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配所残筆 / 配所殘筆16

津輕殿門前にて存出し、明日參上仕間敷候由使を寄申候て、北條殿へ參候、門前に人馬多相見へ候、只今何方へか打立ん樣子に御坐候、此躰拙者若不參候はゞ、則拙宅へ押寄御踏つぶし可有之樣子と相見へ申候、私事は刀を下人に渡、座敷へ上り申候て、笑ながら申候者、如何樣之事候哉、(御門前殊外人多御坐候由申候て、)奥へ通り候、暫候而北條殿被出候て逢申候、北條殿被申候者、不入書物作り候故淺野内匠頭所へ御預被成候、是より直に彼地へ可參候間、何にても宿へ用向にても候はゞ可申遣と、別而念頃に被申候、福島傳兵衞硯を持て拙者傍へ參、申遣度事は傳兵衞可申次候由申候間、私北條殿へ向申候は、忝奉存候、乍然常々家を出候より跡に心に殘候事は無之樣に勤罷仕候間、書置可申候事も無御座候由申候、其内に島田藤十郎殿御出候間、北條殿も座敷へ御列坐にて、私被召出候間、脇指をぬき罷出候へ者、北條殿島田殿互に御式臺にて、北條殿被仰渡候は、其方事不屆成書物仕候間、淺野内匠頭へ御預被成候旨、御老中被仰渡候由に候、私事申上候者、先以御意之趣畏奉存候、乍然對御公儀樣不屆成義者、右之書物之内何之所にて御坐候哉、承度義存候と申上候得ば、房州御事藤十郎殿へ御迎にて、

新字:津軽殿門前にて存出し、明日参上仕間敷候由使を寄申候て、北条殿へ参候、門前に人馬多相見へ候、只今何方へか打立ん様子に御坐候、此体拙者若不参候はゞ、則拙宅へ押寄御踏つぶし可有之様子と相見へ申候、私事は刀を下人に渡、座敷へ上り申候て、笑ながら申候者、如何様之事候哉、(御門前殊外人多御坐候由申候て、)奥へ通り候、暫候而北条殿被出候て逢申候、北条殿被申候者、不入書物作り候故浅野内匠頭所へ御預被成候、是より直に彼地へ可参候間、何にても宿へ用向にても候はゞ可申遣と、別而念頃に被申候、福島伝兵衛硯を持て拙者傍へ参、申遣度事は伝兵衛可申次候由申候間、私北条殿へ向申候は、忝奉存候、乍然常々家を出候より跡に心に残候事は無之様に勤罷仕候間、書置可申候事も無御座候由申候、其内に島田藤十郎殿御出候間、北条殿も座敷へ御列坐にて、私被召出候間、脇指をぬき罷出候へ者、北条殿島田殿互に御式台にて、北条殿被仰渡候は、其方事不届成書物仕候間、浅野内匠頭へ御預被成候旨、御老中被仰渡候由に候、私事申上候者、先以御意之趣畏奉存候、乍然対御公儀様不届成義者、右之書物之内何之所にて御坐候哉、承度義存候と申上候得ば、房州御事藤十郎殿へ御迎にて、

書き下し

津輕殿門前にて存出し、明日參上仕間敷候由使を寄申候て、北條殿へ參候、門前に人馬多相見へ候、只今何方へか打立ん樣子に御坐候、此躰拙者若不參候はゞ、則拙宅へ押寄御踏つぶし可有之樣子と相見へ申候、私事は刀を下人に渡、座敷へ上り申候て、笑ながら申候者、如何樣之事候哉、(御門前殊外人多御坐候由申候て、)奥へ通り候、暫候而北條殿被出候て逢申候、北條殿被申候者、不入書物作り候故淺野内匠頭所へ御預被成候、是より直に彼地へ可參候間、何にても宿へ用向にても候はゞ可申遣と、別而念頃に被申候、福島傳兵衞硯を持て拙者傍へ參、申遣度事は傳兵衞可申次候由申候間、私北條殿へ向申候は、忝奉存候、乍然常々家を出候より跡に心に殘候事は無之樣に勤罷仕候間、書置可申候事も無御座候由申候、其内に島田藤十郎殿御出候間、北條殿も座敷へ御列坐にて、私被召出候間、脇指をぬき罷出候へ者、北條殿島田殿互に御式臺にて、北條殿被仰渡候は、其方事不屆成書物仕候間、淺野内匠頭へ御預被成候旨、御老中被仰渡候由に候、私事申上候者、先以御意之趣畏奉存候、乍然對御公儀樣不屆成義者、右之書物之内何之所にて御坐候哉、承度義存候と申上候得ば、房州御事藤十郎殿へ御迎にて、

現代語訳

津軽殿の門前で思い出し、明日は参上できない旨を使いに届けさせて、北條殿のもとへ参りました。門前には人馬が多く見え、今にもどこかへ出立する様子でした。この様子では、もし私が参らなければ、すぐに私の宅へ押し寄せて踏みつぶすつもりと見えました。私は刀を下人に渡し、座敷に上がって、笑いながら、どういうことでしょうか、門前に殊のほか人が多いようですが、と申して、奥へ通りました。しばらくして北條殿が出てきて会いました。北條殿が言うには、不要な書物を作ったので、浅野内匠頭のところへお預けになった、ここから直ちに彼の地へ行くので、宿へでも用向きがあれば言い遣わしなさい、と特に丁寧に言われました。福島伝兵衛が硯を持って私のそばに来て、申し遣わしたいことは伝兵衛が取り次ぎます、と言うので、私は北條殿に向かって、ありがたく存じます、ただ、いつも家を出た後に心に残ることのないよう務めておりますので、書き置くことも特にございません、と申しました。そのうちに島田藤十郎殿が来られ、北條殿も座敷に列座して、私が召し出されたので、脇差を外して罷り出ると、北條殿と島田殿が互いに式台に出て、北條殿が仰せ渡されたのは、其方は不届きな書物を作ったので、浅野内匠頭へお預けとするとの旨を、御老中が仰せ渡されたということでした。私は、まず御意の趣は承知いたしました、ただ、公儀に対して不届きなことが、その書物の内のどこにございますか、うかがいたく存じます、と申し上げると、房州殿は藤十郎殿に向かって、

解説

この段は、呼び出された当日、門前の物々しさの中で、素行が刀を預け、笑いながら奥へ通った場面から、配流の申し渡しまでを描いています。素行は、家を出るたびに心に残すことのないよう務めているから書き置くことはない、と答えます。そのうえで、不届きとされる箇所がどこにあるかを申し上げたいと問い、自分の書への確信を示します。ここでの笑いは、虚勢というより、備えができている者の落ち着きとして書かれています。文は房州の発言を引く途中で次の段へ続きます。現代でも、処分や左遷の通告を受ける場面で、感情的にならず、納得できない点だけを事実に即して問う姿勢は、職場の対話の手本になります。

この章句が説くこと

配流落ち着き申し渡し確信問い返し配所残筆

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