碧巌録 / 第三十八則
風穴初到南院。入門不禮拜。院云。入門須辨主。穴云。端的請師分。院左手拍膝一下。穴便喝。院右手拍膝一下。穴亦喝。院舉左手云。這箇即從闍黎。又舉右手云。這箇又作麼生。穴云。瞎院遂拈拄杖。穴云。作什麼。某甲奪却拄杖。打著和尚。莫言不道。院便擲下拄杖云。今日被這黃面浙子。鈍置一上。穴云。和尚大似持鉢不得。詐道不飢。院云。闍黎莫曾到此間麼。穴云。是何言歟。院云。好好借問。穴云。也不得放過。院云。且坐喫茶。爾看俊流自是機鋒峭峻。南院亦未辨得他。
新字:風穴初到南院。入門不礼拝。院云。入門須弁主。穴云。端的請師分。院左手拍膝一下。穴便喝。院右手拍膝一下。穴亦喝。院舉左手云。這箇即従闍黎。又舉右手云。這箇又作麼生。穴云。瞎院遂拈拄杖。穴云。作什麼。某甲奪却拄杖。打著和尚。莫言不道。院便擲下拄杖云。今日被這黄面浙子。鈍置一上。穴云。和尚大似持鉢不得。詐道不飢。院云。闍黎莫曽到此間麼。穴云。是何言歟。院云。好好借問。穴云。也不得放過。院云。且坐喫茶。爾看俊流自是機鋒峭峻。南院亦未弁得他。
書き下し
風穴初めて南院に到りて、入門するに礼拝せず。院云く、入門には須らく主を辨ずべし。穴云く、端的に請ふ師分かてと。院左手もて膝を拍つこと一下す。穴便ち喝す。院右手もて膝を拍つこと一下す。穴も亦た喝す。院左手を挙げて云く、這箇は即ち闍黎に従ふ。又右手を挙げて云く、這箇は又作麼生。穴云く、瞎。院遂に拄杖を拈ず。穴云く、什麼をか作す。某甲拄杖を奪却して、和尚を打著せん。道はずと言ふこと莫れ。院便ち拄杖を擲下して云く、今日這の黄面の浙子に、鈍置せらるること一上。穴云く、和尚大いに鉢を持ち得ずして、詐りて飢ゑずと道ふに似たり。院云く、闍黎曾て此間に到ること莫しや。穴云く、是れ何の言ぞや。院云く、好好に借問す。穴云く、也た放過することを得ず。院云く、且く坐して茶を喫せよ。爾看よ、俊流は自ら是れ機鋒峭峻にして、南院も亦た未だ他を辨得せず。
現代語訳
風穴が初めて南院のもとに来たとき、門に入っても礼拝しなかった。南院は言った、「門に入ったなら主をはっきり見分けねばならない」。風穴は言った、「はっきりと師よ、見分けてください」。南院は左手で膝を一つ打った。風穴はすぐに一喝した。南院は右手で膝を一つ打った。風穴もまた一喝した。南院は左手を挙げて言った、「こちらはお前に任せよう」。また右手を挙げて言った、「こちらはどうか」。風穴は言った、「目くら」。南院はそこで拄杖を手に取った。風穴は言った、「何をなさる。わたしはその拄杖を奪い取って、和尚を打ちますぞ。言わなかったとは言わせません」。南院はすぐに拄杖を投げ出して言った、「今日はこの顔の黄色い浙江の小僧に、すっかりやりこめられた」。風穴は言った、「和尚はまるで、托鉢の鉢を持てないのに、腹は減っていないとごまかしているようですな」。南院は言った、「お前はかつてここに来たことがあるのではないか」。風穴は言った、「何をおっしゃるのですか」。南院は言った、「よくよく尋ねているのだ」。風穴は言った、「それでも見逃すわけにはまいりません」。南院は言った、「まあ坐って茶を飲め」。見よ、すぐれた者はおのずと機鋒が鋭く険しく、南院でさえまだ彼を見分けきれなかったのである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『碧巌録』第三十八則次の日に至りて、南院只だ平常の問を作して云く、今夏什麼の処にか在る。穴云く、鹿門に廓侍者と同じく夏を過ごす。院云く、元来親しく作家に見え来る。又云く、他爾に向かつて什麼をか道ふ。穴云く、始終只だ某甲をして一向に主と作らしむ。院便ち打ちて方丈より推し出して云く、這般の敗缺を納るる底の漢、什麼の用処か有らん。穴此より服膺して、南院の会下に在りて園頭と作る。一日院園裏に到りて問うて云く、南方の一棒、作麼生か商量す。穴云く、奇特の商量を作す。穴云く、和尚此間は作麼生か商量す。院棒を拈起して云く、棒下の無生忍、機に臨んで師に譲らず。穴是に於て豁然として大悟す。
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『碧巌録』第三十八則穴初め雪峰に参ずること五年。因みに臨済入堂して、両堂の首座斉しく一喝を下す。僧臨済に問ふ、還た賓主有りや也た無しや。済云く、賓主歴然と、を請益す。穴云く、未審し意旨如何。峰云く、吾れ昔巌頭・欽山と、去いて臨済に見えんとするに、途中に在りて已に遷化せりと聞く。若し他の賓主の話を会せんと要せば、須らく是れ他の宗派下の尊宿に参ずべし。穴後に又瑞巌の常に自ら主人公と喚びて、自ら喏と云ひ、復た云く、惺惺著、他後人の瞞を受くること莫れと云ふを見て、穴云く、自ら拈じ自ら弄す、什麼の難きことか有らん。後に襄州の鹿門に在りて廓侍者と夏を過ごす。廓他を指して来りて南院に参ぜしむ。穴云く、入門には須らく主を辨ずべし、端的に請ふ師分かてと。一日遂に南院に見えて、前話を挙して云く、某甲特に来りて親覲す。南院云く、雪峰は古仏なり。
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『碧巌録』第三十八則却回して再び方丈に入る。清坐する次で、便ち問ふ、某適来輒ち騃見を呈して、尊顔を冒瀆す。伏して和尚の慈悲を蒙りて、未だ罪責を賜はず。清云く、適来東より来ると、豈に是れ翠巌より来るにあらずや。穴云く、雪竇は親しく宝蓋の東に棲む。清云く、亡羊を逐はずして狂解息み、却つて這裏に来りて詩篇を念ず。穴云く、路に剣客に逢はば須らく剣を呈すべし、是れ詩人ならずんば詩を献ずること莫れ。清云く、詩は速やかに秘却せよ、略剣峰を借らん。穴云く、梟首の甑人剣を携へて去る。清云く、独り風化に触るるのみならず、亦た自ら顢頇を顕はす。穴云く、若し風化に触れずんば、焉んぞ古仏の心を明らめん。清云く、何をか古仏の心と名づく。穴又云く、再び允容を許さば、師今何か有る。清云く、東来の衲子、菽麦分かたず。穴云く、只だ聞く以てせずして以てすと、何ぞ抑も以てして以てすることを得ん。清云く、巨浪千尋に湧く、澄波水を離れず。穴云く、一句截流、万機寝削。穴便ち礼拝す。清払子を以て点ずること三点して云く、俊なる哉、且く坐して茶を喫せよ。
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『碧巌録』第三十八則争奈せん風穴は是れ作家なり。便ち他に答へて道ふ、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟くと。也た是れ言中に響き有り。雲門云く、鉤を四海に垂るるは、只だ獰龍を釣る。格外の玄機は、知己を尋ねんが為なりと。巨浸は乃ち十二頭の水牯牛を鉤餌と為す。却つて只だ一蛙を釣り得て出だす。此の語且つ玄妙無く、亦た道理計較無し。古人道ふ、若し事上に向いて覻れば則ち易く、若し意根下に向いて卜度すれば則ち交渉没しと。盧陂佇思す。之を見て取らざれば千載にも逢ひ難し。惜しむべし許。所以に道ふ、直饒千の経論を講じ得るも、一句機に臨んで口を下すこと難しと。其の実盧陂は好語を討ねて他に対せんと要して、令を行ずることを欲せず。風穴に一向に旗を攙り鼓を奪ふ底の機鋒を用ゐて、一向に逼り将ち去られて、只だ奈何ともすること没きを得たり。俗諺に云く、陣敗れて苕帚の掃くに禁へずと。当初更に鎗法を討ねて他に敵せんと要す。爾が討ね得来るを等たば、即ち頭地に落ちん。牧主も亦た久しく風穴に参じて、解く仏法と王法と一般なりと道ふ。穴云く、爾箇の什麼をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招くと。風穴は渾て是れ一団の精神、水上の葫蘆子の如くに相似たり。捺著すれば便ち転じ、按著すれば便ち動く。解く機に随ひて説法す。若し機に随はずんば、翻つて妄語と成る。穴便ち下座す。
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『碧巌録』第三十八則一日鏡清に見ゆ。清問ふ、近離甚れの処ぞ。穴云く、東より離れ来る。清云く、還た小江を過ぐるや否や。穴云く、大舸独り空に飄る、小江は済るべき無し。清云く、鏡水図山、鳥飛べども渡らず。子遺言を盗聴すること莫れ。穴云く、滄溟すら尚ほ蒙輪の勢を怯る、列漢帆を飛ばして五湖を渡る。清払子を竪起して云く、這箇を争奈何せん。穴云く、這箇は是れ什麼ぞ。清云く、果然として識らず。穴云く、出没巻舒、師と同じく用ゐる。清云く、杓卜して虚声を聴き、熟睡して譫語饒し。穴云く、沢広くして山を蔵し、理能く豹を伏す。清云く、罪を赦し愆を放す、速やかに須らく出で去るべし。穴云く、出づれば即ち失す。乃ち便ち出でて法堂上に至り、自ら謂ひて言ふ、大丈夫、公案未だ了ぜず、豈に便ち休すべけんや。
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『碧巌録』第三十八則挙す。風穴郢州の衙内に在りて、上堂して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。時に盧陂長老有り、出でて問ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれ。穴云く、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟く。陂佇思す。穴喝して云く、長老何ぞ語を進めざる。陂擬議す。穴打つこと一払子。穴云く、還た話頭を記得するや、試みに挙し看よ。陂口を開かんと擬す。穴又打つこと一払子。牧主云く、仏法と王法と一般なり。穴云く、箇の什麼の道理をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招く。穴便ち下座す。
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