碧巌録 / 第七則
江國春風吹不起 鷓鴣啼在深花裏三級浪高魚化龍癡人猶戽夜塘水
新字:江国春風吹不起 鷓鴣啼在深花裏三級浪高魚化竜痴人猶戽夜塘水
書き下し
江国の春風吹き起たず、鷓鴣啼いて深花の裏に在り。三級浪高うして魚龍と化す、癡人猶ほ戽む夜塘の水。
現代語訳
江南の国の春風は吹き起こらず、鷓鴣は深い花の茂みの中で鳴いている。三段の滝の波が高くそびえて魚は龍と化したのに、愚か者はなお夜の池の水を汲み干している。
解説
雪竇重顕が第七則に付けた頌である。前半二句「江国の春風吹き起たず、鷓鴣啼いて深花の裏に在り」は、春の江南の穏やかな風景を詠むが、圜悟は評唱でこの二句は一句であると言い、二つに分けて解く説を退けている。後半は慧超の大悟を、黄河の龍門の三段の急流を登り切った魚が龍に化す故事にたとえ、魚がもう龍になって天に昇ったのに、愚か者はまだ夜の池の水を汲み干して魚を探していると詠む。言葉の端をいつまでも噛み続ける者への皮肉である。現代の働く者には、事態がすでに変わったのに、古いやり方で答えを探し続けていないかを問う一首として読める。
この章句が説くこと
竜門雪竇頌悟り変化固執
関連する章句
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『碧巌録』第七則雪竇第三第四句、忒殺だ慈を傷つけて、人の為に一時に説破す。超禅師当下に大悟する処、三級浪高うして魚龍と化し、癡人猶ほ夜塘の水を戽むが如し。禹門の三級浪、孟津即ち是れ龍門。禹帝鑿つて三級と為す。今三月三、桃花開く時、天地の感ずる所、魚有りて龍門を透得すれば、頭上に角を生じ、鬃鬣尾を昂げ、雲を拏んで去る。跳び得ざる者は額に点じて回る。癡人言下に向つて咬嚼す、夜塘の水を戽んで魚を求むるに似て相似たり。殊に知らず、魚已に化して龍と為ることを。端師翁頌有りて云く、「一文の大光銭、箇の油糍を買ひ得たり。肚裏に喫し向け了れば、当下に飢を聞かず」。此の頌極めて好し。只だ是れ太だ拙なり。雪竇の頌得極めて巧みにして、鋒を傷り手を犯さず。旧時慶蔵主愛して人に問ふ、「如何なるか是れ三級浪高うして魚龍と化す」。我も也た在ることを必せず。我且く爾に問ふ、化して龍と作り去る、即今什麼の処にか在る。
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『碧巌録』第七則雪竇は是れ作家、古人の咬み難く嚼み難く、透り難く見難き節角誵訛の処に於て、頌出して人をして見せしむ。妨げず奇特なることを。雪竇法眼の関棙子を識得し、又慧超の落処を知り、更に後人の法眼の言句下に向つて、錯つて解会を作さんことを恐る。所以に頌出す。這の僧此の如く問ひ、法眼是の如く答ふ、便ち是れ「江国の春風吹き起たず、鷓鴣啼いて深花の裏に在り」。此の両句只だ是れ一句。且く道へ、雪竇の意什麼の処にか在る。江西江南、多く両般の解会を作して道ふ、「江国の春風吹き起たずは、用て汝は是れ慧超を頌す、只だ這箇の消息は、直饒ひ江国の春風も也た吹き起たず。鷓鴣啼いて深花の裏に在りは、用て諸方の這の話を商量すること浩浩地にして、鷓鴣の深花の裏に在つて啼くに似て相似たるを頌す」と。什麼の交渉か有らん。殊に知らず、雪竇の這の両句、只だ是れ一句なることを。無縫無罅ならんことを要得す。明明に汝に向つて道ふ、言も也た端、語も也た端、蓋天蓋地。他問ふ、如何なるか是れ仏。法眼云く、汝は是れ慧超。雪竇道ふ、江国の春風吹き起たず、鷓鴣啼いて深花の裏に在り。這裏に向つて薦得し去らば、以て丹霄に独歩すべし。爾若し情解を作さば、三生六十劫。
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『碧巌録』第六十則雲門は委曲して人の為にし、雪竇は截径に人の為にす。所以に「化して竜と為る」を撥却して、恁麼に道ふことを消ひず、只だ是れ「拄杖子乾坤を呑む」と。雪竇の大意は人の情解を免れしむ。更に道ふ、「徒らに説く桃花浪奔ると」。更に必ずしも化して竜と為らず。蓋し禹門に三級の浪有り、毎に三月に至れば桃花浪漲る。魚能く水に逆らひ、浪を躍り過ぐる者は即ち化して竜と為る。雪竇道ふ、縦ひ化して竜と為るも、亦た是れ徒らに説くのみと。「尾を焼く者は雲を拏み霧を攫むに在らず」。魚禹門を過ぐれば、自ら天火有りて其の尾を焼き、雲を拏み霧を攫んで去る。雪竇の意に道ふ、縦ひ化して竜と為るも、亦た雲を拏み霧を攫むに在らずと。「腮を曝す者は何ぞ必ずしも胆を喪ひ魂を亡はん」。清涼の疏の序に云く、「積行の菩薩すら、尚ほ乃ち腮を竜門に曝す」と。大意は華厳の境界の小徳小智の造詣する所に非ざることを明らむ。猶ほ魚の竜門を過ぐるに透不得なる者の、額に点して回り、死水沙磧の中に困しんで、其の腮を曝すが如し。
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『碧巌録』第三則神宗位に在る時、自ら此の頌国を諷すと謂ふ、所以に蔵に入るることを肯ぜず。雪竇先づ拈じて云く、「日面仏、月面仏」。一拈し了つて、却つて云く、「五帝三皇是れ何物ぞ」。且く道へ、他の意作麼生。適来已に説き了れり。直下に他を注す。所以に道ふ、「鉤を四海に垂れて、只だ獰龍を釣る」。只だ此の一句已に了る。後面に雪竇自ら他の平生用心参尋する所以を頌す。「二十年来曾て苦辛す、君が為に幾たびか蒼龍窟に下る」。箇の什麼にか似たる。一に人の蒼龍窟裏に入つて珠を取るに似て相似たり。後来漆桶を打破して、将に謂へり多少の奇特と。元来只だ箇の五帝三皇是れ何物ぞを消得するのみ。且く道へ、雪竇の語、什麼の処にか落在す。須らく是れ自家退歩して看て、方に始めて他の落処を見得すべし。
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『碧巌録』第十一則凜凜たる孤風、自ら誇らず、端居して寰海に龍蛇を定む。大中天子曾て軽く触れ、三度親しく爪牙を弄するに遭ふ。雪竇の此の一頌、一に黄檗の真賛に似て相似たり。人却つて真賛の会を作すことを得ざれ。他の句下に、便ち出身の処有り。分明に道ふ、凜凜たる孤風、自ら誇らずと。黄檗恁麼に衆に示す、且つ是れ人と争ひ我に負き、自ら逞しくし自ら誇るにあらず。若し這箇の消息を会せば、一任七縦八横。有る時は孤峰頂上に独立し、有る時は鬧市裏に身を横たふ。豈に僻んで一隅を守るべけんや。愈々捨つれば愈々歇まず、愈々尋ぬれば愈々見えず、愈々担荷すれば愈々没溺す。古人道ふ、翼無くして天下に飛び、名有りて世間に伝ふ。尽情に仏法道理、玄妙奇特を捨却し、一時に放下せば、却つて些子に較れり。自然に触処現成す。
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『碧巌録』第八十二則問ふこと曾て知らず、答ふること還た会せず。月冷やかに風高し、古巌の寒檜。笑ふに堪へたり、路に達道の人に逢ひて、語黙を将て対へず。手に白玉の鞭を把つて、驪珠尽く撃砕す。撃砕せずんば、瑕纇を増さん。国に憲章有り、三千条の罪。雪竇頌し得て、最も工夫有り。前来雲門の話を頌して却つて云く、「問既に宗有り、答も亦た同じき攸なり」と。這箇は却つて恁麼ならず、却つて云く、「問ふこと曾て知らず、答ふること還た会せず」と。大龍の答処傍瞥にして、直に是れ奇特なり。分明に是れ誰か恁麼に問ふ、未だ問はざる已前に、早く敗缺を納れ了れり。他の答処俯して能く恰好、機宜に応じて道ふ、「山花開いて錦に似たり、澗水湛へて藍の如し」。爾諸人、如今作麼生か大龍の意を会す。答処傍瞥にして、直に是れ奇特なり。所以に雪竇頌出して、人をして月冷やかに風高く、更に古巌の寒檜に撞著することを知道せしむ。且く道へ、他の意作麼生か会す。所以に適来道ふ、「無孔の笛子、氈拍板に撞著す」と。只だ這の四句にて頌し了れり。
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