五常訓 / 巻之四・礼
一朝は早くおきて、事をつとむべし。古語に、一日の計は朝にありといへり。朝よりおこたれば、一日のつとめ捗ゆかず。故に朝おくる事の遲速を見て、其人の家の、興ると衰ふるとを知るべしと、古人もいへり。夜も學問家業をつとむべし。夜氣は靜なる故、事功尤はかゆくものなり。つとめて止まず、君子の人にまさるゆゑんなり。おこたりて務めず、衆人の君子に及ばざるゆゑんなり。士のみならず、農工商も同じ。よくつとめて、怠らざるは、必家をおこす。或人うたがふ、君子如此に、つとに起き、夜半にいねて、おこたらずんば、おそらくは精力つかれて、養生の道にあらじと云ふ。答へて曰、しからず。禮記曰、君子莊敬なれば日につよく、安肆なれば日におこたる。いふ意は、行正しく、つゝしみありて勤むれば、精力日々につよくなる。是血氣めぐりて、陽氣發生する故、病生ぜず。身を安く、わがまゝにして、つとめざれば、日々に怠りて、弱くなる。是血氣ふさがりて滯り、元氣めぐらずして、養生の道にたがへばなり。
新字:一朝は早くおきて、事をつとむべし。古語に、一日の計は朝にありといへり。朝よりおこたれば、一日のつとめ捗ゆかず。故に朝おくる事の遅速を見て、其人の家の、興ると衰ふるとを知るべしと、古人もいへり。夜も学問家業をつとむべし。夜気は静なる故、事功尤はかゆくものなり。つとめて止まず、君子の人にまさるゆゑんなり。おこたりて務めず、衆人の君子に及ばざるゆゑんなり。士のみならず、農工商も同じ。よくつとめて、怠らざるは、必家をおこす。或人うたがふ、君子如此に、つとに起き、夜半にいねて、おこたらずんば、おそらくは精力つかれて、養生の道にあらじと云ふ。答へて曰、しからず。礼記曰、君子荘敬なれば日につよく、安肆なれば日におこたる。いふ意は、行正しく、つゝしみありて勤むれば、精力日々につよくなる。是血気めぐりて、陽気発生する故、病生ぜず。身を安く、わがまゝにして、つとめざれば、日々に怠りて、弱くなる。是血気ふさがりて滞り、元気めぐらずして、養生の道にたがへばなり。
書き下し
一朝は早くおきて、事をつとむべし。古語に、一日の計は朝にありといへり。朝よりおこたれば、一日のつとめ捗ゆかず。故に朝おくる事の遅速を見て、其人の家の、興ると衰ふるとを知るべしと、古人もいへり。夜も学問家業をつとむべし。夜気は静なる故、事功尤はかゆくものなり。つとめて止まず、君子の人にまさるゆゑんなり。おこたりて務めず、衆人の君子に及ばざるゆゑんなり。士のみならず、農工商も同じ。よくつとめて、怠らざるは、必家をおこす。或人うたがふ、君子如此に、つとに起き、夜半にいねて、おこたらずんば、おそらくは精力つかれて、養生の道にあらじと云ふ。答へて曰、しからず。礼記曰く、君子荘敬なれば日につよく、安肆なれば日におこたる。いふ意は、行正しく、つつしみありて勤むれば、精力日々につよくなる。是血気めぐりて、陽気発生する故、病生ぜず。身を安く、わがままにして、つとめざれば、日々に怠りて、弱くなる。是血気ふさがりて滞り、元気めぐらずして、養生の道にたがへばなり。
現代語訳
朝は早く起きて、事を務めるべきです。古語に「一日の計は朝にある」といいます。朝から怠れば、一日の務めがはかどりません。ゆえに朝起きることの遅い早いを見て、その人の家が興るか衰えるかを知ることができると、古人もいいました。夜も学問や家業を務めるべきです。夜の気は静かなので、事の成果が最もはかどるものです。務めてやまないのが、君子が人にまさる理由です。怠って務めないのが、普通の人が君子に及ばない理由です。武士だけでなく、農工商も同じです。よく務めて怠らない者は、必ず家を興します。ある人が疑って「君子がこのように朝早く起き、夜半に寝て、怠らなければ、おそらく精力が疲れて、養生の道ではないだろう」といいます。答えていうと、そうではありません。『礼記』に「君子は荘敬であれば日に強くなり、安逸にふければ日に怠る」とあります。その意味は、行いが正しく、慎みがあって勤めれば、精力は日々に強くなるということです。これは血気がめぐって陽気が発生するので、病が生じないのです。身を安楽にし、わがままにして務めなければ、日々に怠って弱くなります。これは血気がふさがって滞り、元気がめぐらずに、養生の道にたがうからです。
解説
この章句が説くこと
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『大和俗訓』巻之七・躬行下一古人は、人の朝早く起くると、おそく起くるとを以て、家の興廃を知るといへり。朝早く起くるは、家の栄ゆるしるしなり。遅く起くるは、家の衰ふる基なり。朝つとにおきて事を勉むるを以て、身の習はしとし、家のつとめの則とし、見習はしむべし。凡の人を見るに、朝居しては学ぶことならず。家業怠りて、富めるもの稀なり。朝居するは怠のはじめ、貧窮のもとゐなり。よく事をつとむる者は、一日を以て十日とす。つとめて怠なく、鋭なれば捗ゆく故なり。おこたる者は、十日を以て一日とす。日数多く経るといへど捗ゆかず。凡善をつとめて怠らざるを良士とす。必家をおこす。家業をつとめて怠らざるを良民とす。必富む。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、つとむべき事をよくつとめて、身をうごかし、気をめぐらすをよしとす。つとむべき事をつとめずして、臥す事を好み、身をやすめおこたりて動かさざるは、甚養生に害あり。久しく安坐し、身を動さざれば、元気めぐらず、食気とどこほりて病おこる。殊に臥す事を好み、ねぶり多きを忌む。食後には必ず数百歩歩行して、気をめぐらし、食を消すべし。ねぶり臥すべからず。父母につかへて力をつくし、君につかへてまめやかにつとめ、朝は早くおき、夕はおそく寝ね、四民ともに我が家事をよくつとめておこたらず。士となれる人は、いとけなき時より、書をよみ、手を習ひ、礼楽をまなび、弓を射、馬にのり、武芸をならひて、身をうごかすべし。
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『初学訓』巻之四一勤は、万事の立ちて行はるる所なり。勤めざれば、おこたりて、何事も廃る。五倫の道も、勤にあらざれば行はれず。中につきて、忠孝の道をつとむるは、人道の大節なり。四民ともに、夙にはやく起き、夜におそく寝ねて、其家業をよく勤むれば、各その業をさまる。士は、君につかへて身をかへりみず、私なくして誠をつとむべし。此の如くなれば、禄は求めずして、其中にあり。農工商は、家の業をよく勤めつつ慎みて、偽なければ、財を得て貧しからず。古語に、人生は勤にあり、つとむれば則ち匱しからず、と言へるが如し。
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『家道訓』巻之一・総論上一毎日つとに起きて、手と面をあらひ、まづ父母の気色をうかがひ、飲食のこのみを問ひてととのへすすめ、其もとめあるを聞きて、つとめ行ひて、父母の心にかなふべし。子弟に、其の日の務むべき課程をさづけをしへ、奴婢に、其の日の所作を云ひつけ、おこたりなからしめ、外事あらば使を命じ、人の附託あらば滞なく整ふべし。朝は早くおき、門戸を早く開かせ、家内の塵をはらひ、門の内外庭中を掃除して、皆いさぎよくすべし。朝おそく起くるは家のおとろへとなる。いましむべし。古人、家の盛衰は、朝おくることの遅速を以て試むべしと云ひし、むべなるかな。
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『養生訓』巻第二・総論下一飲食は身を養ひ、ねぶり臥すは気を養ふ。しかれども、飲食節に過ぐれば脾胃をそこなふ。ねぶり臥す事時ならざれば元気をそこなふ。此二は、身を養はんとして、かへつて身をそこなふ。よく生を養ふ人は、つとに起きよはに寝ねて、昼いねず、常にわざをつとめて怠らず、ねぶり臥す事をすくなくして神気をいさぎよくし、飲食をすくなくして腹中を清虚にす。かくのごとくなれば、元気よくめぐり、ふさがらずして病生ぜず。発生の気其養を得て、血気おのづからさかんにして病なし。是寝食の二の節に当れるは、また養生の要なり。
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