碧巌録 / 第十一則
遂潛遁在香嚴閑和尚會下。後剃度為沙彌。未受具戒。後與志閑遊方到廬山。因志閑題瀑布詩云。穿雲透石不辭勞。地遠方知出處高。閑吟此兩句佇思久之。欲釣他語脈看如何。大中續云。溪澗豈能留得住。終歸大海作波濤。閑方知不是尋常人。乃默而識之。後到鹽官會中。請大中作書記。黃檗在彼作首座。檗一日禮佛次。大中見而問曰。不著佛求。不著法求。不著眾求。禮拜當何所求。檗云。不著佛求。不著法求。不著眾求。常禮如是。大中云。用禮何為。檗便掌。大中云。太麁生。檗云。這裏什麼所在。說麁說細。檗又掌。大中後繼國位。賜黃檗為麁行沙門。裴相國在朝。後奏賜斷際禪師。雪竇知他血脈出處。便用得巧。如今還有弄爪牙底麼。便打。
新字:遂潜遁在香厳閑和尚会下。後剃度為沙弥。未受具戒。後与志閑遊方到廬山。因志閑題瀑布詩云。穿雲透石不辞労。地遠方知出処高。閑吟此両句佇思久之。欲釣他語脈看如何。大中続云。渓澗豈能留得住。終帰大海作波濤。閑方知不是尋常人。乃黙而識之。後到塩官会中。請大中作書記。黄檗在彼作首座。檗一日礼仏次。大中見而問曰。不著仏求。不著法求。不著衆求。礼拝当何所求。檗云。不著仏求。不著法求。不著衆求。常礼如是。大中云。用礼何為。檗便掌。大中云。太麁生。檗云。這裏什麼所在。説麁説細。檗又掌。大中後継国位。賜黄檗為麁行沙門。裴相国在朝。後奏賜断際禅師。雪竇知他血脈出処。便用得巧。如今還有弄爪牙底麼。便打。
書き下し
遂に潜かに遁れて香厳閑和尚の会下に在り。後に剃度して沙弥と為るも、未だ具戒を受けず。後に志閑と遊方して廬山に到る。志閑の瀑布の詩を題するに因りて云く、雲を穿ち石を透して労を辞せず、地遠くして方に知る出処の高きことを。閑、此の両句を吟じて佇思すること之を久しうし、他の語脈を釣つて如何なるかを看んと欲す。大中続いで云く、渓澗豈に能く留め得て住まらんや、終に大海に帰して波濤と作る。閑方に尋常の人に非ざることを知り、乃ち黙して之を識る。後に塩官の会中に到り、大中を請じて書記と作す。黄檗彼に在りて首座と作る。檗一日仏を礼する次、大中見て問うて曰く、仏に著して求めず、法に著して求めず、衆に著して求めず、礼拝して当に何の求むる所ぞ。檗云く、仏に著して求めず、法に著して求めず、衆に著して求めず、常に礼すること是の如し。大中云く、礼を用ゐて何をか為す。檗便ち掌す。大中云く、太だ麁生。檗云く、這裏は什麼の所在ぞ、麁と説き細と説く。檗又掌す。大中後に国位を継ぎ、黄檗に賜ひて麁行沙門と為す。裴相国朝に在りて、後に奏して断際禅師と賜ふ。雪竇他の血脈の出処を知りて、便ち用ゐ得て巧みなり。如今還た爪牙を弄する底有りや。便ち打つ。
現代語訳
そこで大中はひそかに逃れて、香厳閑和尚の門下に身を寄せた。のちに剃髪して沙弥となったが、まだ具足戒は受けていなかった。その後、志閑とともに諸方を遊歴して廬山に至った。志閑が瀑布を題に詩を作って「雲を突き抜け石を穿って苦労をいとわない。地が遠く隔たって、はじめてその出どころの高いことがわかる」と詠んだ。志閑はこの二句を吟じたまましばらく考え込み、大中の言葉の脈を釣り出してどう応じるか見ようとした。大中は続けて「谷川がどうしてこれを留めておけようか。ついには大海に帰って大波となる」と詠んだ。志閑はそこで、ただ者ではないと知り、黙って心に留めた。のちに塩官の門下に至り、大中を書記に招いた。黄檗はそこで首座を務めていた。ある日、黄檗が仏を礼拝しているところを大中が見て問うた。「仏にとらわれて求めず、法にとらわれて求めず、僧にとらわれて求めない。それなら礼拝して何を求めるのですか」。黄檗「仏にとらわれて求めず、法にとらわれて求めず、僧にとらわれて求めず、いつもこのように礼拝するのだ」。大中「礼拝してどうするのですか」。黄檗はすぐさま平手で打った。大中「ひどく荒っぽい」。黄檗「ここをどこだと思って、荒いの細かいのと言うのか」。黄檗はまた平手で打った。大中はのちに帝位を継ぎ、黄檗に「麁行沙門」の号を賜った。宰相の裴休が朝廷にあって、のちに奏上して「断際禅師」の号を賜った。雪竇は黄檗の血脈の出どころを知っていたので、それを巧みに用いたのである。今どき、なお爪や牙を弄ぶ者がいるか。そこで打った。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『碧巌録』第十一則檗、裴相国と方外の友たり。裴、宛陵に鎮し、師を請じて郡に至らしむ。所解の一編を以て師に示す。師接して座に置き、略ぼ披閲せず。良久して乃ち云く、会すや。裴云く、会せず。檗云く、若し便ち恁麼に会し得ば、猶ほ些子に較れり。若也紙墨に形さば、何れの処にか更に吾が宗有らん。裴乃ち頌を以て賛して云く、大士心印を伝へしより、額に円珠有り七尺の身。錫を掛くること十年蜀水に棲み、盃を浮かべて今日漳浜を渡る。八千の龍象高歩に随ひ、万里の香花勝因を結ぶ。師に事へて弟子と為らんと擬欲するも、知らず法を将て何人にか付せん。師も亦た喜色無くして云く、心は大海の如く辺際無く、口に紅蓮を吐いて病身を養ふ。自ら一双の無事の手有り、曾て等閑の人に祇揖せず。
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『碧巌録』第十一則雪竇道ふ、端居して寰海に龍蛇を定むと。是れ龍か是れ蛇か、門に入り来たれば便ち験取す。之を龍蛇を定むる眼、虎兕を擒ふる機と謂ふ。雪竇又道ふ、龍蛇を定めて眼何ぞ正しき、虎兕を擒へて機全からず。又道ふ、大中天子曾て軽く触れ、三度親しく爪牙を弄するに遭ふと。黄檗豈に是れ如今の悪脚手ならんや、従来此の如し。大中天子とは、続咸通伝の中に載す。唐の憲宗に二子有り、一を穆宗と曰ひ、一を宣宗と曰ふ。宣宗は乃ち大中なり。年十三、少くして敏黠、常に跏趺坐を愛す。穆宗位に在りし時、早朝罷むるに因りて、大中乃ち戯れに龍床に登り、群臣に揖する勢を作す。大臣見て之を心風と謂ひ、乃ち穆宗に奏す。穆宗見て撫歎して曰く、我が弟は乃ち吾が宗の英胄なりと。穆宗、長慶四年に於て晏駕す。三子有り、敬宗・文宗・武宗と曰ふ。敬宗父の位を継ぐ。二年にして内臣謀つて之を易ふ。文宗位を継ぐこと一十四年。武宗位に即く。常に大中を喚んで癡奴と作す。一日武宗、大中の昔日戯れに父の位に登りしを恨み、遂に打殺して後苑の中に致し、不潔を以て灌ぐ。而して復た甦る。
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『碧巌録』第十一則凜凜たる孤風、自ら誇らず、端居して寰海に龍蛇を定む。大中天子曾て軽く触れ、三度親しく爪牙を弄するに遭ふ。雪竇の此の一頌、一に黄檗の真賛に似て相似たり。人却つて真賛の会を作すことを得ざれ。他の句下に、便ち出身の処有り。分明に道ふ、凜凜たる孤風、自ら誇らずと。黄檗恁麼に衆に示す、且つ是れ人と争ひ我に負き、自ら逞しくし自ら誇るにあらず。若し這箇の消息を会せば、一任七縦八横。有る時は孤峰頂上に独立し、有る時は鬧市裏に身を横たふ。豈に僻んで一隅を守るべけんや。愈々捨つれば愈々歇まず、愈々尋ぬれば愈々見えず、愈々担荷すれば愈々没溺す。古人道ふ、翼無くして天下に飛び、名有りて世間に伝ふ。尽情に仏法道理、玄妙奇特を捨却し、一時に放下せば、却つて些子に較れり。自然に触処現成す。
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『碧巌録』第十一則初め百丈に到る。丈問うて云く、巍巍堂堂、什麼の処よりか来たる。檗云く、巍巍堂堂、嶺中より来たる。丈云く、来たること何事の為ぞ。檗云く、別事の為ならず。百丈深く之を器とす。次の日百丈を辞す。丈云く、什麼の処にか去る。檗云く、江西に馬大師を礼拝し去る。丈云く、馬大師已に遷化し去れり。儞道へ、黄檗恁麼に問ふは、是れ知りて来たり問ふか、是れ知らずして来たり問ふか。却つて云く、某甲特地に去きて礼拝せんとするも、福縁浅薄にして一見に及ばず。未審し、平日何の言句か有る。願はくは挙示を聞かん。丈遂に再び馬祖に参ぜし因縁を挙す。祖、我が来たるを見て、便ち払子を竪起す。我問うて云く、此に即して用ゐるか、此を離れて用ゐるか。祖遂に払子を禅床の角に掛けて良久す。祖却つて我に問ふ、汝已後両片皮を鼓して、如何が人の為にせん。我払子を取りて竪起す。祖云く、此に即して用ゐるか、此を離れて用ゐるか。我払子を将て禅床の角に掛く。祖、威を振るつて一喝す。我当時直に三日耳聾することを得たり。黄檗覚えず悚然として舌を吐く。
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『碧巌録』第十一則檗、住して後、機鋒峭峻なり。臨済会下に在り、睦州首座たり。問うて云く、上座此に在ること多時、何ぞ去きて問話せざる。済云く、某甲をして什麼の話をか問はしめば即ち得ん。座云く、何ぞ去きて如何なるか是れ仏法的的の大意と問はざる。済便ち去きて問ひ、三度打ち出さる。済、座に辞して曰く、首座の三番去きて問はしむるを蒙り、打ち出さる。恐らくは因縁這裏に在らず。暫く且く山を下らん。座云く、子若し去らば、須らく和尚に辞して去りて方に可なるべし。首座預め去きて檗に白して云く、問話の上座、甚だ得べからず。和尚何ぞ穿鑿して一株の樹と成し去りて、後人の与に陰涼と為さしめざる。檗云く、吾已に知れり。済来たり辞す。檗云く、汝別処に向かつて去くことを得ざれ。直に高安灘頭に向かつて大愚に見え去れ。済、大愚に到りて、遂に前話を挙す。知らず、某甲過什麼の処にか在る。愚云く、黄檗与麼に老婆心切に、儞が為に徹困す。更に什麼の有過無過をか説かん。済忽然として大悟して云く、黄檗の仏法、多子無し。大愚搊住して云く、儞適来又過有りと道ひ、而今却つて仏法多子無しと道ふ。済、大愚の脇下に於て築くこと三拳。愚、拓開して云く、汝が師は黄檗なり、我が事に干るに非ず。
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