兵要録抄録 / 民を養い教え禁ずる
凡治國之道。養民生。復民性。禁民非。是爲三要也。均井地。薄賦斂。使民以時。敎民種桑麻。農夫耕耘。女子蠶繰。民不徒力。國不空地。則衣食給。而不憂養父母妻子。民有恒心。而國盜賊不起。國靜民寧。繇玆商賈聚而通市。匠工來而制器。國用饒足。而民富且樂。謂之養民生也。養而無敎。則民不知禮義。無禮則上下擾。無義則後其君。敎之之道。鄕村設塾。郡國立學校。備敎授官。置經書。辨費用。入士民之子弟而敎之。塾學書數。讀經書。學校解字講義。俾人人知格物致知脩己治人之道。故國孝弟忠信禮義廉恥之風興矣。謂之復民性也。雖敎養有法。不豫禁民非。則邪曲起而國亂也。故國郡鄕村。各〻設官擧賢。任德定法禁。揭條例以輔治敎。使民莫得罪者矣。如有犯法者。則糺其罪狀。盡其理。而與衆俱棄之於市。以糺萬民。謂之禁民非也。蓋衣食足。故民樂而不思亂矣。國有敎。故民知義。而不犯上矣。豫禁非。故奸曲邪謀者不起矣。國政如此。則天下無敵。
新字:凡治国之道。養民生。復民性。禁民非。是為三要也。均井地。薄賦斂。使民以時。教民種桑麻。農夫耕耘。女子蠶繰。民不徒力。国不空地。則衣食給。而不憂養父母妻子。民有恒心。而国盗賊不起。国静民寧。繇玆商賈聚而通市。匠工来而制器。国用饒足。而民富且楽。謂之養民生也。養而無教。則民不知礼義。無礼則上下擾。無義則後其君。教之之道。郷村設塾。郡国立学校。備教授官。置経書。弁費用。入士民之子弟而教之。塾学書数。読経書。学校解字講義。俾人人知格物致知脩己治人之道。故国孝弟忠信礼義廉恥之風興矣。謂之復民性也。雖教養有法。不予禁民非。則邪曲起而国乱也。故国郡郷村。各〻設官挙賢。任徳定法禁。掲条例以輔治教。使民莫得罪者矣。如有犯法者。則糺其罪状。尽其理。而与衆倶棄之於市。以糺万民。謂之禁民非也。蓋衣食足。故民楽而不思乱矣。国有教。故民知義。而不犯上矣。予禁非。故奸曲邪謀者不起矣。国政如此。則天下無敵。
書き下し
凡そ國を治むるの道は、民の生を養ひ、民の性を復し、民の非を禁ず。是を三要と爲すなり。井地を均しくし、賦斂を薄くし、民を使ふに時を以てし、民に桑麻を種ゑしめ、農夫は耕耘し、女子は蠶繰す。民徒らに力あらず、國空しき地あらざれば、則ち衣食給して、父母妻子を養ふを憂へず。民恒心有りて、國に盜賊起こらず。國靜かに民寧し。玆に繇りて商賈聚まりて市に通じ、匠工來たりて器を制し、國用饒足にして、民富み且つ樂しむ。之を民の生を養ふと謂ふなり。養ひて敎ふること無ければ、則ち民禮義を知らず。禮無ければ則ち上下擾れ、義無ければ則ち其の君を後にす。之を敎ふるの道は、鄕村に塾を設け、郡國に學校を立て、敎授官を備へ、經書を置き、費用を辨じ、士民の子弟を入れて之を敎ふ。塾は書數を學び、經書を讀み、學校は字を解し義を講ず。人々をして格物致知、己を脩め人を治むるの道を知らしむ。故に國に孝弟忠信禮義廉恥の風興る。之を民の性を復すと謂ふ。敎養に法有りと雖も、豫め民の非を禁ぜざれば、則ち邪曲起こりて國亂る。故に國郡鄕村に、各〻官を設けて賢を擧げ、德に任じて法禁を定め、條例を揭げて以て治敎を輔け、民をして罪を得ること莫からしむ。如し法を犯す者有れば、則ち其の罪狀を糺し、其の理を盡くして、衆と俱に之を市に棄て、以て萬民を糺す。之を民の非を禁ずと謂ふ。蓋し衣食足る、故に民樂しみて亂を思はず。國に敎へ有り、故に民義を知りて上を犯さず。豫め非を禁ず、故に奸曲邪謀の者起こらず。國政此の如くなれば、則ち天下に敵無し。
現代語訳
国を治める道は、民の生活を養い、民の本来の性を回復させ、民の悪事を禁じることで、これを三要といいます。田地を公平に配分し、税を軽くし、民を使うには農閑期を選び、桑や麻を植えさせ、男は耕し、女は養蚕と糸繰りをします。民は力を空費せず、国に遊んだ土地がなければ、衣食が足り、父母や妻子を養う心配がありません。民に安定した心が生まれ、国に盗賊は起こらず、国は静かで民は安らぎます。そうなると商人が集まって市が開け、職人が来て器物を作り、国の費用も豊かになり、民は富んで楽しみます。これが民の生活を養うということです。養うだけで教えなければ、民は礼や義を知りません。礼がなければ上下が乱れ、義がなければ主君を後回しにします。教える方法は、郷や村に塾を設け、郡や国に学校を立て、教授官を置き、経書を備え、費用を整えて、士や民の子弟を入れて教えます。塾では読み書き算術を学び経書を読み、学校では字義を解き意味を講じます。人々に、物事を窮めて知を致し、己を修めて人を治める道を知らせます。そうすれば国に孝悌忠信礼義廉恥の風が興ります。これが民の本性を回復させるということです。教え養う仕組みがあっても、あらかじめ悪事を禁じておかなければ、よこしまが起こって国は乱れます。そこで国・郡・郷・村にそれぞれ役人を置いて賢者を挙げ、徳ある者に任せて法と禁令を定め、条例を掲げて政治と教化を助け、民が罪を犯さずに済むようにします。もし法を犯す者がいれば、罪状を調べ、道理を尽くした上で、人々と共にその者を市で処刑し、万民を戒めます。これが民の悪事を禁じるということです。衣食が足りるから民は楽しんで乱を思わず、国に教えがあるから民は義を知って上を犯さず、あらかじめ悪事を禁じるからよこしまな企みは起こりません。国政がこのようであれば、天下に敵はありません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『君子訓』巻之上一古の聖人、国を治め民を安ずるの道、其要三あり、政教刑なり。士には禄食を与へて、義を守り利欲に遠ざからしむ。農には公役を省きて年貢を軽くし、力を耕作に尽さしむ。桑麻をうゑ、布帛を織らしむ。工人を恵みて、其利用を賞し、無用の華美の物を作ることを禁ず。商賈を通じて運上を軽くし、市の価を平かにして、奇巧無益の物を売り、姦利をなす事をいましむ。此上に、遊惰を警め、奢侈を禁じ、倹約を行はしめて、四民ともに其分を安んじ、其業を勤め、衣食足りて困窮に到らしめず。是民を養ふ政なり。上徳行を勤めて下の手本となり、学校を建て、師を立て、士民に人倫の道を教へて、士は礼義を知り、庶民ともに善に移り、罪に遠ざからしむ。
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『慎思録』巻之四民を治むる者は、先づ養ひて而る後に之を教ふ。孟子曰く、養ひて教へざるは、之を畜の養ふなり、と。教へに従はざるに迨んで之を刑す。孔子曰く、教へずして殺す、之を虐と謂ふ、と。故に民を治むる者は、養教刑の三者、其の一を闕くべからず。而して其の施為の序も、亦た当に此の如くなるべし。譬へば子を育つるが如く然り。子を育つる者は、先づ之を養ひて而る後に之を教ふ。教へて従はず、然る後に之を撻つ。其の教へに従はんことを求むるなり。苟も教へずして之を撻てば、慈ならずと謂ふべし。民を治むると子を育つると、其の理一なり。
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『慎思録』巻之二政を為すの道は、教養の二者、闕くべからず。二者は養を先と為し、教之に次ぐ。是れ先づ養ひて而る後に教ふるなり。舜は先づ后稷をして民に稼穡を教へしめ、五穀熟して民人育す。而る後に契をして司徒と為し、教ふるに人倫を以てせしむ。此れ養ひて而る後に教ふるなり。既に之を養ひ又之を教へて、民従はず。所以に刑有りて其の罪を正し、民をして教へに従はしむるなり。是を以て舜又皐陶に命じ、士と為りて五刑を司らしむ。其の序の紊るべからざること此くの如し。夫れ後世の政にも、亦た刑法有り。既に刑法有れば、則ち復た先づ教へ無かるべからず。孔子曰く、教へずして殺す、之を虐と謂ふ、と。此れ以て聖人の政は、養を先にし中ごろ教へ刑を後にす。蓋し既に養ひ且つ教へて、苟も従はざる者有らば、已むを得ずして刑を用ゐるのみ。
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『兵要録抄録』・身を修めて国を治める夫れ天下の本は則ち國に在り。國の本は則ち家に在り。家の本は則ち身に在り。故に天下國家を平治せんと欲する者は、先づ其の身を脩む。身脩まれば、則ち一家之に化す。推し及ぼせば則ち一國治まる。一國能く治まれば、則ち天下歸す。是を以て君子は躬行して、下を率ゐるに德を以てす。故に民觀感して心服す。民を撫するに仁を以てす。故に民恩を懷ひて其の上に親附す。之を齊ふるに禮を以てす。故に上下分定まりて亂れず。之を勵ますに義を以てす。故に民恥を知りて身を委ね忠を竭くし、死亡を顧みず。之を威するに法を以てす。故に民畏れて犯さず。之を行ふに信を以てす。故に誠を以て誠に感じ、民其の操守を變へず。是を以て國富み且つ强く、民安んじて樂しむ。事有れば則ち能く戰ひ固く守る。故に敵國は威德に服し、天下命に歸す。
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『君子訓』巻之上是教なり。如斯して民政に従はず、教に入らず、人の害となる者あれば、其罪を正して是を懲す、是刑なり。此三の考は、国を治むるの要なり。後世にも此事なきにはあらず、唯其法古に及ばず、且行ふもの其人にあらざれば、其具ありといへども、其道行はれずして国治まらず。一人の身のはたらきは、一心を主とし、両手両足を使ひものとす。身の内少しにても痛む所かゆき所あれば、手行きて是をさすりかく。是我が心吾が身を愛すること切にして、心と身と一体にして通ずる故なり。君の心に仁愛厚くして、万民を憐む心深ければ、民の愁ひ苦みを知りて、恵を施さざる事なかるべし。
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『近思録』巻8 治体民の為に君を立つるは、之を養ふ所以なり。民を養ふの道は、其の力を愛するに在り。民力足れば則ち生養遂ぐ。生養遂ぐれば則ち教化行はれて風俗美し。故に政を為すは民力を以て重しと為すなり。春秋凡そ民力を用ふれば必ず書す、其の興作する所、時ならず義を害するは、固より罪と為すなり。時にして且つ義なりと雖も必ず書す、民を労するを重事と為すを見すなり。後の人君此の義を知れば、則ち民力を用ふるを慎重することを知らん。然れども民力を用ふることの大にして書せざる者有り、教の義たること深し。僖公の泮宮を脩め、閟宮を復する、民力を用ひざるに非ざるなり。然り而して書せず。二者は古に復し廃を興すの大事にして、国の先務為り、是くの如くして民力を用ふるは、乃ち当に用ふべき所なり。人君此の義を知れば、政を為すの先後軽重を知らん。身を治め家を斉へて以て天下を平らかにするに至る者は、治の道なり。治綱を建立し、百職を分正す。天時に順ひて以て事を制し、制を創り度を立て、天下の事を尽すに至る者は、治の法なり。聖人の天下を治むるの道は、唯此の二端のみ。明道先生曰く、先王の世は、道を以て天下を治む。後世は只是れ法を以て天下を把持す。政を為すは須らく綱紀文章有るを要すべし。「有司を先にす」、郷官法を読み、価を平らかにし、権衡を謹むは、皆闕くべからざるなり。人各其の親を親しみ、然る後に能く独り其の親を親しまざらん。仲弓曰く、「焉んぞ賢才を知りて之を挙げん。」子曰く、「爾の知る所を挙げよ、爾の知らざる所は、人其れ諸を舎てんや。」便ち仲弓と聖人との心を用ふるの大小を見る。此の義を推せば、則ち一心以て邦を喪すべく、一心以て邦を興すべし。只公私の間に在るのみ。治道も亦本より言ふ有り、亦事より言ふ有り。本より言へば、惟だ君心の非を格すより、「心を正して以て朝廷を正し、朝廷を正して以て百官を正す」。若し事より言へば、救はざれば則ち已む。若し須らく之を救ふべくんば、必ず須らく変ずべし。

人生を、一行の式にしてみた。
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