碧巌録 / 第三十二則
斷際全機繼後蹤 持來何必在從容巨靈擡手無多子分破華山千萬重雪竇頌。斷際全機繼後蹤。持來何必在從容。黃檗大機大用。唯臨濟獨繼其蹤。拈得將來不容擬議。或若躊躇便落陰界。楞嚴經云。如我按指。海印發光。汝暫舉心。塵勞先起。巨靈擡手無多子。分破華山千萬重。巨靈神有大神力。以手擘開太華。放水流入黃河。定上座疑情。如山堆岳積。被臨濟一掌。直得瓦解氷消。
新字:断際全機継後蹤 持来何必在従容巨霊擡手無多子分破華山千万重雪竇頌。断際全機継後蹤。持来何必在従容。黄檗大機大用。唯臨済独継其蹤。拈得将来不容擬議。或若躊躇便落陰界。楞厳経云。如我按指。海印発光。汝暫舉心。塵労先起。巨霊擡手無多子。分破華山千万重。巨霊神有大神力。以手擘開太華。放水流入黄河。定上座疑情。如山堆岳積。被臨済一掌。直得瓦解氷消。
書き下し
断際の全機、後蹤を継ぐ。持ち来たる何ぞ必ずしも従容たるに在らん。巨霊手を擡ぐるに多子無し、分破す華山の千万重。雪竇頌す、断際の全機後蹤を継ぐ、持ち来たる何ぞ必ずしも従容たるに在らんと。黄檗の大機大用は、唯だ臨済のみ独り其の蹤を継ぐ。拈得し将ち来たりて擬議を容れず。或し若し躊躇せば便ち陰界に落つ。楞厳経に云く、我が按指するが如きは、海印光を発す。汝暫くも心を挙ぐれば、塵労先づ起こると。巨霊手を擡ぐるに多子無し、分破す華山の千万重。巨霊神は大神力有り、手を以て太華を擘開し、水を放ちて黄河に流入せしむ。定上座の疑情は、山の堆く岳の積むが如し。臨済に一掌せられて、直に瓦解氷消することを得たり。
現代語訳
断際(黄檗)の全き働きを、臨済がその跡を継いだ。それを持ち出すのに、どうしてゆったり構えている必要があろう。巨霊神が手を挙げるのに何の造作もない、華山の千万重を二つに割り裂いた。雪竇はこう頌じた、「黄檗の全き働きを臨済が跡を継いだ。それを持ち出すのに、どうしてゆったり構えている必要があろう」。黄檗の大いなる機と大いなる用を、ただ臨済だけがその跡を継いだ。つかみ取って差し出すとき、ためらう余地を与えない。もしためらえば、たちまち迷いの世界に落ちる。『楞厳経』に言う、「わたしが指で押さえれば、海印三昧が光を放つ。お前がわずかでも心を起こせば、煩悩がまず起こる」。巨霊神が手を挙げるのに何の造作もない、華山の千万重を二つに割り裂いた。巨霊神は大いなる神力をもち、手で太華山を引き裂いて、水を放って黄河に流しこんだ。定上座の疑いは、山を積み岳を重ねたように大きかった。それが臨済の一掌を受けて、ただちに瓦が崩れ氷が溶けるように消えたのである。
解説
この章句が説くこと
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『碧巌録』第三十二則看よ他の恁麼に、直出直入、直往直来なることを。乃ち是れ臨済の正宗なり。恁麼の作用有り。若し透得し去らば、便ち天を翻して地と作し、自ら受用を得べし。定上座は是れ這般の漢なり。臨済に一掌せられて、礼拝して起き来るに、便ち落処を知る。他は是れ向北の人、最も朴直なり。既に得たる後、更に出世せず。後来全く臨済の機を用ゐて、也た頴脱なることを妨げず。一日路に巌頭・雪峰・欽山の三人に逢ふ。巌頭乃ち問ふ、甚処よりか来る。定云く、臨済。頭云く、和尚万福なりや。定云く、已に順世し了れり。頭云く、某等三人、特に去いて礼拝せんとするに、福縁浅薄にして、又帰寂に値ふ。未審し、和尚在りし日、何の言句か有りし。請ふ上座一両則を挙し看よ。
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『碧巌録』第三十二則垂示に云く、十方を坐断して千眼頓に開く。一句截流して万機寝削す。還た同死同生底有りや。見成の公案、打畳不下。古人の葛藤、試みに請ふ挙し看ん。
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『碧巌録』第十一則凜凜たる孤風、自ら誇らず、端居して寰海に龍蛇を定む。大中天子曾て軽く触れ、三度親しく爪牙を弄するに遭ふ。雪竇の此の一頌、一に黄檗の真賛に似て相似たり。人却つて真賛の会を作すことを得ざれ。他の句下に、便ち出身の処有り。分明に道ふ、凜凜たる孤風、自ら誇らずと。黄檗恁麼に衆に示す、且つ是れ人と争ひ我に負き、自ら逞しくし自ら誇るにあらず。若し這箇の消息を会せば、一任七縦八横。有る時は孤峰頂上に独立し、有る時は鬧市裏に身を横たふ。豈に僻んで一隅を守るべけんや。愈々捨つれば愈々歇まず、愈々尋ぬれば愈々見えず、愈々担荷すれば愈々没溺す。古人道ふ、翼無くして天下に飛び、名有りて世間に伝ふ。尽情に仏法道理、玄妙奇特を捨却し、一時に放下せば、却つて些子に較れり。自然に触処現成す。
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『碧巌録』第三十二則挙す。定上座、臨済に問ふ、如何なるか是れ仏法の大意。済禅床を下りて、擒住して一掌を与へ、便ち托開す。定佇立す。傍らの僧云く、定上座何ぞ礼拝せざる。定方に礼拝して、忽然として大悟す。
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『碧巌録』第八則雪竇若し恁麼に慈悲もて頌出して人をして見せしめずんば、争でか善知識と名づくることを得ん。古人此の如くなる、一一皆是れ事已むことを獲ず。蓋し後学の他の言句に著いて、転た情解を生ずるが為に、所以に古人の意旨を見ず。如今忽ち箇の出で来つて、禅床を掀倒し、大衆を喝散する有るも、他を怪しむことを得ず。然も此の如くなりと雖も、也た須らく実に這の田地に到つて始めて得べし。雪竇道ふ、「千古対無し」。他只だ道ふ、「看よ翠巌が眉毛在りや」。什麼の奇特の処か有つて、便乃ち千古対無き。須らく知るべし、古人一言半句を吐き出す、是れ造次にあらざることを。須らく是れ乾坤を定むる底の眼有つて始めて得べし。雪竇一言半句を著くるも、金剛王宝剣の如く、踞地の獅子の如く、石火を撃つが如く、閃電光に似たり。若し是れ頂門に眼を具せずんば、争でか能く他の古人の落処を見ん。這箇の示衆、直に千古対無きことを得て、徳山の棒、臨済の喝に過ぎたり。
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『碧巌録』第三十一則這の一箇の頌は、徳山溈山に見ゆる公案に似て相似たり。先づ公案を将ちて、両転語を著けて、穿ちて一串と作し、然る後に頌出す。此に錯、彼に錯、切に忌む拈却することを。雪竇の意に云く、此処に一錯、彼処に一錯、切に忌む拈却することを、拈却すれば即ち乖くと。須らく是れ此の如く這の両錯を著けて、直に四海浪平らかに百川潮落つることを得べし。清風明月を可殺す。爾若し這の両錯の下に向いて会得せば、更に一星の事も没し。山は是れ山、水は是れ水、長き者は自ら長く、短き者は自ら短し。五日に一風、十日に一雨。所以に道ふ、四海浪平らかに、百川潮落つと。後面に麻谷の錫を持するを頌して云く、古策風高し十二門と。古人は鞭を以て策と為し、衲僧家は拄杖を以て策と為す。西王母の瑤池の上に、十二の朱門有り。古策は即ち是れ拄杖、頭上の清風、十二の朱門よりも高し。天子及び帝釈の居る所の処も、亦た各十二の朱門有り。若し是れ這の両錯を会得せば、拄杖頭上に光を生じ、古策も也た用不著ならん。古人道ふ、拄杖子を識得すれば、一生参学の事畢ると。又道ふ、是れ形を標す虚事の褫ならず、如来の宝杖親しく蹤跡すと。此の類なり。這裏に到りては、七顛八倒、一切時中に於て、大自在を得。門門に路有り空しく蕭索たり。路有りと雖も、只だ是れ空しく蕭索たり。雪竇此に到りて、自ら漏逗を覚え、更に爾が与に打破す。然も是の如くなりと雖も、也た蕭索に非ざる処有り。任是作者も、無病の時、也た須らく是れ先づ些かの薬を討めて喫して始めて得べし。
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