兵法家伝書 / 殺人刀心と身の懸待
一 心と身とに縣待ある事 心をば待に身をば縣にすべし、なぜになれば心縣なれば、はしり過て惡き程に、心をばひかへて、待に持て身を縣にして、敵に先をさせ勝べき也、心が縣なれば、人をまづきらんとして負をとる也、又の儀には心を縣に身を待にとも心得る也、なぜなれば、心は無油斷はたらかして、心を縣にして、太刀をば待にして、人に先をさするの心也、身と云は即太刀を持つ手と心得ればすむ也、然ば心は縣に身は待と云也、兩意なれども極る所は同じ心也、とかく敵に先をさせて勝也
新字:一 心と身とに県待ある事 心をば待に身をば県にすべし、なぜになれば心県なれば、はしり過て悪き程に、心をばひかへて、待に持て身を県にして、敵に先をさせ勝べき也、心が県なれば、人をまづきらんとして負をとる也、又の儀には心を県に身を待にとも心得る也、なぜなれば、心は無油断はたらかして、心を県にして、太刀をば待にして、人に先をさするの心也、身と云は即太刀を持つ手と心得ればすむ也、然ば心は県に身は待と云也、両意なれども極る所は同じ心也、とかく敵に先をさせて勝也
書き下し
一 心と身とに縣待ある事 心をば待に身をば縣にすべし、なぜになれば心縣なれば、はしり過て惡き程に、心をばひかへて、待に持て身を縣にして、敵に先をさせ勝べき也、心が縣なれば、人をまづきらんとして負をとる也、又の儀には心を縣に身を待にとも心得る也、なぜなれば、心は無油斷はたらかして、心を縣にして、太刀をば待にして、人に先をさするの心也、身と云は即太刀を持つ手と心得ればすむ也、然ば心は縣に身は待と云也、兩意なれども極る所は同じ心也、とかく敵に先をさせて勝也
現代語訳
一 心と身とに懸待があること。心を待に、身を懸にすべきである。なぜかというと、心が懸であれば走りすぎて悪いので、心をひかえて待に持ち、身を懸にして、敵に先をさせて勝つべきである。心が懸であれば、人をまず切ろうとして負けを取る。また別の説では、心を懸に、身を待にとも心得る。なぜかというと、心は油断なく働かせて、心を懸にして、太刀を待にして、人に先をさせる心だからである。身というのは、太刀を持つ手と心得ればすむ。そうであれば、心は懸に身は待という。両意はあるが、行き着くところは同じ心である。とにかく敵に先をさせて勝つのである。
解説
この章句が説くこと
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『兵法家伝書』殺人刀「身と太刀の懸待」一 身と太刀とに縣待の道理ある事 身をば敵にちかくふりかけて、縣になして太刀をば待になして、身足手にて敵の先をおびき出して、敵に先をさせて勝也、こゝを以て、身足は縣に、太刀は待也、身足を縣にするは、敵に先をさせむ爲也
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『兵法家伝書』殺人刀「懸待二字の子細」一 縣待二字子細之事 縣とは立あふやいなや、一念にかけてきびしく切てかゝり、先の太刀をいれんとかゝるを縣と云なり、敵の心にありても我心にても縣の心持は同事也 一 待とは卒爾にきつてかゝらずして敵の仕かくる先を待を云也、きびしく用心して居るを待と心得べし、縣待はかゝると待との二ッ也
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『兵法家伝書』殺人刀「打にうたれよ」一 打にうたれよ、うたれて勝ッ心持之事 人を一刀きる事はやすし、人にきられぬ事は成がたき物也、人はきるとおもふて打つけふともまゝよ、身にあたらぬつもりを、とくと合點して、おどろかず、敵にうたるゝ也、敵はあたると思ふてうてども、つもりあれば、あたらぬ也、あたらぬ太刀は死太刀也、そこをこちから越シて打て勝也、敵のする先ははづれて、我返て先の太刀を敵へ入ル也、一太刀打てからは、はや手はあけさせぬ也、打てよりまうかうよとおもふたらば、二の太刀は又敵にかならずうたるべし、爰にて、油斷して負る也、うつた所に心がとまる故、敵にうたれ、先の太刀を、無にする也、打たる所にきれうときれまいとまゝ、心をとゞむな、二重三重猶四重五重も打べき也、敵に顏を揚させぬ也、勝事は一太刀にて定る也
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『兵法家伝書』殺人刀「風水の音(上は靜に下は氣)」一 風水の音をきく事 とにも角にも此道は表裏を本として、様々に序を切かけ、色をしかけて、敵に先手をさせて勝分別ばかり也、立あはぬさきは、敵は懸也と覺悟して、油斷すべからず、下作り專要也、敵懸なりともおもわずして、立相といなや、ほかと急々にきびしく、仕かけられてからは、我平生の習も何の手も出ざる者也、立相てからは、身心足をば懸に、手をば待にする事簡要也、有をよく心にかけて見るべし、有を手にとれと云ならひ是也、如何にもしづかに見ずば、太刀の習も用に立まじきなり、
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『兵法家伝書』殺人刀「大曲・残心・小太刀(四ヶ条)」一 大曲之事 付 序之切かけの事 口傳すべし 一 残心之事 懸待ともに用 口傳すべし 一 小太刀一尺五寸のはづしの事 一 かゝりの時懸待ある事 身を懸に、太刀は待に、心得べし 右いづれも師匠と立あひて習口傳せずば難成條々也、筆にはよくのべがたし
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『兵法家伝書』新陰流外物(進履橋)「人を待って打つ」人待て打心持之事 一 一篇には難定事に候へども、待て打は手前に勇有て敵には弱有心持にて候へば此方より先をかけ打事肝要にて候。君命などをうけ打手にて討物は十度に八九度は打損事稀成物にて候。是もおのづから勇そなはり敵は臆の心有るにより如斯候。放者に候はゞ左右よりの義は所に應じ了簡可有事にて候。
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