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配所残筆 / 配所殘筆33

拙者儀者保科公へ不奉懸御目候間不奉存候由申上候得者。其方存寄はいかゝと被仰候故。不奉得尊意風聞迄にて。申上候事は必相違多御座候者に候間。難申上奉存候由申上候へ共。達而御尋被成候故私申上候は。風聞迄に而申上候はゞ。御學問之筋乍慮外私共存候とは御相違御座候樣に奉存候由申上候得者。被仰候には。此方も左樣に被思召候との御事に御座候。次に京都之所司代者誰を差候哉と被仰候故。拙者は不承候由申上候へば。石谷市右衞門殿永井伊賀守殿を指候由御申候。私申上候者。永井公者御年若に被成御座候旨申上候へば。被仰候者。年之老若には寄申間敷候。營量次第の事にて可有之由被仰候。次に世間如何樣に風聞候哉を御尋被成候間。私申上候者。世上之風聞一圓不承候。風聞者指而益も無御座御事かと申上候者。御歴々樣方にさへ賢人君子は少く御座候。然者下々には能者は大方無御座候。若能者御座候へ者。風聞など申候事も御座候間敷。有風聞者大方御大名衆へ御出入仕候輕町人風情世上に賢き者之申候事に御座候と申上候得ば。其世上に賢き者申候事にて能候由被仰候間。私申上候者。乍恐左樣の者不奉存候。世間にかしこき者は御時代之勢ひを能務申候間。上々樣の能々思召候者を能く申。御にくみ被成候者をば惡申候。少も委申候者をばさゝへ候而。我身之立候樣に取廻し候。人之事も能樣に申候而。實者そしり惡申候。如斯者の申候御事御許容被遊候御事は大事の儀に奉存候由申上候得者。古より堯舜も賤き者に事を尋られしと有之と被仰候故。私申上候者。

新字:拙者儀者保科公へ不奉懸御目候間不奉存候由申上候得者。其方存寄はいかゝと被仰候故。不奉得尊意風聞迄にて。申上候事は必相違多御座候者に候間。難申上奉存候由申上候へ共。達而御尋被成候故私申上候は。風聞迄に而申上候はゞ。御学問之筋乍慮外私共存候とは御相違御座候様に奉存候由申上候得者。被仰候には。此方も左様に被思召候との御事に御座候。次に京都之所司代者誰を差候哉と被仰候故。拙者は不承候由申上候へば。石谷市右衛門殿永井伊賀守殿を指候由御申候。私申上候者。永井公者御年若に被成御座候旨申上候へば。被仰候者。年之老若には寄申間敷候。営量次第の事にて可有之由被仰候。次に世間如何様に風聞候哉を御尋被成候間。私申上候者。世上之風聞一円不承候。風聞者指而益も無御座御事かと申上候者。御歴々様方にさへ賢人君子は少く御座候。然者下々には能者は大方無御座候。若能者御座候へ者。風聞など申候事も御座候間敷。有風聞者大方御大名衆へ御出入仕候軽町人風情世上に賢き者之申候事に御座候と申上候得ば。其世上に賢き者申候事にて能候由被仰候間。私申上候者。乍恐左様の者不奉存候。世間にかしこき者は御時代之勢ひを能務申候間。上々様の能々思召候者を能く申。御にくみ被成候者をば悪申候。少も委申候者をばさゝへ候而。我身之立候様に取廻し候。人之事も能様に申候而。実者そしり悪申候。如斯者の申候御事御許容被遊候御事は大事の儀に奉存候由申上候得者。古より堯舜も賤き者に事を尋られしと有之と被仰候故。私申上候者。

書き下し

拙者儀者保科公へ不奉懸御目候間不奉存候由申上候得者。其方存寄はいかゝと被仰候故。不奉得尊意風聞迄にて。申上候事は必相違多御座候者に候間。難申上奉存候由申上候へ共。達而御尋被成候故私申上候は。風聞迄に而申上候はゞ。御學問之筋乍慮外私共存候とは御相違御座候樣に奉存候由申上候得者。被仰候には。此方も左樣に被思召候との御事に御座候。次に京都之所司代者誰を差候哉と被仰候故。拙者は不承候由申上候へば。石谷市右衞門殿永井伊賀守殿を指候由御申候。私申上候者。永井公者御年若に被成御座候旨申上候へば。被仰候者。年之老若には寄申間敷候。營量次第の事にて可有之由被仰候。次に世間如何樣に風聞候哉を御尋被成候間。私申上候者。世上之風聞一圓不承候。風聞者指而益も無御座御事かと申上候者。御歴々樣方にさへ賢人君子は少く御座候。然者下々には能者は大方無御座候。若能者御座候へ者。風聞など申候事も御座候間敷。有風聞者大方御大名衆へ御出入仕候輕町人風情世上に賢き者之申候事に御座候と申上候得ば。其世上に賢き者申候事にて能候由被仰候間。私申上候者。乍恐左樣の者不奉存候。世間にかしこき者は御時代之勢ひを能務申候間。上々樣の能々思召候者を能く申。御にくみ被成候者をば惡申候。少も委申候者をばさゝへ候而。我身之立候樣に取廻し候。人之事も能樣に申候而。實者そしり惡申候。如斯者の申候御事御許容被遊候御事は大事の儀に奉存候由申上候得者。古より堯舜も賤き者に事を尋られしと有之と被仰候故。私申上候者。

現代語訳

拙者は保科公にお目にかかっておりませんので存じませんと申し上げましたところ、「その方の考えはどうか」と仰せになりました。お目にかかっておらず、風聞だけのことで申し上げますと、必ず間違いが多うございますので、申し上げにくいと存じますと申し上げましたが、重ねてお尋ねになりましたので、私が申し上げたのは、風聞だけで申しますなら、ご学問の筋は、恐れながら私どもが存じていることとは、相違があるように存じます、ということでした。仰せには、「こちらもそう思っている」とのことでした。次に、「京都の所司代には誰を差し向けるか」と仰せになりましたので、拙者は存じません、と申し上げますと、石谷市右衛門殿、永井伊賀守殿を差し向けるとおっしゃいました。私が、永井公はお若くておいでだと申し上げますと、「年の老若によるまい。力量次第のことであろう」と仰せになりました。次に、世間ではどのように風聞しているかをお尋ねになりましたので、私が申し上げたのは、世上の風聞は、まったく承っておりません。風聞は、さして益もないことかと存じます。御歴々の方々にさえ、賢人君子は少のうございます。そうであれば、下々には、優れた者は大方おりません。もし優れた者がおりましたら、風聞などと申すことはございますまい。風聞があるのは、大方、大名衆へ出入りする軽い町人風情が、世上で賢い者として申すことでございます、と申し上げますと、「その世上の賢い者が申すことで、よいのだ」と仰せになりましたので、私が申し上げたのは、恐れながら、そのような者は存じません。世間で賢い者は、時代の勢いをよく勤め、上々様がよく思し召す者はよく言い、お憎みになる者は悪く言います。少しでも詳しい者があれば、それを押さえて、我が身が立つように取り回します。人のことも、よいように言って、実はそしり悪く言います。このような者が申すことをお許しになりますのは、大事なことと存じます、と申し上げましたところ、「古より、堯舜も賤しい者に事を尋ねられたとある」と仰せになりましたので、私が申し上げたのは、

解説

板倉公との対話が続きます。保科肥後守の学問を問われても、会ったこともないので風聞にすぎず、必ず誤りが多いと言いつつ、重ねて求められて意見を述べます。京都所司代の人選で若さを指摘すると、年の老若でなく力量次第と返されます。世間の風聞を問われた素行は、賢人君子は上にさえ少なく、風聞を語るのは大名に出入りする軽い町人の類で、時の勢いに乗り、上の好む者をほめ、憎む者をそしるのだと手厳しく述べます。耳に心地よい情報ばかりが上に届く構造を、権力者に面と向かって指摘する場面です。現代の経営者や管理職にとっても、誰の声を聞いているかを見直す手がかりになります。

この章句が説くこと

風聞情報諫言力量所司代配所残筆

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