君子訓 / 巻之上
一古の聖人、國を治め民を安ずるの道、其要三あり、政敎刑なり。士には祿食を與へて、義を守り利欲に遠ざからしむ。農には公役を省きて年貢を輕くし、力を耕作に盡さしむ。桑麻をうゑ、布帛を織らしむ。工人を惠みて、其利用を賞し、無用の華美の物を作ることを禁ず。商賈を通じて運上を輕くし、市の價を平かにして、奇巧無益の物を賣り、姦利をなす事をいましむ。此上に、遊惰を警め、奢侈を禁じ、儉約を行はしめて、四民ともに其分を安んじ、其業を勤め、衣食足りて困窮に到らしめず。是民を養ふ政なり。上德行を勤めて下の手本となり、學校を建て、師を立て、士民に人倫の道を敎へて、士は禮義を知り、庶民ともに善に移り、罪に遠ざからしむ。
新字:一古の聖人、国を治め民を安ずるの道、其要三あり、政教刑なり。士には禄食を与へて、義を守り利欲に遠ざからしむ。農には公役を省きて年貢を軽くし、力を耕作に尽さしむ。桑麻をうゑ、布帛を織らしむ。工人を恵みて、其利用を賞し、無用の華美の物を作ることを禁ず。商賈を通じて運上を軽くし、市の価を平かにして、奇巧無益の物を売り、姦利をなす事をいましむ。此上に、遊惰を警め、奢侈を禁じ、倹約を行はしめて、四民ともに其分を安んじ、其業を勤め、衣食足りて困窮に到らしめず。是民を養ふ政なり。上徳行を勤めて下の手本となり、学校を建て、師を立て、士民に人倫の道を教へて、士は礼義を知り、庶民ともに善に移り、罪に遠ざからしむ。
書き下し
一古の聖人、国を治め民を安ずるの道、其要三あり、政教刑なり。士には禄食を与へて、義を守り利欲に遠ざからしむ。農には公役を省きて年貢を軽くし、力を耕作に尽さしむ。桑麻をうゑ、布帛を織らしむ。工人を恵みて、其利用を賞し、無用の華美の物を作ることを禁ず。商賈を通じて運上を軽くし、市の価を平かにして、奇巧無益の物を売り、姦利をなす事をいましむ。此上に、遊惰を警め、奢侈を禁じ、倹約を行はしめて、四民ともに其分を安んじ、其業を勤め、衣食足りて困窮に到らしめず。是民を養ふ政なり。上徳行を勤めて下の手本となり、学校を建て、師を立て、士民に人倫の道を教へて、士は礼義を知り、庶民ともに善に移り、罪に遠ざからしむ。
現代語訳
昔の聖人が国を治め民を安らかにした道には、要が三つあります。政・教・刑です。士には禄を与えて、義を守り利欲から遠ざけました。農民には公の労役を省いて年貢を軽くし、力を耕作に尽くさせました。桑や麻を植えさせ、布や絹を織らせました。職人には恵みを与えてその役立つ仕事を賞し、無用の華美な物を作ることを禁じました。商人には流通を通じさせて運上(税)を軽くし、市場の値段を公平にして、奇抜で無益な物を売って不当な利を得ることを戒めました。そのうえで、怠けて遊ぶことを戒め、奢侈を禁じ、倹約を行わせて、四民ともにその分に安んじ、その業を勤め、衣食が足りて困窮に至らないようにしました。これが民を養う政です。上は徳行に努めて下の手本となり、学校を建て、師を立て、士や民に人倫の道を教えて、士は礼儀を知り、庶民も共に善に移って、罪から遠ざかるようにしました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『君子訓』巻之上是教なり。如斯して民政に従はず、教に入らず、人の害となる者あれば、其罪を正して是を懲す、是刑なり。此三の考は、国を治むるの要なり。後世にも此事なきにはあらず、唯其法古に及ばず、且行ふもの其人にあらざれば、其具ありといへども、其道行はれずして国治まらず。一人の身のはたらきは、一心を主とし、両手両足を使ひものとす。身の内少しにても痛む所かゆき所あれば、手行きて是をさすりかく。是我が心吾が身を愛すること切にして、心と身と一体にして通ずる故なり。君の心に仁愛厚くして、万民を憐む心深ければ、民の愁ひ苦みを知りて、恵を施さざる事なかるべし。
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『慎思録』巻之四民を治むる者は、先づ養ひて而る後に之を教ふ。孟子曰く、養ひて教へざるは、之を畜の養ふなり、と。教へに従はざるに迨んで之を刑す。孔子曰く、教へずして殺す、之を虐と謂ふ、と。故に民を治むる者は、養教刑の三者、其の一を闕くべからず。而して其の施為の序も、亦た当に此の如くなるべし。譬へば子を育つるが如く然り。子を育つる者は、先づ之を養ひて而る後に之を教ふ。教へて従はず、然る後に之を撻つ。其の教へに従はんことを求むるなり。苟も教へずして之を撻てば、慈ならずと謂ふべし。民を治むると子を育つると、其の理一なり。
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『商君書』賞刑これ臣の所謂る參教なり。聖人は惟だ能く萬物の要を知るなり、故にその國を治むるや、要を舉げて以て萬物を致す。故に教え寡なくして功多し。聖人の國を治むるや、知り易くして行い難きなり。是の故に聖人は必ずしも加えず、凡主は必ずしも廢せず。人を殺して暴と為さず、人に賞して仁と為さざる者は、國法の明らかなればなり。聖人は功を以て官を授け爵を予う、故に賢者は憂えず。聖人は過ちを宥さず、刑を赦さず、故に姦は起こる無し。聖人の國を治むるや、壹を審らかにするのみ。
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『慎思録』巻之二政を為すの道は、教養の二者、闕くべからず。二者は養を先と為し、教之に次ぐ。是れ先づ養ひて而る後に教ふるなり。舜は先づ后稷をして民に稼穡を教へしめ、五穀熟して民人育す。而る後に契をして司徒と為し、教ふるに人倫を以てせしむ。此れ養ひて而る後に教ふるなり。既に之を養ひ又之を教へて、民従はず。所以に刑有りて其の罪を正し、民をして教へに従はしむるなり。是を以て舜又皐陶に命じ、士と為りて五刑を司らしむ。其の序の紊るべからざること此くの如し。夫れ後世の政にも、亦た刑法有り。既に刑法有れば、則ち復た先づ教へ無かるべからず。孔子曰く、教へずして殺す、之を虐と謂ふ、と。此れ以て聖人の政は、養を先にし中ごろ教へ刑を後にす。蓋し既に養ひ且つ教へて、苟も従はざる者有らば、已むを得ずして刑を用ゐるのみ。
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『君子訓』巻之中一民豊なれば奢りて法に背くといふ人あり。是政を為る道を知らざるなり。民貧しければ盗む心を生ず。民を憐みて衣食乏しからず、困究せしめざるは、盗を止むる基なり。法度を明かにして、民に分限を守らしむれば、豊なれども奢る事なし。如斯にして民其分を踰えて奢り怠り、或は盗する者あらば、罪に行ひて許すべからず。民は愚なる者なれば、まかせ置きては治るべきやうなし。衣食不足なきやうにして、其奢怠を戒め、罪に陥らしめぬは、政をするの道なり。
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『近思録』巻8 治体民の為に君を立つるは、之を養ふ所以なり。民を養ふの道は、其の力を愛するに在り。民力足れば則ち生養遂ぐ。生養遂ぐれば則ち教化行はれて風俗美し。故に政を為すは民力を以て重しと為すなり。春秋凡そ民力を用ふれば必ず書す、其の興作する所、時ならず義を害するは、固より罪と為すなり。時にして且つ義なりと雖も必ず書す、民を労するを重事と為すを見すなり。後の人君此の義を知れば、則ち民力を用ふるを慎重することを知らん。然れども民力を用ふることの大にして書せざる者有り、教の義たること深し。僖公の泮宮を脩め、閟宮を復する、民力を用ひざるに非ざるなり。然り而して書せず。二者は古に復し廃を興すの大事にして、国の先務為り、是くの如くして民力を用ふるは、乃ち当に用ふべき所なり。人君此の義を知れば、政を為すの先後軽重を知らん。身を治め家を斉へて以て天下を平らかにするに至る者は、治の道なり。治綱を建立し、百職を分正す。天時に順ひて以て事を制し、制を創り度を立て、天下の事を尽すに至る者は、治の法なり。聖人の天下を治むるの道は、唯此の二端のみ。明道先生曰く、先王の世は、道を以て天下を治む。後世は只是れ法を以て天下を把持す。政を為すは須らく綱紀文章有るを要すべし。「有司を先にす」、郷官法を読み、価を平らかにし、権衡を謹むは、皆闕くべからざるなり。人各其の親を親しみ、然る後に能く独り其の親を親しまざらん。仲弓曰く、「焉んぞ賢才を知りて之を挙げん。」子曰く、「爾の知る所を挙げよ、爾の知らざる所は、人其れ諸を舎てんや。」便ち仲弓と聖人との心を用ふるの大小を見る。此の義を推せば、則ち一心以て邦を喪すべく、一心以て邦を興すべし。只公私の間に在るのみ。治道も亦本より言ふ有り、亦事より言ふ有り。本より言へば、惟だ君心の非を格すより、「心を正して以て朝廷を正し、朝廷を正して以て百官を正す」。若し事より言へば、救はざれば則ち已む。若し須らく之を救ふべくんば、必ず須らく変ずべし。
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