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秘本玉くしげ / 下 世襲の芸の者

其外雜藝の輩なども、御用あらば時時に召抱られて、少少づつの祿を玉はん事は、御大名の御身上にては隨分さも有べきことなれ共、一たび抱へられたる者は、何の御用もなきに永永いたづらに多くの御扶持を玉はりて過す者、江戸京などにも其國元にも多きは、甚しき奢の費也。すべて何の職も祿を世世にするは、本朝の古格にて厚き風儀にてはあれ共、その筋にもよるべき事也。然れども久しく有來りたる事の俄に改まりては、大に難義に及ぶ者多ければ、右の類とても御先代より有來りたる分は、今さらゆゑなく祿をめしはなたるべき事にあらず。されば左樣の事は、隨分御用にも立やうに、それぞれの家の道を出精し相はげみて、その道道に此上へ新加の人なくて御間の合やうにあらせまほしく、猶又その藝すぐれて、某殿の御内の其人と他國までも名をあぐるほどにもあらば、殊更忠勤にて有べき事也。

新字:其外雑芸の輩なども、御用あらば時時に召抱られて、少少づつの禄を玉はん事は、御大名の御身上にては随分さも有べきことなれ共、一たび抱へられたる者は、何の御用もなきに永永いたづらに多くの御扶持を玉はりて過す者、江戸京などにも其国元にも多きは、甚しき奢の費也。すべて何の職も禄を世世にするは、本朝の古格にて厚き風儀にてはあれ共、その筋にもよるべき事也。然れども久しく有来りたる事の俄に改まりては、大に難義に及ぶ者多ければ、右の類とても御先代より有来りたる分は、今さらゆゑなく禄をめしはなたるべき事にあらず。されば左様の事は、随分御用にも立やうに、それぞれの家の道を出精し相はげみて、その道道に此上へ新加の人なくて御間の合やうにあらせまほしく、猶又その芸すぐれて、某殿の御内の其人と他国までも名をあぐるほどにもあらば、殊更忠勤にて有べき事也。

書き下し

其外雑藝の輩なども、御用あらば時々に召抱られて、少々づつの禄を玉はん事は、御大名の御身上にては随分さも有べきことなれ共、一たび抱へられたる者は、何の御用もなきに永々いたづらに多くの御扶持を玉はりて過す者、江戸京などにも其国元にも多きは、甚しき奢の費也。すべて何の職も禄を世々にするは、本朝の古格にて厚き風儀にてはあれ共、その筋にもよるべき事也。然れども久しく有来りたる事の俄に改まりては、大に難義に及ぶ者多ければ、右の類とても御先代より有来りたる分は、今さらゆゑなく禄をめしはなたるべき事にあらず。されば左様の事は、随分御用にも立やうに、それぞれの家の道を出精し相はげみて、その道々に此上へ新加の人なくて御間の合やうにあらせまほしく、猶又その藝すぐれて、某殿の御内の其人と他国までも名をあぐるほどにもあらば、殊更忠勤にて有べき事也。

現代語訳

そのほか雑芸の者なども、御用があれば時々に召し抱えられて、少しずつの禄をお与えになるのは、御大名の御身上としてはまことにそうあってよいことであるけれども、一度抱えられた者は、何の御用もないのに長々と無駄に多くの御扶持をいただいて過ごす者が、江戸や京などにもその国元にも多いのは、はなはだしい奢りの費えである。すべて何の職でも禄を代々受け継ぐのは、本朝の古格で厚い風儀ではあるけれども、その筋合いにもよるべき事である。けれども久しく続いてきた事が急に改まっては、大いに難儀に及ぶ者が多いから、右の類であっても御先代から続いてきた分は、今さら理由もなく禄を召し放たれるべき事ではない。だからそのような者は、十分に御用にも立つように、それぞれの家の道に精を出して励み、その道々にこれ以上新たに人を加えなくても間に合うようにありたいものであり、なおまたその芸が優れて、某殿の御内の誰それと他国までも名を上げるほどであれば、ことさら忠勤であるはずである。

解説

前段で無益の扶持を批判した宣長が、ここで急ブレーキをかける。禄を代々受け継ぐのは本朝の古格で厚い風儀であり、久しく続いたことを急に改めれば難儀する者が多い。だから先代から続く分は、今さら理由なく召し放つべきではない、というのである。代わりに求めるのは、新たに人を抱えないこと、今いる者がそれぞれの道に励んで御用に立ち、他国に名が聞こえるほどになることである。無駄は認めつつ急な改革はしない、という宣長の一貫した政道観がよく表れている。人員を削る前に、今いる人を生かす道を尽くしたか、という問いを投げかける一段である。

この章句が説くこと

世襲禄古格急な改革奢り

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