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秘本玉くしげ / 上 改めるたびに害

又その非をいひたてて又新しき料簡をたて、いつまでもかくの如くにて、ひたもの度度改め變るほどに、よき事は出來ずして、却て改むる度ごとに害多く、その間には姦曲なる者も多く出て、さまざまと國政をなぶりものにして、終には國を亡すに至れり。さて右の如く、いろいろと改め改めて代代を經たるあひだには、しばらくは久しくつづきて、後世より見ても其仕方まことに宜しとおもはるる事もあれ共、それもまた其かたを後に行ひ見る時は、思ふやうにもあらずして改むるなり。すべて儒者のくせとして、先代の滅びたる所以を論じて、「かくの如くなりし故に其國はほろびたれば、此度は改めてかやうにせば必長久なるべし」といふは、代代のつねのこと也。然れ共、その弊に懲てこれを改めても、又それも同じことにて久しくはつづかず。又議論には常に「聖人の道、聖人の道」といひたつれども、その聖人の道のままにても國は治まりがたき故に、代代にいろいろの新法をば立ること也。

新字:又その非をいひたてて又新しき料簡をたて、いつまでもかくの如くにて、ひたもの度度改め変るほどに、よき事は出来ずして、却て改むる度ごとに害多く、その間には姦曲なる者も多く出て、さまざまと国政をなぶりものにして、終には国を亡すに至れり。さて右の如く、いろいろと改め改めて代代を経たるあひだには、しばらくは久しくつづきて、後世より見ても其仕方まことに宜しとおもはるる事もあれ共、それもまた其かたを後に行ひ見る時は、思ふやうにもあらずして改むるなり。すべて儒者のくせとして、先代の滅びたる所以を論じて、「かくの如くなりし故に其国はほろびたれば、此度は改めてかやうにせば必長久なるべし」といふは、代代のつねのこと也。然れ共、その弊に懲てこれを改めても、又それも同じことにて久しくはつづかず。又議論には常に「聖人の道、聖人の道」といひたつれども、その聖人の道のままにても国は治まりがたき故に、代代にいろいろの新法をば立ること也。

書き下し

又その非をいひたてて又新しき料簡をたて、いつまでもかくの如くにて、ひたもの度度改め變るほどに、よき事は出来ずして、却て改むる度ごとに害多く、その間には姦曲なる者も多く出て、さまざまと国政をなぶりものにして、終には国を亡すに至れり。さて右の如く、いろいろと改め改めて代代を経たるあひだには、しばらくは久しくつづきて、後世より見ても其仕方まことに宜しとおもはるる事もあれ共、それもまた其かたを後に行ひ見る時は、思ふやうにもあらずして改むるなり。すべて儒者のくせとして、先代の滅びたる所以を論じて、「かくの如くなりし故に其国はほろびたれば、此度は改めてかやうにせば必長久なるべし」といふは、代代のつねのこと也。然れ共、その弊に懲てこれを改めても、又それも同じことにて久しくはつづかず。又議論には常に「聖人の道、聖人の道」といひたつれども、その聖人の道のままにても国は治まりがたき故に、代代にいろいろの新法をば立ること也。

現代語訳

またその誤りを言い立てて、また新しい考えを立て、いつまでもこのようで、ひたすら度々改め変わるうちに、よいことは生まれず、かえって改めるたびに害が多く、その間には邪悪な者も多く出て、さまざまに国政をもてあそび、ついには国を滅ぼすに至った。さて右のように、いろいろと改めに改めて代々を経るあいだには、しばらくは長く続いて、後世から見てもそのやり方がまことによいと思われることもあるが、それもまたそのやり方を後に行ってみると、思うようにもいかずに改めるのである。すべて儒者の癖として、前代の滅びた理由を論じて、「このようであったためにその国は滅びたのだから、このたびは改めてこのようにすれば必ず長く続くはずだ」と言うのは、代々のつねのことである。けれども、その弊害に懲りてこれを改めても、それもまた同じことで長くは続かない。また議論ではつねに「聖人の道、聖人の道」と言い立てるけれども、その聖人の道のままでは国は治まりにくいので、代々さまざまの新法を立てるのである。

解説

前段を受け、改革が改革を呼ぶ悪循環を描く。前の案の非を言い立てて新案を立て、それもだめならまた改める。改めるたびに良くなるどころか害が増え、その混乱に乗じて姦曲な者が国政をもてあそび、ついには国を滅ぼす。儒者は前代の滅亡の原因を論じて「こう改めれば必ず長続きする」と言うが、それも同じ結末になる。しかも「聖人の道」を唱えながら、そのままでは治まらないから新法を立てるという矛盾まで宣長は突く。本書が一貫して説く、古来の法を急に改めないという政道観の土台がここにある。制度改革を繰り返すたびに現場が疲れ、抜け道を知る者だけが得をしていないだろうか。

この章句が説くこと

新法改革儒者姦曲弊害

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