五常訓 / 巻之五・智
一不知の人は、義理を辨へざるのみにあらず、又利害損得をも知らずして、我が身の禍となる事をかへりみず、利をむさぼり、僻事をなして、家を利し、身を立てんとして、却て身を亡し、家を破るにいたる。かなしむべし。是我が身の惡を止めずして、天のせめを待つといふべし。我が身を利せんとて、惡しき事を行ひ、人を苦めて、我が身一人をたのしむ。是皆我が身の害となる事を知らず。愚なるのいたりなり。智者は心明かにして、人の憂苦みをよく知る。愚者は、心昧くして、我が身の外、人の憂苦みを知らず。いたりて愚なれば、我が身の外、父母兄弟の憂くるしみをだに知らで、不孝不弟を行ふ。
新字:一不知の人は、義理を弁へざるのみにあらず、又利害損得をも知らずして、我が身の禍となる事をかへりみず、利をむさぼり、僻事をなして、家を利し、身を立てんとして、却て身を亡し、家を破るにいたる。かなしむべし。是我が身の悪を止めずして、天のせめを待つといふべし。我が身を利せんとて、悪しき事を行ひ、人を苦めて、我が身一人をたのしむ。是皆我が身の害となる事を知らず。愚なるのいたりなり。智者は心明かにして、人の憂苦みをよく知る。愚者は、心昧くして、我が身の外、人の憂苦みを知らず。いたりて愚なれば、我が身の外、父母兄弟の憂くるしみをだに知らで、不孝不弟を行ふ。
書き下し
一不知の人は、義理を弁へざるのみにあらず、又利害損得をも知らずして、我が身の禍となる事をかへりみず、利をむさぼり、僻事をなして、家を利し、身を立てんとして、却て身を亡し、家を破るにいたる。かなしむべし。是我が身の悪を止めずして、天のせめを待つといふべし。我が身を利せんとて、悪しき事を行ひ、人を苦めて、我が身一人をたのしむ。是皆我が身の害となる事を知らず。愚なるのいたりなり。智者は心明かにして、人の憂苦みをよく知る。愚者は、心昧くして、我が身の外、人の憂苦みを知らず。いたりて愚なれば、我が身の外、父母兄弟の憂くるしみをだに知らで、不孝不弟を行ふ。
現代語訳
知のない人は、義理をわきまえないだけではなく、利害損得も知らないので、自分の身の災いとなることを顧みず、利をむさぼり、ひがごとをして家を利し身を立てようとして、かえって身を亡ぼし家を破るに至ります。悲しむべきです。これは自分の悪を止めずに、天の責めを待つというべきです。自分の身を利そうとして悪いことを行い、人を苦しめて自分一人が楽しむ。これは皆、自分の身の害となることを知らないのです。愚かさの極みです。智者は心が明らかで、人の憂いや苦しみをよく知ります。愚者は心が暗くて、自分の身のほかの人の憂いや苦しみを知りません。はなはだ愚かになると、自分の身のほかには父母兄弟の憂いや苦しみさえ知らず、不孝不弟を行います。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『墨子』經說上平。惔然たり。利。是を得て喜べば、則ち是れ利なり。其の害は、是に非ざるなり。害。是を得て惡めば、則ち是れ害なり。其の利は、是に非ざるなり。治。吾が事、治まれり。人に南北を治むる有り。譽む。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。人をして之を督せしむ。誹る。必ず其の行いなり、其の言の忻ぶなり。譽むるに文名を以て告ぐるは、彼の實を舉ぐるなり。故。言なる者は、諸れ口能く之を出だして民するものなり。民は畫俿の若きなり。言や言と謂う、猶お名の致すがごときなり。且。前よりするを且と曰い、後よりするを己と曰う。方に然らんとするも亦た且なり。名の若き者は、君なり、若の名を以てする者なり。功は時を待たず、衣裘の若し。功は時を待たず、衣裘の若し。賞。罪は禁に在らず、惟だ害あれば罪無きも殆く姑し。上、下の功に報ゆるなり。
-
『呻吟語』内篇・修身・利に處して利を讓り、名に處して名を讓る利に處すれば則ち人をして君子を做さしめ、我は小人を做す。名に處すれば則ち人をして小人を做さしめ、我は君子を做す。斯れ惑ひの甚だしきなり。聖賢は利に處して利を讓り、名に處して名を讓る。故に淡然恬然として、世と忤らず。
-
孫子・九地篇利に合いて動き、利に合わずして止まる。
-
『韓非子』詭使第四十五聖人の治道を為す所以の者は三つ。一に曰く「利」、二に曰く「威」、三に曰く「名」。夫れ利なる者は、民を得る所以なり。威なる者は、令を行ふ所以なり。名なる者は、上下の同じく道とする所なり。
-
『呻吟語』内篇・存心・大利も小義に換へず大利も小義に換へず、況んや小利を以て大義を壞るをや。貪る者は以て戒む可し。
-
『呻吟語』外篇・人情・禍は不意の中に防ぐ利は餘り無き處に算へ、禍は不意の中に防ぐ。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る