碧巌録 / 第三十八則
至次日南院只作平常問云。今夏在什麼處。穴云。鹿門與廓侍者同過夏。院云。元來親見作家來。又云他向爾道什麼。穴云。始終只教某甲一向作主。院便打推出方丈云。這般納敗缺底漢。有什麼用處。穴自此服膺。在南院會下作園頭。一日院到園裏問云。南方一棒作麼生商量。穴云。作奇特商量。穴云。和尚此間作麼生商量。院拈棒起云。棒下無生忍。臨機不讓師。穴於是豁然大悟。
新字:至次日南院只作平常問云。今夏在什麼処。穴云。鹿門与廓侍者同過夏。院云。元来親見作家来。又云他向爾道什麼。穴云。始終只教某甲一向作主。院便打推出方丈云。這般納敗欠底漢。有什麼用処。穴自此服膺。在南院会下作園頭。一日院到園裏問云。南方一棒作麼生商量。穴云。作奇特商量。穴云。和尚此間作麼生商量。院拈棒起云。棒下無生忍。臨機不譲師。穴於是豁然大悟。
書き下し
次の日に至りて、南院只だ平常の問を作して云く、今夏什麼の処にか在る。穴云く、鹿門に廓侍者と同じく夏を過ごす。院云く、元来親しく作家に見え来る。又云く、他爾に向かつて什麼をか道ふ。穴云く、始終只だ某甲をして一向に主と作らしむ。院便ち打ちて方丈より推し出して云く、這般の敗缺を納るる底の漢、什麼の用処か有らん。穴此より服膺して、南院の会下に在りて園頭と作る。一日院園裏に到りて問うて云く、南方の一棒、作麼生か商量す。穴云く、奇特の商量を作す。穴云く、和尚此間は作麼生か商量す。院棒を拈起して云く、棒下の無生忍、機に臨んで師に譲らず。穴是に於て豁然として大悟す。
現代語訳
次の日になって、南院はただふだんどおりに問うた、「この夏はどこで過ごしたか」。風穴は言った、「鹿門で廓侍者と一緒に夏安居を過ごしました」。南院は言った、「なるほど、もともと練達の者にじかに会ってきたのだな」。さらに言った、「彼はお前に何と言ったか」。風穴は言った、「始めから終わりまで、ただわたしにひたすら主となれと教えてくれました」。南院はすぐに彼を打って方丈から押し出して言った、「こんな負けを抱えこむような男に、何の用があろうか」。風穴はこれ以後心から服し、南院の門下で畑の係をつとめた。ある日、南院が畑に来て問うた、「南方の一棒を、どう論じるか」。風穴は言った、「すばらしいものと論じます」。そして風穴は言った、「和尚のところでは、どう論じられますか」。南院は棒を取り上げて言った、「棒の下に無生法忍がある。機に臨んでは師にも譲らない」。風穴はそこでからりと大悟した。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『碧巌録』第三十八則風穴初めて南院に到りて、入門するに礼拝せず。院云く、入門には須らく主を辨ずべし。穴云く、端的に請ふ師分かてと。院左手もて膝を拍つこと一下す。穴便ち喝す。院右手もて膝を拍つこと一下す。穴も亦た喝す。院左手を挙げて云く、這箇は即ち闍黎に従ふ。又右手を挙げて云く、這箇は又作麼生。穴云く、瞎。院遂に拄杖を拈ず。穴云く、什麼をか作す。某甲拄杖を奪却して、和尚を打著せん。道はずと言ふこと莫れ。院便ち拄杖を擲下して云く、今日這の黄面の浙子に、鈍置せらるること一上。穴云く、和尚大いに鉢を持ち得ずして、詐りて飢ゑずと道ふに似たり。院云く、闍黎曾て此間に到ること莫しや。穴云く、是れ何の言ぞや。院云く、好好に借問す。穴云く、也た放過することを得ず。院云く、且く坐して茶を喫せよ。爾看よ、俊流は自ら是れ機鋒峭峻にして、南院も亦た未だ他を辨得せず。
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『碧巌録』第三十八則穴初め雪峰に参ずること五年。因みに臨済入堂して、両堂の首座斉しく一喝を下す。僧臨済に問ふ、還た賓主有りや也た無しや。済云く、賓主歴然と、を請益す。穴云く、未審し意旨如何。峰云く、吾れ昔巌頭・欽山と、去いて臨済に見えんとするに、途中に在りて已に遷化せりと聞く。若し他の賓主の話を会せんと要せば、須らく是れ他の宗派下の尊宿に参ずべし。穴後に又瑞巌の常に自ら主人公と喚びて、自ら喏と云ひ、復た云く、惺惺著、他後人の瞞を受くること莫れと云ふを見て、穴云く、自ら拈じ自ら弄す、什麼の難きことか有らん。後に襄州の鹿門に在りて廓侍者と夏を過ごす。廓他を指して来りて南院に参ぜしむ。穴云く、入門には須らく主を辨ずべし、端的に請ふ師分かてと。一日遂に南院に見えて、前話を挙して云く、某甲特に来りて親覲す。南院云く、雪峰は古仏なり。
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『碧巌録』第三十八則一日鏡清に見ゆ。清問ふ、近離甚れの処ぞ。穴云く、東より離れ来る。清云く、還た小江を過ぐるや否や。穴云く、大舸独り空に飄る、小江は済るべき無し。清云く、鏡水図山、鳥飛べども渡らず。子遺言を盗聴すること莫れ。穴云く、滄溟すら尚ほ蒙輪の勢を怯る、列漢帆を飛ばして五湖を渡る。清払子を竪起して云く、這箇を争奈何せん。穴云く、這箇は是れ什麼ぞ。清云く、果然として識らず。穴云く、出没巻舒、師と同じく用ゐる。清云く、杓卜して虚声を聴き、熟睡して譫語饒し。穴云く、沢広くして山を蔵し、理能く豹を伏す。清云く、罪を赦し愆を放す、速やかに須らく出で去るべし。穴云く、出づれば即ち失す。乃ち便ち出でて法堂上に至り、自ら謂ひて言ふ、大丈夫、公案未だ了ぜず、豈に便ち休すべけんや。
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『碧巌録』第三十八則争奈せん風穴は是れ作家なり。便ち他に答へて道ふ、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟くと。也た是れ言中に響き有り。雲門云く、鉤を四海に垂るるは、只だ獰龍を釣る。格外の玄機は、知己を尋ねんが為なりと。巨浸は乃ち十二頭の水牯牛を鉤餌と為す。却つて只だ一蛙を釣り得て出だす。此の語且つ玄妙無く、亦た道理計較無し。古人道ふ、若し事上に向いて覻れば則ち易く、若し意根下に向いて卜度すれば則ち交渉没しと。盧陂佇思す。之を見て取らざれば千載にも逢ひ難し。惜しむべし許。所以に道ふ、直饒千の経論を講じ得るも、一句機に臨んで口を下すこと難しと。其の実盧陂は好語を討ねて他に対せんと要して、令を行ずることを欲せず。風穴に一向に旗を攙り鼓を奪ふ底の機鋒を用ゐて、一向に逼り将ち去られて、只だ奈何ともすること没きを得たり。俗諺に云く、陣敗れて苕帚の掃くに禁へずと。当初更に鎗法を討ねて他に敵せんと要す。爾が討ね得来るを等たば、即ち頭地に落ちん。牧主も亦た久しく風穴に参じて、解く仏法と王法と一般なりと道ふ。穴云く、爾箇の什麼をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招くと。風穴は渾て是れ一団の精神、水上の葫蘆子の如くに相似たり。捺著すれば便ち転じ、按著すれば便ち動く。解く機に随ひて説法す。若し機に随はずんば、翻つて妄語と成る。穴便ち下座す。
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『碧巌録』第三十八則是の時五代離乱す。郢州の牧主、師を請じて夏を度らしむ。是の時臨済の一宗大いに盛んなり。他凡そ是れ問答垂示、語句の尖新なることを妨げず。花を攢め錦を簇めて、字字皆下落有り。一日牧主、師を請じて上堂せしむ。衆に示して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。何が故ぞ。石人木馬の機に似ず、直下に鉄牛の機に似たり。爾が撼動する処無し。爾才かに去れば即ち印住し、爾才かに住すれば即ち印破す。爾をして百雑砕ならしむ。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。看よ他の恁麼の垂示、鉤頭に餌有りと謂ひつべし。是の時座下に盧陂長老有り、亦た是れ臨済下の尊宿なり。敢へて頭を出だし来りて他と機に対し、便ち他の話頭を転じて、箇の問端を致す。奇特なることを妨げず。道ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれと。
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『碧巌録』第三十八則挙す。風穴郢州の衙内に在りて、上堂して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。時に盧陂長老有り、出でて問ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれ。穴云く、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟く。陂佇思す。穴喝して云く、長老何ぞ語を進めざる。陂擬議す。穴打つこと一払子。穴云く、還た話頭を記得するや、試みに挙し看よ。陂口を開かんと擬す。穴又打つこと一払子。牧主云く、仏法と王法と一般なり。穴云く、箇の什麼の道理をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招く。穴便ち下座す。
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