独善の分を全うせしめ、聖朝をして元愷の用に乏しからしむ可けんや」と。乃ち造りて説きて曰く、「徒に聞く、翅を振るい身を竦くし、九霄を凌厲し、玄極に騰跚し、彝倫を攸敘する能わざる者は、英偉に非ざるなりと。今、先生は立断の鋒を操りながら、炳蔚の文を掩い、図籍を絶迹の藪に玩び、藻麗を鳥獣の群に括り、龍章を晦夜に陳べ、琳瑯を重淵に沈め、盛夏に蟄伏し、当春に華を蔵す。復た帷を下ろして覃思し、毫を殫くして藻を騁せ、幽かに太極を賛し、元本を闡釈すと雖も、歓を言えば則ち木梗も顔を怡ばせて巧笑の如く、戚を語れば則ち偶人も嚬顣して滂沱たり、軽きを抑うれば則ち鴻羽も弱水に沈み、重きを抗ぐれば則ち玉石も飛波に漂い、同を離つれば則ち肝胆も胡越と為り、異を合すれば則ち万殊も一和し、切論すれば則ち秋霜も春に粛み、温辞すれば則ち冰条も葩を吐き、高きを摧けば則ち峻極も頽淪し、卑きを竦くすれば則ち淵池も嵯峨たり、清を疵とすれば則ち暗夜に光を倚り、濁を救えば則ち黄河を澄ましむ。然れども大恵を庶物に沾し、弘勲を皇家に著す能わず、名は朝露と与に皆晞き、体は蜉蝣と並びに化す。崇高を聖人の宝に忽にし、川逝を大耋の嗟に忘る。竊かに先生の為に取らざるなり。
現代語訳
そこで赴勢公子という者がこの話を聞き、嘆いて言った。「人気のない谷に首の伸びた名馬がいるのは、馬を見分ける孫陽の恥である。太平の世に世に並ぶ者のない才が埋もれるのは、真の人物を賞する者の責任である。どうして俊才に自分ひとりを善くする分をまっとうさせ、聖なる朝廷に八元八愷のような賢臣の働きを欠かせてよいものか」。そこで訪ねて説いた。「聞くところでは、翼を振るい身を伸ばして九天を駆け、天の極みに昇り、人倫の常道を整えることのできない者は、傑出した人物とは言えないという。いま先生は一刀両断の鋭さを持ちながら、あざやかな文才を隠し、書物を人跡の絶えた沢で愛玩し、美しい文を鳥獣の群れの中に閉じこめ、龍の模様を闇夜に広げ、玉を深い淵に沈め、盛夏に虫のように潜み、春に花を隠しておられる。たとえ帷を下ろして深く思索し、筆を尽くして文を書き、太極をひそかに助け、根源を解き明かしたとしても、喜びを語れば木偶も顔をほころばせて笑うようであり、悲しみを語れば人形も眉をひそめて涙を流す。軽いものを抑えれば鴻の羽も弱水に沈み、重いものを挙げれば玉石も波に漂う。同じものを分ければ肝と胆も胡と越のように離れ、異なるものを合わせれば万の違いも一つに調和する。厳しく論じれば秋の霜も春にひきしまり、温かく語れば氷の枝も花を咲かせる。高いものを砕けば峻険な頂も崩れ、低いものを持ち上げれば深い池も高くそびえる。清らかさを咎めれば闇夜に光をもたらし、濁りを救えば黄河も澄ませる。それなのに大きな恩恵を万物に及ぼし、大きな功績を皇家に立てることができず、名は朝露とともに乾き、身は蜉蝣とともに消えてしまう。聖人の尊いはたらきを軽んじ、過ぎ去る川の流れを老人が嘆く心も忘れている。私はひそかに先生のために、それを良しとしない」。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・嘉遁赴勢公子は勃然として自失し、粛爾として容を改めて曰く、「先生の言を立てて教えを助け、文は奸違を討ち、退静を摽げて以て躁競の俗を抑え、儒教を興して以て微言の絶えんとするを救うは、出づる者に非ざれば、誰か彝倫を敘せん。隠るる者に非ざれば、誰か童蒙を誨えん。普天率土、臣民に匪ざるは莫し。亦た何ぞ必ずしも纓を垂れ笏を執る者を是とし、衡門に楽饑する者を非とせんや。夫れ群れて雲夢に迷う者は、必ず指南を須ちて以て道を知り、並びに滄海に在る者は、必ず辰極を仰ぎて以て反るを得。今、嘉訓を聞き、乃ち其の蔽いを覚る。請う、衣冠を負い、駑を策ちて驥を希い、泛く愛して与に進み、択ぶを嫌わざらん」と。
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抱朴子外篇・嘉遁方今、聖皇は運を御し、世は夷かに道は泰く、仁は蒼生に及び、恵風は遐く邁き、威は鬼方を粛し、沢は九裔に沾う。坤徳に儀りて以て載せること厚く、乾穹に擬えて以て蓋うこと高し。神化は則ち雲行き雨施し、玄沢は則ち煙煴として汪濊たり。四門は穆穆として以て博く延き、主は英逸を思いて以て乂めしむ。此れ乃ち千載の希に値う所、剖判の一会なり。而るに先生は嘉遁の偏枯を慕い、狷華の患害を覚らざるなり。単豹の内を養うに務めて、暴虎の外を犯すを未だ睹ざるなり。是れ水を渉りて或いは溺るると聞きて、則ち舟に乗る者は皆敗ると謂い、商臣の凶逆を以て、則ち継体に類無しと謂うなり」。
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抱朴子外篇・任命年期は奄冉として久しからず、世に托すること飄迅にして再びせず。智者は霜を履みて則ち堅氷の必ず至るを知り、始めに処りて生物の終わり有るを悟る。六龍は軌を大渾に促し、華顛は倏忽として暮を告ぐ。古人の順流に映じて顧みて嘆き、過隙を眄て悲しみを興す所以なり。先生は命世の逸量を資とし、英偉を含みて以て俗に邈たり。鋭翰汪濊として波湧き、六奇抑鬱として淵に稸う。然れども扶揺を凌ぎて以て高く竦え、清耀を九玄に揚ぐる能わず。器は瑚簋の末に陳ねられず、体は負薪の労を免れず。猶お和音を聾俗の地に奏で、章甫を被髪の域に鬻ぐがごとし。徒に翰林に忘寤し、意を鋭くして以て神を窮め、琬琰を懐抱の内に崇び、琳瑯を毛墨の端に吐き、躬は屢空の倹に困しみ、神は堅高の間に労す。譬えば尺璧を重壌の下に埋め、文錦を沓匱の中に封ずるが若し。終に交易の富無くんば、孰か堙翳の珍を賞せん。
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抱朴子外篇・嘉遁「夫れ縄舒ぶれば則ち木直く、正進めば則ち邪雕む。有虞挙ぐれば則ち四凶戮せられ、宣尼任ぜられば則ち少正卯梟せらる。猶お震雷駭けば則ち鼛鼓堙み、朝日出づれば則ち蛍燭幽るるがごとし。招魂の病を拯わざれば、則ち越人の絶技を效うこと無く、多難の世を奨めざれば、則ち非常の遠量を知る無し。高拱して以て溺るるを観るは、践む勿きの仁に非ず。道を懐きて以て国を迷わしむるは、作者の務めに非ず。若し中唐に占日の草を殖え、朝陽に鳴鳳の音を繁くし、郊に独角の獣を跱め、野に連理の林を攢むを俟たば、長旌は巻かれて懸けられず、干戈は戢められて尋ねられず、少伯は方に功成るに告退せんとす。孰か能く相い陸沈を擢んでんや。深く願わくは先生、遠からずして復るを迷わず」と。
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抱朴子外篇・嘉遁「故に器を蔵する者は変通して時に随うを珍とし、英逸の者は奇を吐き乱を撥くを貴ぶ。若し乃ち耀霊の景を雲表に翳せば、則ち麗天の明は著れず。哮虎の牙を韜み爪を握らば、則ち搏噬の捷は揚がらず。太阿の鋒を潜めて撃たざれば、則ち立断の勁は顕れず。驥騄の趾を踠めて馳せざれば、則ち追風の迅は形れず。並びに黙せば則ち子貢も喑者と口を同じくし、咸く暝ければ則ち離朱も蒙瞽と殊ならず。先生は身を潔くして大倫の乱を忽にし、意を得て上を安んずるの義を忘れ、存するも機を関するの累有り、没するも金石の声無し。庸人すら且つ猶お色を憤る。何ぞ大雅にして心無き有らんや」。
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抱朴子外篇・審舉抱朴子曰く、華・霍の能く極天の峻きを崇くする所以の者は、其の下の厚きに由り、唐・虞の能く巍巍の功に臻れる所以は、実に股肱の良きに頼ればなり。孫陽の手有りと雖も、騏驥の足無ければ、則ち千里を致すを得ず。稽古の才有りと雖も、力を宣ぶるの佐無ければ、則ち庶績を凝むるに縁る莫し。人君は明日月を並ぶと雖も、神鑑未だ兆さず、然れども万機は以て独り統ぶ可からず、曲碎は以て親しく総ぶ可からず、必ず目を仮りて以て遐く覧、耳を借りて以て広く聴き、誠に有司を須ちて、是れ康んじ是れ賛く。故に聖君は心に根ざして賢を招き、挙才を以て首務と為さざる莫し。玉帛を丘園に施し、翹車を巌藪に馳せ、人を求むるに労し、能を用うるに逸し、上は槐棘より、降りては皂隷に逮び、道を論じ国を経し、職に任ぜざる莫し。己を恭しくして無為、而して治平らぎ刑措かれ、化洽く外無く、万邦咸な寧し。官を設け職を分かつは、其れ猶お室を構うるがごとく、一物堪えざれば、則ち崩橈の由なり。然して夫の貢挙の士は、格するに四科を以てし、三事九列は、是れ自り出ず、必ず標穎抜萃の俊を簡ぶ。而るに漢の末葉、桓・霊の世、柄は帝室を去り、政は奸臣に在り、網漏れて防潰え、風頽れ教沮み、清徳を抑えて諂媚を揚げ、履道を退けて多財を進む。力競い俗を成し、苟しくも得て恥無く、或いは自ら售るの宝を輸し、或いは要人の書を売り、或いは父兄貴顕にして、門を望みて辟命せられ、或いは頭を低れ膝を屈し、積習して収めらる。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
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