碧巌録 / 第十則
當爾之時。眼不觀色。耳不聽聲。鼻不嗅香。舌不了味。身不受觸。意不攀緣。一志向前。念念不退。倏忽而魔軍大敗。六賊全輸。殺戮無邊。掃除蕩盡。生擒妄想。活捉無明。領向涅槃場中。以慧劍斬為三段。煩惱林當時摧折。人我山化作微塵。癡愛網遭智火焚燒。邪見林被慧風吹竭。因茲三明再朗。四智重圓。內外無瑕。廓然清淨。心王坐歡喜之殿。真如登解脫之樓。自性遊無礙之堂。三身踞法空之座。從茲法界寧靜。永絕囂塵。共渡生死之河。齊到菩提之岸。魔軍既退。合具奏聞。
新字:当爾之時。眼不観色。耳不聴声。鼻不嗅香。舌不了味。身不受触。意不攀縁。一志向前。念念不退。倏忽而魔軍大敗。六賊全輸。殺戮無辺。掃除蕩尽。生擒妄想。活捉無明。領向涅槃場中。以慧剣斬為三段。煩悩林当時摧折。人我山化作微塵。痴愛網遭智火焚焼。邪見林被慧風吹竭。因茲三明再朗。四智重円。内外無瑕。廓然清浄。心王坐歓喜之殿。真如登解脱之楼。自性遊無礙之堂。三身踞法空之座。従茲法界寧静。永絶囂塵。共渡生死之河。斉到菩提之岸。魔軍既退。合具奏聞。
書き下し
爾の時に当つて、眼は色を観ず、耳は声を聴かず、鼻は香を嗅がず、舌は味を了せず、身は触を受けず、意は攀縁せず。一志前に向ひ、念念退かず。倏忽にして魔軍大いに敗れ、六賊全く輸く。殺戮辺無く、掃除蕩尽す。妄想を生擒し、無明を活捉し、領して涅槃場中に向ひ、慧剣を以て斬つて三段と為す。煩悩林当時に摧折し、人我山化して微塵と作る。癡愛の網は智火の焚焼に遭ひ、邪見の林は慧風に吹き竭さる。茲に因つて三明再び朗かに、四智重ねて円かに、内外瑕無く、廓然として清浄なり。心王は歓喜の殿に坐し、真如は解脱の楼に登り、自性は無礙の堂に遊び、三身は法空の座に踞す。茲より法界寧静にして、永く囂塵を絶し、共に生死の河を渡り、斉しく菩提の岸に到る。魔軍既に退く、合に具さに奏聞すべし。
現代語訳
その時、眼は色を見ず、耳は声を聞かず、鼻は香を嗅がず、舌は味をわきまえず、身は触れるものを受けず、意は対象にすがりつかなかった。ひたすら前に向かい、一念一念退かなかった。たちまち魔軍は大敗し、六賊はすっかり負けた。限りなく討ち取り、すっかり掃き清めた。妄想を生け捕り、無明を捕らえ、涅槃の場に引き立てて、慧剣で三つに斬った。煩悩の林はたちどころに砕け折れ、人我の山は微塵と化した。愛着の網は智慧の火に焼かれ、邪見の林は智慧の風に吹き尽くされた。これによって三明はふたたび明らかとなり、四智はふたたび円満となり、内にも外にも傷はなく、からりとして清浄である。心王は歓喜の宮殿に坐し、真如は解脱の楼に登り、自性は妨げのない堂に遊び、三身は法空の座に腰を据えた。これより法界は安らかに静まり、永く騒がしい塵を絶ち、ともに生死の河を渡り、そろって菩提の岸に至った。魔軍はすでに退いたので、つぶさに奏上申し上げる次第である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・心に城池有り、口に門戶有り心は城池有るを要し、口は門戶有るを要す。城池有れば則ち出でず、門戶有れば則ち縱にせず。
-
『呻吟語』外篇・天地・心は就ち是れ天なり心は就ち是れ天なり。心を欺くは便ち是れ天を欺くなり。心に事ふるは便ち是れ天に事ふるなり。更に須らく蒼蒼の上面に向かひて討むべからず。
-
『呻吟語』内篇・修身・心を大にし虛にし平にし潛め定む其の心を大にして天下の物を容れ、其の心を虛にして天下の善を受け、其の心を平にして天下の事を論じ、其の心を潛めて天下の理を觀、其の心を定めて天下の變に應ず。
-
『正法眼蔵随聞記』巻一示して云く、人は思ひ切て命をも棄て、身肉手足をも截ことは中々せくるゝなり、然あれば世間の事を思ふに、名利執心の為にも多くかくの如く思ひ切るなり、只依り来る時に、事に触れ物に随て、心品を調ふること難きなり、学者身命を捨ると思ふて、且くおしゝづめて、云ふべきことをも、修すべきことをも、道理に順ずるか順せざるかと案じて、道理に順せば云ひ、若くは行じもすべきなり、
-
『呻吟語』内篇・存心・心は天平のごとくならんことを要す心は天平のごとくならんことを要す。物を稱る時、物は忙しくして衡は忙しからず。物去る時、即ち懸空して此に在り。只だ恁く靜虛中正なれば、何等ぞ自在ならん。
-
『呻吟語』外篇・人情・心は二三を怕れ、情は一を怕る心は二三を怕れ、情は一を怕る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る