碧巌録 / 第三十八則
穴初參雪峯五年。因請益。臨濟入堂。兩堂首座齊下一喝。僧問臨濟。還有賓主也無。濟云。賓主歷然。穴云。未審意旨如何。峯云。吾昔與巖頭欽山。去見臨濟。在途中聞已遷化。若要會他賓主話。須是參他宗派下尊宿。穴後又見瑞巖常自喚主人公。自云喏。復云。惺惺著。他後莫受人瞞却。穴云。自拈自弄。有什麼難。後在襄州鹿門與廓侍者過夏。廓指他來參南院。穴云。入門須辨主。端的請師分。一日遂見南院。舉前話云。某甲特來親覲。南院云。雪峯古佛。
新字:穴初参雪峯五年。因請益。臨済入堂。両堂首座斉下一喝。僧問臨済。還有賓主也無。済云。賓主歴然。穴云。未審意旨如何。峯云。吾昔与巖頭欽山。去見臨済。在途中聞已遷化。若要会他賓主話。須是参他宗派下尊宿。穴後又見瑞巖常自喚主人公。自云喏。復云。惺惺著。他後莫受人瞞却。穴云。自拈自弄。有什麼難。後在襄州鹿門与廓侍者過夏。廓指他来参南院。穴云。入門須弁主。端的請師分。一日遂見南院。舉前話云。某甲特来親覲。南院云。雪峯古仏。
書き下し
穴初め雪峰に参ずること五年。因みに臨済入堂して、両堂の首座斉しく一喝を下す。僧臨済に問ふ、還た賓主有りや也た無しや。済云く、賓主歴然と、を請益す。穴云く、未審し意旨如何。峰云く、吾れ昔巌頭・欽山と、去いて臨済に見えんとするに、途中に在りて已に遷化せりと聞く。若し他の賓主の話を会せんと要せば、須らく是れ他の宗派下の尊宿に参ずべし。穴後に又瑞巌の常に自ら主人公と喚びて、自ら喏と云ひ、復た云く、惺惺著、他後人の瞞を受くること莫れと云ふを見て、穴云く、自ら拈じ自ら弄す、什麼の難きことか有らん。後に襄州の鹿門に在りて廓侍者と夏を過ごす。廓他を指して来りて南院に参ぜしむ。穴云く、入門には須らく主を辨ずべし、端的に請ふ師分かてと。一日遂に南院に見えて、前話を挙して云く、某甲特に来りて親覲す。南院云く、雪峰は古仏なり。
現代語訳
風穴は初め雪峰に五年参じた。そこで、臨済が僧堂に入ったとき、東西両堂の首座が同時に一喝を下し、ある僧が臨済に「客と主の別はあるのでしょうか」と問うと、臨済が「客と主ははっきりしている」と答えた話について教えを請うた。風穴は言った、「その意味はどういうことでしょうか」。雪峰は言った、「わしは昔、巌頭や欽山と臨済に会いに行こうとしたが、途中ですでに遷化されたと聞いた。もし臨済の賓主の話を会得したいなら、臨済の宗派の長老に参じなければならない」。風穴はその後また、瑞巌がいつも自分で「主人公」と呼び、自分で「はい」と答え、さらに「しっかり目を覚ましていろ。後で人にだまされるな」と言っているのを見て、言った、「自分で取り上げて自分で弄んでいる。何の難しいことがあろうか」。のちに襄州の鹿門で廓侍者と夏安居を過ごした。廓侍者は彼に南院に参じるよう指示した。風穴は「門に入ったなら主をはっきり見分けねばならない。はっきりと師よ、見分けてください」という句を携えて行った。ある日ついに南院に会い、前の話を挙げて言った、「わたしはわざわざ親しくお目にかかりに参りました」。南院は言った、「雪峰は古仏である」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『碧巌録』第三十八則風穴初めて南院に到りて、入門するに礼拝せず。院云く、入門には須らく主を辨ずべし。穴云く、端的に請ふ師分かてと。院左手もて膝を拍つこと一下す。穴便ち喝す。院右手もて膝を拍つこと一下す。穴も亦た喝す。院左手を挙げて云く、這箇は即ち闍黎に従ふ。又右手を挙げて云く、這箇は又作麼生。穴云く、瞎。院遂に拄杖を拈ず。穴云く、什麼をか作す。某甲拄杖を奪却して、和尚を打著せん。道はずと言ふこと莫れ。院便ち拄杖を擲下して云く、今日這の黄面の浙子に、鈍置せらるること一上。穴云く、和尚大いに鉢を持ち得ずして、詐りて飢ゑずと道ふに似たり。院云く、闍黎曾て此間に到ること莫しや。穴云く、是れ何の言ぞや。院云く、好好に借問す。穴云く、也た放過することを得ず。院云く、且く坐して茶を喫せよ。爾看よ、俊流は自ら是れ機鋒峭峻にして、南院も亦た未だ他を辨得せず。
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『碧巌録』第三十八則次の日に至りて、南院只だ平常の問を作して云く、今夏什麼の処にか在る。穴云く、鹿門に廓侍者と同じく夏を過ごす。院云く、元来親しく作家に見え来る。又云く、他爾に向かつて什麼をか道ふ。穴云く、始終只だ某甲をして一向に主と作らしむ。院便ち打ちて方丈より推し出して云く、這般の敗缺を納るる底の漢、什麼の用処か有らん。穴此より服膺して、南院の会下に在りて園頭と作る。一日院園裏に到りて問うて云く、南方の一棒、作麼生か商量す。穴云く、奇特の商量を作す。穴云く、和尚此間は作麼生か商量す。院棒を拈起して云く、棒下の無生忍、機に臨んで師に譲らず。穴是に於て豁然として大悟す。
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『碧巌録』第三十八則只如ば臨済に四賓主の話有り。夫れ参学の人は、大いに須らく子細なるべし。賓主相見えて、語論有りて賓主往来するが如きは、或いは物に応じて形を見はし、全体作用す。或いは機権を把りて喜怒し、或いは半身を現じ、或いは獅子に乗り、或いは象王に乗る。如し真正の学人有らば便ち喝して、先づ一箇の膠盆子を拈出す。善知識是れ境なることを辨ぜず、便ち他の境上に上りて、模を作し様を作す。便ち学人又喝す。前人放下することを肯ぜず。此れは是れ膏肓の病、医治するに堪へず。喚んで賓主を看ると作す。或いは是れ善知識、物を拈出せず、学人の問ふ処に随ひて便ち奪ふ。学人奪はれて、抵死して放たず。此れは是れ主賓を看る。或いは学人有りて、一箇の清浄の境に応じて、善知識の前に出づ。知識是れ境なることを辨得して、他を把りて坑裏に抛向す。学人言ふ、大いに好き善知識と。知識即ち云く、咄哉、好悪を識らずと。学人礼拝す。此れを喚んで主主を看ると作す。或いは学人有りて、枷を披り鎖を帯びて、善知識の前に出づ。知識更に他に一重の枷鎖を安ず。学人歓喜す。彼此辨ぜず。呼んで賓賓を看ると為す。大徳、山僧の挙する所は、皆是れ魔を辨じ異を揀びて、其の邪正を知らしむ。見ずや僧慈明に問ふ、一喝に賓主を分かち、照用一時に行ずる時如何。慈明便ち喝す。又雲居弘覚禅師衆に示して云く、譬へば獅子の象を捉ふるにも亦た其の力を全うし、兎を捉ふるにも亦た其の力を全うするが如しと。時に僧有りて問ふ、未審し什麼の力をか全うす。雲居云く、欺かざるの力と。看よ他の雪竇の頌出することを。梟。
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『碧巌録』第三十八則風穴は乃ち臨済下の尊宿なり。臨済当初黄檗の会下に在りて松を栽うる次で、檗云く、深山裏に許多の松を栽ゑて什麼をか作す。済云く、一には山門の与に境致と作し、二には後人の与に標榜と作さんと。道ひ了りて便ち钁もて地を一下す。檗云く、是の如くなりと雖然も、子已に二十棒を喫し了れり。済又地を打つこと一下して云く、噓噓。檗云く、吾が宗汝に到りて大いに世に興らんと。溈山喆云く、臨済恁麼なるは、大いに平地に交を喫するに似たり。是の如くなりと雖然も、危ふきに臨んで変ぜず、始めて真丈夫と称す。檗云く、吾が宗汝に到りて大いに世に興らんと、大いに児を憐れんで醜きを覚えざるに似たりと。後来溈山仰山に問ふ、黄檗当時只だ臨済一人に嘱付するや、別に更に在りや。仰山云く、有り。只だ是れ年代深遠にして、和尚に挙似することを欲せず。溈山云く、是の如くなりと雖然も、吾も亦た知らんと要す、但だ挙し看よ。仰山云く、一人南を指して呉越に令行はれ、大風に遇うて即ち止まんと。此れ乃ち風穴を讖するなり。
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『碧巌録』第三十八則是の時五代離乱す。郢州の牧主、師を請じて夏を度らしむ。是の時臨済の一宗大いに盛んなり。他凡そ是れ問答垂示、語句の尖新なることを妨げず。花を攢め錦を簇めて、字字皆下落有り。一日牧主、師を請じて上堂せしむ。衆に示して云く、祖師の心印、状鉄牛の機に似たり。去れば即ち印住し、住すれば即ち印破す。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。何が故ぞ。石人木馬の機に似ず、直下に鉄牛の機に似たり。爾が撼動する処無し。爾才かに去れば即ち印住し、爾才かに住すれば即ち印破す。爾をして百雑砕ならしむ。只如ば去らず住せずんば、印するが即ち是か、印せざるが即ち是か。看よ他の恁麼の垂示、鉤頭に餌有りと謂ひつべし。是の時座下に盧陂長老有り、亦た是れ臨済下の尊宿なり。敢へて頭を出だし来りて他と機に対し、便ち他の話頭を転じて、箇の問端を致す。奇特なることを妨げず。道ふ、某甲鉄牛の機有り、請ふ師印を搭けざれと。
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『碧巌録』第三十八則争奈せん風穴は是れ作家なり。便ち他に答へて道ふ、鯨鯢を釣りて巨浸を澄ましむるに慣れて、却つて蛙歩の泥沙に輾るを嗟くと。也た是れ言中に響き有り。雲門云く、鉤を四海に垂るるは、只だ獰龍を釣る。格外の玄機は、知己を尋ねんが為なりと。巨浸は乃ち十二頭の水牯牛を鉤餌と為す。却つて只だ一蛙を釣り得て出だす。此の語且つ玄妙無く、亦た道理計較無し。古人道ふ、若し事上に向いて覻れば則ち易く、若し意根下に向いて卜度すれば則ち交渉没しと。盧陂佇思す。之を見て取らざれば千載にも逢ひ難し。惜しむべし許。所以に道ふ、直饒千の経論を講じ得るも、一句機に臨んで口を下すこと難しと。其の実盧陂は好語を討ねて他に対せんと要して、令を行ずることを欲せず。風穴に一向に旗を攙り鼓を奪ふ底の機鋒を用ゐて、一向に逼り将ち去られて、只だ奈何ともすること没きを得たり。俗諺に云く、陣敗れて苕帚の掃くに禁へずと。当初更に鎗法を討ねて他に敵せんと要す。爾が討ね得来るを等たば、即ち頭地に落ちん。牧主も亦た久しく風穴に参じて、解く仏法と王法と一般なりと道ふ。穴云く、爾箇の什麼をか見る。牧主云く、当に断ずべきに断ぜざれば、返つて其の乱を招くと。風穴は渾て是れ一団の精神、水上の葫蘆子の如くに相似たり。捺著すれば便ち転じ、按著すれば便ち動く。解く機に随ひて説法す。若し機に随はずんば、翻つて妄語と成る。穴便ち下座す。
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