兵法家伝書 / 活人劔手に心をさゝげて
手に心をさゝげて、いまだ動かぬ所を、はやうてとなり、此心空は目にも見へずして何もなき者也、いはんとすれば、此心空動きぬれば様々の事をなし、手に取足にふみ、色々の妙を盡すも此空此心のうごき出てなす所也、此心をさとり明むる事は、書を見ても、難成事也、説を聞ても難到道也、書出す人も説く人も、いにしへより書出す法様、説く法様を以て書くばかり説くばかりにて、心に心を得道したる人はまれなると也、
新字:手に心をさゝげて、いまだ動かぬ所を、はやうてとなり、此心空は目にも見へずして何もなき者也、いはんとすれば、此心空動きぬれば様々の事をなし、手に取足にふみ、色々の妙を尽すも此空此心のうごき出てなす所也、此心をさとり明むる事は、書を見ても、難成事也、説を聞ても難到道也、書出す人も説く人も、いにしへより書出す法様、説く法様を以て書くばかり説くばかりにて、心に心を得道したる人はまれなると也、
書き下し
手に心をさゝげて、いまだ動かぬ所を、はやうてとなり、此心空は目にも見へずして何もなき者也、いはんとすれば、此心空動きぬれば様々の事をなし、手に取足にふみ、色々の妙を盡すも此空此心のうごき出てなす所也、此心をさとり明むる事は、書を見ても、難成事也、説を聞ても難到道也、書出す人も説く人も、いにしへより書出す法様、説く法様を以て書くばかり説くばかりにて、心に心を得道したる人はまれなると也、
現代語訳
手に心を捧げて、まだ動かないところを、早く打てとのことである。この心の空は、目にも見えず何もないものである。言おうとすれば、この心の空が動き出すと、さまざまのことをなし、手に取り足で踏み、色々の妙を尽くすのも、この空、この心の動き出してなすところである。この心を悟り明らめることは、書を見ても成しがたいことである。説を聞いても到りがたい道である。書き出す人も説く人も、昔から書き出す方法、説く方法でもって書くばかり、説くばかりで、心に心を得て道を得た人はまれである、とのことである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『兵法家伝書』活人劔「空(敵の心を見る)」偖唯一とは空を云なり、空とはかくし言葉也、祕傳すべし、空とは敵の心を云也、心は形もなく色もなくして、空なる故也、空唯一ッを見るとは、敵の心を見よと云義也、佛法とは此心空をさとる事也、心は空なりと說く人もあれど、悟り曉むる人はまれ也となり、
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『兵法家伝書』活人劔「心を見付けて悟る」此心を一度見付てさとり明る事大切也、人ごとに我は心を見ひらきてよく我心をつかひ得たりと云とも、此心をとくと見付たる人はまれ也となり、さとらざるしるしは、其身にあらはるべし、見しらざる者は、よく見しるべし、さとりたらば、一切のするわざ言ふ事其身のおこなひすぐなるべし、すくならずば明らめたる人とはいひがたしと也、
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『兵法家伝書』活人劔「捧心(拳にある心)」又捧心と云は心を捧るとよむ字也、敵の心は、太刀をにぎつたる手にさゝげて居る也、敵のにぎつたる拳のいまだ動ざる所を其まゝうつ也、そのうごくか、うごかぬかの所を見む爲に一去と云也、百病を一去して、空を見はずすなと云也、敵の心が手にある也、手にさゝげて居也、動かぬ所を打を、空をうつと云也、空は動かぬ物也、かたちなければうごかず、空をうつとは、うごかぬ所をはやうてと云義也、
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『兵法家伝書』活人劔「空(虚空と眞空)」空と云事、佛法の眼也、空に虚空と眞空との差別あり、虚はいつはりとよむ、眞はまことゝよむ、しかれば虚空とは、いつわりむなしき空にて、何もなき事の譬へに引なり、眞空とは眞實の空也、即心空也、心はかたちなき事は、虚空のごとくなれども、一心は此身の主人にて、よろづのわざをする事、皆心にあり、其心動てはたらく事心のする所也、心の動かぬは空也、空のうごくは心なり、空がうごいて心と成りて、手足へはたらくなり、太刀をにぎつたる拳のうごかぬ時はやうつ程に空をうてとは云也、捧心と云も、心は目に見へぬ物也、見へぬにより空とも云、うごかぬによつて、空とも云也、太刀をにぎりたる手に、心をさゝげて居れども、めには見へぬ也、
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『兵法家伝書』活人劔「本心と妄心」すぐなる心をば本心と申也、又は道心とも云也、曲汚たる心は妄心と云、人心とも申也、我が本心をさとり得て、其本心に我がなすわざのかなふ人は床しき事なり、此言葉我よく心を得て如此いふにあらず、如斯いふといへども、われも心のすぐにして、すぐなる心にかなふごとくに、身の進退動静する事は難成事なれども、道なればしるす者也、
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『兵法家伝書』活人劔「兵法に必要な得道」しかりと云へども、兵法には、此心まつすぐにして、身足手にかなはざれば、ならざるわざ也、平生の我が身の進退は道にかなはざれども、兵法の道には、此得道なくてはならざる也、よろづの所作に此心はづれず、其道々の上には此心かなへども、よの所へ通じてする事は不成者也、通じてしり通じてなす事をば、通達の人と云也、一能一藝の上に通ずるは、其道々の達者と云也、通達とはいふまじき也、
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