碧巌録 / 第三十八則
一日見鏡清。清問近離甚處。穴云。自離東來。清云。還過小江否。穴云。大舸獨飄空。小江無可濟。清云。鏡水圖山。鳥飛不渡。子莫盜聽遺言。穴云。滄溟尚怯蒙輪勢。列漢飛帆渡五湖。清竪起拂子云。爭奈這箇何。穴云。這箇是什麼。清云。果然不識。穴云。出沒卷舒。與師同用。清云。杓卜聽虛聲。熟睡饒譫語。穴云。澤廣藏山理能伏豹。清云。赦罪放愆。速須出去。穴云。出即失。乃便出至法堂上。自謂言。大丈夫。公案未了。豈可便休。
新字:一日見鏡清。清問近離甚処。穴云。自離東来。清云。還過小江否。穴云。大舸独飄空。小江無可済。清云。鏡水図山。鳥飛不渡。子莫盗聴遺言。穴云。滄溟尚怯蒙輪勢。列漢飛帆渡五湖。清竪起払子云。争奈這箇何。穴云。這箇是什麼。清云。果然不識。穴云。出没巻舒。与師同用。清云。杓卜聴虚声。熟睡饒譫語。穴云。沢広蔵山理能伏豹。清云。赦罪放愆。速須出去。穴云。出即失。乃便出至法堂上。自謂言。大丈夫。公案未了。豈可便休。
書き下し
一日鏡清に見ゆ。清問ふ、近離甚れの処ぞ。穴云く、東より離れ来る。清云く、還た小江を過ぐるや否や。穴云く、大舸独り空に飄る、小江は済るべき無し。清云く、鏡水図山、鳥飛べども渡らず。子遺言を盗聴すること莫れ。穴云く、滄溟すら尚ほ蒙輪の勢を怯る、列漢帆を飛ばして五湖を渡る。清払子を竪起して云く、這箇を争奈何せん。穴云く、這箇は是れ什麼ぞ。清云く、果然として識らず。穴云く、出没巻舒、師と同じく用ゐる。清云く、杓卜して虚声を聴き、熟睡して譫語饒し。穴云く、沢広くして山を蔵し、理能く豹を伏す。清云く、罪を赦し愆を放す、速やかに須らく出で去るべし。穴云く、出づれば即ち失す。乃ち便ち出でて法堂上に至り、自ら謂ひて言ふ、大丈夫、公案未だ了ぜず、豈に便ち休すべけんや。
現代語訳
ある日、風穴は鏡清に会った。鏡清は問うた、「どこから来たのか」。風穴は言った、「東の方から来ました」。鏡清は言った、「小さな川を渡ってきたか」。風穴は言った、「大きな船は独り空に漂っており、小さな川など渡るまでもありません」。鏡清は言った、「鏡のような水、絵のような山、鳥が飛んでも渡れない。お前は人の遺した言葉を盗み聞きしているのではないか」。風穴は言った、「大海でさえ艨艟の勢いを恐れます。天の川を渡る者が帆を揚げて五湖を渡るのです」。鏡清は払子を立てて言った、「これをどうする」。風穴は言った、「それは何ですか」。鏡清は言った、「やはりわからないのだな」。風穴は言った、「出たり没したり、巻いたり広げたり、師と同じように使っております」。鏡清は言った、「杓で占って空しい音を聞き、ぐっすり眠ってうわごとばかり言う」。風穴は言った、「沢が広ければ山をも隠し、道理はよく豹をも伏せさせます」。鏡清は言った、「罪を赦し過ちを許してやるから、さっさと出て行け」。風穴は言った、「出て行けば失ってしまいます」。そう言いながらも出て行き、法堂まで来ると、自分に言い聞かせた、「大丈夫たる者、公案がまだ決着していないのに、どうしてこのままやめられようか」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『碧巌録』第三十八則却回して再び方丈に入る。清坐する次で、便ち問ふ、某適来輒ち騃見を呈して、尊顔を冒瀆す。伏して和尚の慈悲を蒙りて、未だ罪責を賜はず。清云く、適来東より来ると、豈に是れ翠巌より来るにあらずや。穴云く、雪竇は親しく宝蓋の東に棲む。清云く、亡羊を逐はずして狂解息み、却つて這裏に来りて詩篇を念ず。穴云く、路に剣客に逢はば須らく剣を呈すべし、是れ詩人ならずんば詩を献ずること莫れ。清云く、詩は速やかに秘却せよ、略剣峰を借らん。穴云く、梟首の甑人剣を携へて去る。清云く、独り風化に触るるのみならず、亦た自ら顢頇を顕はす。穴云く、若し風化に触れずんば、焉んぞ古仏の心を明らめん。清云く、何をか古仏の心と名づく。穴又云く、再び允容を許さば、師今何か有る。清云く、東来の衲子、菽麦分かたず。穴云く、只だ聞く以てせずして以てすと、何ぞ抑も以てして以てすることを得ん。清云く、巨浪千尋に湧く、澄波水を離れず。穴云く、一句截流、万機寝削。穴便ち礼拝す。清払子を以て点ずること三点して云く、俊なる哉、且く坐して茶を喫せよ。
-
『碧巌録』第三十八則争奈せん風穴は是れ作家なり。便ち他に答へて道ふ、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟くと。也た是れ言中に響き有り。雲門云く、鉤を四海に垂るるは、只だ獰龍を釣る。格外の玄機は、知己を尋ねんが為なりと。巨浸は乃ち十二頭の水牯牛を鉤餌と為す。却つて只だ一蛙を釣り得て出だす。此の語且つ玄妙無く、亦た道理計較無し。古人道ふ、若し事上に向いて覻れば則ち易く、若し意根下に向いて卜度すれば則ち交渉没しと。盧陂佇思す。之を見て取らざれば千載にも逢ひ難し。惜しむべし許。所以に道ふ、直饒千の経論を講じ得るも、一句機に臨んで口を下すこと難しと。其の実盧陂は好語を討ねて他に対せんと要して、令を行ずることを欲せず。風穴に一向に旗を攙り鼓を奪ふ底の機鋒を用ゐて、一向に逼り将ち去られて、只だ奈何ともすること没きを得たり。俗諺に云く、陣敗れて苕帚の掃くに禁へずと。当初更に鎗法を討ねて他に敵せんと要す。爾が討ね得来るを等たば、即ち頭地に落ちん。牧主も亦た久しく風穴に参じて、解く仏法と王法と一般なりと道ふ。穴云く、爾箇の什麼をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招くと。風穴は渾て是れ一団の精神、水上の葫蘆子の如くに相似たり。捺著すれば便ち転じ、按著すれば便ち動く。解く機に随ひて説法す。若し機に随はずんば、翻つて妄語と成る。穴便ち下座す。
-
『碧巌録』第三十八則挙す。風穴郢州の衙内に在りて、上堂して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。時に盧陂長老有り、出でて問ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれ。穴云く、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟く。陂佇思す。穴喝して云く、長老何ぞ語を進めざる。陂擬議す。穴打つこと一払子。穴云く、還た話頭を記得するや、試みに挙し看よ。陂口を開かんと擬す。穴又打つこと一払子。牧主云く、仏法と王法と一般なり。穴云く、箇の什麼の道理をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招く。穴便ち下座す。
-
『碧巌録』第三十八則風穴初めて南院に到りて、入門するに礼拝せず。院云く、入門には須らく主を辨ずべし。穴云く、端的に請ふ師分かてと。院左手もて膝を拍つこと一下す。穴便ち喝す。院右手もて膝を拍つこと一下す。穴も亦た喝す。院左手を挙げて云く、這箇は即ち闍黎に従ふ。又右手を挙げて云く、這箇は又作麼生。穴云く、瞎。院遂に拄杖を拈ず。穴云く、什麼をか作す。某甲拄杖を奪却して、和尚を打著せん。道はずと言ふこと莫れ。院便ち拄杖を擲下して云く、今日這の黄面の浙子に、鈍置せらるること一上。穴云く、和尚大いに鉢を持ち得ずして、詐りて飢ゑずと道ふに似たり。院云く、闍黎曾て此間に到ること莫しや。穴云く、是れ何の言ぞや。院云く、好好に借問す。穴云く、也た放過することを得ず。院云く、且く坐して茶を喫せよ。爾看よ、俊流は自ら是れ機鋒峭峻にして、南院も亦た未だ他を辨得せず。
-
『碧巌録』第三十八則次の日に至りて、南院只だ平常の問を作して云く、今夏什麼の処にか在る。穴云く、鹿門に廓侍者と同じく夏を過ごす。院云く、元来親しく作家に見え来る。又云く、他爾に向かつて什麼をか道ふ。穴云く、始終只だ某甲をして一向に主と作らしむ。院便ち打ちて方丈より推し出して云く、這般の敗缺を納るる底の漢、什麼の用処か有らん。穴此より服膺して、南院の会下に在りて園頭と作る。一日院園裏に到りて問うて云く、南方の一棒、作麼生か商量す。穴云く、奇特の商量を作す。穴云く、和尚此間は作麼生か商量す。院棒を拈起して云く、棒下の無生忍、機に臨んで師に譲らず。穴是に於て豁然として大悟す。
-
『碧巌録』第三十八則是の時五代離乱す。郢州の牧主、師を請じて夏を度らしむ。是の時臨済の一宗大いに盛んなり。他凡そ是れ問答垂示、語句の尖新なることを妨げず。花を攢め錦を簇めて、字字皆下落有り。一日牧主、師を請じて上堂せしむ。衆に示して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。何が故ぞ。石人木馬の機に似ず、直下に鉄牛の機に似たり。爾が撼動する処無し。爾才かに去れば即ち印住し、爾才かに住すれば即ち印破す。爾をして百雑砕ならしむ。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。看よ他の恁麼の垂示、鉤頭に餌有りと謂ひつべし。是の時座下に盧陂長老有り、亦た是れ臨済下の尊宿なり。敢へて頭を出だし来りて他と機に対し、便ち他の話頭を転じて、箇の問端を致す。奇特なることを妨げず。道ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれと。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る