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秘本玉くしげ / 上 大切にしすぎる害

すべての事を餘りに大切に重重敷する時は、只無益の費、無益の扱ひのみ多くして、却て其本意の實をば失ひ、表向計りになり、麁末に取扱ふよりは結句遙に劣る事も多く、又却て手行の甚惡き事多し。譬へば、直に御前へ達してもよき事をも、爰の役人の手を經、かしこの役所へ伺ひ抔、彼此とする故に、無益の人手間かかり、紙筆の費抔のみ有て、却て急ぎの御用の辨じ抔は滯りて、何の益はなし。万の事是に准じて知べし。

新字:すべての事を余りに大切に重重敷する時は、只無益の費、無益の扱ひのみ多くして、却て其本意の実をば失ひ、表向計りになり、麁末に取扱ふよりは結句遥に劣る事も多く、又却て手行の甚悪き事多し。譬へば、直に御前へ達してもよき事をも、爰の役人の手を経、かしこの役所へ伺ひ抔、彼此とする故に、無益の人手間かかり、紙筆の費抔のみ有て、却て急ぎの御用の弁じ抔は滞りて、何の益はなし。万の事是に准じて知べし。

書き下し

すべての事を余りに大切に重重敷する時は、只無益の費、無益の扱ひのみ多くして、却て其本意の実をば失ひ、表向計りになり、麁末に取扱ふよりは結句遥に劣る事も多く、又却て手行の甚悪き事多し。譬へば、直に御前へ達してもよき事をも、爰の役人の手を経、かしこの役所へ伺ひ抔、彼此とする故に、無益の人手間かかり、紙筆の費抔のみ有て、却て急ぎの御用の弁じ抔は滞りて、何の益はなし。万の事是に准じて知べし。

現代語訳

すべての事をあまりに大切に重々しくするときは、ただ無益の費え、無益の取り扱いばかりが多くなって、かえってその本来の目的の実質を失い、表向きばかりになり、粗末に取り扱うよりは結局はるかに劣ることも多く、またかえって手際のたいへん悪いことが多い。たとえば、直接に御前へ届けてもよいことをも、ここの役人の手を経、あそこの役所へ伺いを立てるなど、あれこれとするので、無益の人手間がかかり、紙や筆の費えなどばかりがあって、かえって急ぎの御用の処理などは滞って、何の益もない。万事これに準じて知るべきである。

解説

重々しさの害を一般論としてまとめた段である。何事もあまりに大切に扱うと、無益な費用と手間ばかり増え、肝心の本意が失われて形だけになる。粗末に扱うよりかえって劣り、手際も悪くなる、と宣長は言い切る。例に挙げるのは、藩主に直接上げればよい事を、こちらの役人、あちらの役所と回すうちに、紙筆の費えばかりかかって急ぎの用件が滞るという光景である。二百数十年前の藩の役所の話だが、判子が何段も続く今の稟議にもそのまま当てはまる。丁寧さは美徳だが、目的を見失った丁寧さは害になる。自分の職場で、直接届ければ済む話を何段も経由させて、急ぎの用を滞らせていないだろうか。

この章句が説くこと

手続き役所形式無益稟議

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