兵法家伝書 / 殺人刀打草驚蛇
一 打草驚蛇と禪に云事あり、草の中なるくちなわを、打ておどろかす樣に、人をも一おどろかしおどろかすが手立也、おもひもかけぬ事をしかけて、敵をおどろかすも、表裏也、兵法也、おどろかされて敵が心をとられて手前がぬくる者也、扇を揚て見せ、手をあげて見するも、敵の心をとる也、我が持たる太刀を、ほかとなぐるも、兵法也、無刀を得たらば、太刀に事はかけまい也、人の刀は我刀也、機前の働き也
新字:一 打草驚蛇と禅に云事あり、草の中なるくちなわを、打ておどろかす様に、人をも一おどろかしおどろかすが手立也、おもひもかけぬ事をしかけて、敵をおどろかすも、表裏也、兵法也、おどろかされて敵が心をとられて手前がぬくる者也、扇を揚て見せ、手をあげて見するも、敵の心をとる也、我が持たる太刀を、ほかとなぐるも、兵法也、無刀を得たらば、太刀に事はかけまい也、人の刀は我刀也、機前の働き也
書き下し
一 打草驚蛇と禪に云事あり、草の中なるくちなわを、打ておどろかす樣に、人をも一おどろかしおどろかすが手立也、おもひもかけぬ事をしかけて、敵をおどろかすも、表裏也、兵法也、おどろかされて敵が心をとられて手前がぬくる者也、扇を揚て見せ、手をあげて見するも、敵の心をとる也、我が持たる太刀を、ほかとなぐるも、兵法也、無刀を得たらば、太刀に事はかけまい也、人の刀は我刀也、機前の働き也
現代語訳
一 打草驚蛇と禅にいうことがある。草の中にいる蛇を、草を打って驚かすように、人をも一度驚かし、また驚かすのが手立てである。思いもかけぬことをしかけて敵を驚かすのも、表裏であり、兵法である。驚かされると、敵は心を取られて、手前が抜けるものである。扇を揚げて見せ、手を上げて見せるのも、敵の心を取るのである。自分の持つ太刀をぽいと投げ出すのも、兵法である。無刀を得たならば、太刀に事を欠くことはないであろう。人の刀は我が刀である。これは機前の働きである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『兵法家伝書』殺人刀「打にうたれよ」一 打にうたれよ、うたれて勝ッ心持之事 人を一刀きる事はやすし、人にきられぬ事は成がたき物也、人はきるとおもふて打つけふともまゝよ、身にあたらぬつもりを、とくと合點して、おどろかず、敵にうたるゝ也、敵はあたると思ふてうてども、つもりあれば、あたらぬ也、あたらぬ太刀は死太刀也、そこをこちから越シて打て勝也、敵のする先ははづれて、我返て先の太刀を敵へ入ル也、一太刀打てからは、はや手はあけさせぬ也、打てよりまうかうよとおもふたらば、二の太刀は又敵にかならずうたるべし、爰にて、油斷して負る也、うつた所に心がとまる故、敵にうたれ、先の太刀を、無にする也、打たる所にきれうときれまいとまゝ、心をとゞむな、二重三重猶四重五重も打べき也、敵に顏を揚させぬ也、勝事は一太刀にて定る也
-
『兵法家伝書』殺人刀「表裏は兵法の根本」一 表裏は兵法の根本也、表裏とは略也、僞を以て眞を得也、表裏とはおもひながらも、しかくれば、のらずしてかなはぬ者也、我表裏をしかくれば、敵がのる也、のる者をば、のらせて勝べし、のらぬ者をば、のらぬよと見付る時は、またこちからしかけあり、然らば敵ののらぬものつたに成なり、佛法にては方便と云也、眞實を内にかくして、外にはかりごとをなすも、終に眞實の道に引入る時は僞り皆眞實に成る也、神祇には神祕と云祕して以て人の信仰をおこす也、信ずる時は利生あり、武家には武略と云、略は僞なれども僞を以て人をやぶらずして、勝ときは、僞り終に眞と成也、逆に取て順に治と云是也
-
『兵法家伝書』無刀之卷「無刀は手を道具にする」一 無刀は、人には刀をもたせ、我は手を道具にして、仕相するつもり也、しかれば刀は永く手はみじかし、敵の身ぢかくよりて、きらるゝ程にあらずば、成間敷也、敵の太刀と我が手としあふ分別すべきにや、さあれば、敵の刀は我が身より外へゆきこして、われは敵の太刀の柄の下になりてひらきて、太刀をおそふべき心あてなるべきにや、時にあたつて、一樣にかたまるべからず、いづれも身によりそはずば、とられまじき也
-
『兵法家伝書』殺人刀「風水の音(上は靜に下は氣)」一 風水の音をきく事 とにも角にも此道は表裏を本として、様々に序を切かけ、色をしかけて、敵に先手をさせて勝分別ばかり也、立あはぬさきは、敵は懸也と覺悟して、油斷すべからず、下作り專要也、敵懸なりともおもわずして、立相といなや、ほかと急々にきびしく、仕かけられてからは、我平生の習も何の手も出ざる者也、立相てからは、身心足をば懸に、手をば待にする事簡要也、有をよく心にかけて見るべし、有を手にとれと云ならひ是也、如何にもしづかに見ずば、太刀の習も用に立まじきなり、
-
『兵法家伝書』殺人刀「身と太刀の懸待」一 身と太刀とに縣待の道理ある事 身をば敵にちかくふりかけて、縣になして太刀をば待になして、身足手にて敵の先をおびき出して、敵に先をさせて勝也、こゝを以て、身足は縣に、太刀は待也、身足を縣にするは、敵に先をさせむ爲也
-
『兵法家伝書』殺人刀「章哥の心付」一 章哥の心付之事 まひもうたひも、しやうがしらずしては、はやされまい事也、兵法にも章哥の心持あるべき也、敵の太刀のうごき如何様にあるぞ、何としたるさばきぞと、とくと見すへて、そこをしるが、舞うたひの章哥よく覺えたる心なるべし、敵のはたらき、振舞よくしりたらば、こちの仕かけ自由なるべし
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る