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五常訓 / 巻之四・礼

一禮記云、禮樂不可斯須去身。君子の道、禮樂の二を以て、身ををさめ、人を敎ふ。禮は心の恭敬を本として、萬事身の行の上に節文あるを云ふ。樂とは心の和樂を本として、昔聖人の作りたまへる歌舞八音の音樂の文あるを云ふ。音樂は心の和をみちびくそなへなり。後代の淫樂の心をとらかすとは、大に同じからず。禮を以て身をつつしみ修め、樂を以て心をやはらげ樂む。此二の事、しばらくも身を離るべからずとなり。是古の敎の法なり。後代には、禮樂の敎傳らず。されど、心のつゝしみと樂とは、今とても、しばらく忘るべからず。つゝしみ樂の二は、互にならび行はれて、相そむかざるべし。禮勝てば、かた過ぎて、人と我との間和せず。樂勝てば、和か過ぎて、禮儀をうしなひて、惡しき方にながる。禮樂二ながらそなはりて、よき程の中道行はる。故に論語に、禮の用は和を貴しとすと云ふ。又曰、有所不行、禮以節すと云ふ。是禮樂の二を以て、身ををさめ、事を行ふ、よき程の道あるを云ふ。

新字:一礼記云、礼楽不可斯須去身。君子の道、礼楽の二を以て、身ををさめ、人を教ふ。礼は心の恭敬を本として、万事身の行の上に節文あるを云ふ。楽とは心の和楽を本として、昔聖人の作りたまへる歌舞八音の音楽の文あるを云ふ。音楽は心の和をみちびくそなへなり。後代の淫楽の心をとらかすとは、大に同じからず。礼を以て身をつつしみ修め、楽を以て心をやはらげ楽む。此二の事、しばらくも身を離るべからずとなり。是古の教の法なり。後代には、礼楽の教伝らず。されど、心のつゝしみと楽とは、今とても、しばらく忘るべからず。つゝしみ楽の二は、互にならび行はれて、相そむかざるべし。礼勝てば、かた過ぎて、人と我との間和せず。楽勝てば、和か過ぎて、礼儀をうしなひて、悪しき方にながる。礼楽二ながらそなはりて、よき程の中道行はる。故に論語に、礼の用は和を貴しとすと云ふ。又曰、有所不行、礼以節すと云ふ。是礼楽の二を以て、身ををさめ、事を行ふ、よき程の道あるを云ふ。

書き下し

一礼記に云く、礼楽は斯須も身を去るべからず。君子の道、礼楽の二を以て、身ををさめ、人を教ふ。礼は心の恭敬を本として、万事身の行の上に節文あるを云ふ。楽とは心の和楽を本として、昔聖人の作りたまへる歌舞八音の音楽の文あるを云ふ。音楽は心の和をみちびくそなへなり。後代の淫楽の心をとらかすとは、大に同じからず。礼を以て身をつつしみ修め、楽を以て心をやはらげ楽む。此二の事、しばらくも身を離るべからずとなり。是古の教の法なり。後代には、礼楽の教伝らず。されど、心のつつしみと楽とは、今とても、しばらく忘るべからず。つつしみ楽の二は、互にならび行はれて、相そむかざるべし。礼勝てば、かた過ぎて、人と我との間和せず。楽勝てば、和か過ぎて、礼儀をうしなひて、悪しき方にながる。礼楽二ながらそなはりて、よき程の中道行はる。故に論語に、礼の用は和を貴しとすと云ふ。又曰く、行はれざる所有り、礼以て節すと云ふ。是礼楽の二を以て、身ををさめ、事を行ふ、よき程の道あるを云ふ。

現代語訳

『礼記』に「礼楽はしばらくも身から離してはならない」とあります。君子の道は、礼と楽の二つによって身を修め、人を教えます。礼は心の恭敬を本として、あらゆる身の行いの上に節文があることをいいます。楽とは心の和楽を本として、昔の聖人が作られた歌舞や八音の音楽の文があることをいいます。音楽は心の和を導く備えです。後世の、心をとろかす淫らな音楽とは大いに異なります。礼によって身を慎み修め、楽によって心を和らげ楽しみます。この二つのことは、しばらくも身から離してはならないというのです。これは昔の教えの法です。後世には礼楽の教えは伝わっていません。けれども心の慎みと楽しみとは、今でもしばらくも忘れてはなりません。慎みと楽しみの二つは、互いに並び行われて、背き合わないはずです。礼が勝てば堅くなりすぎて、人と自分の間が和しません。楽が勝てば和らぎすぎて、礼儀を失い、悪い方に流れます。礼楽が二つとも備わって、ちょうどよい中道が行われます。ゆえに『論語』に「礼の用は和を貴いとする」といいます。また「行われないところがある、礼によって節度づける」といいます。これは礼楽の二つによって身を修め、事を行う、ちょうどよい道があることをいいます。

解説

『礼記』楽記篇の「礼楽は斯須も身を去るべからず」を引き、礼で身を慎み、楽で心を和らげることの両方が必要だと説いています。礼が勝ちすぎると堅苦しく人と和せず、楽が勝ちすぎると節度を失うという対比は、『論語』学而篇の「礼の用は和を貴しと為す」にもとづきます。古代の礼楽は失われたが、心の慎みと楽しみは今でも忘れてはならないという指摘には、『楽訓』で楽しむことの大切さを説いた益軒の考えが表れています。規律とゆとりの釣り合いは、組織づくりにも大切な視点です。

この章句が説くこと

礼楽和論語礼記

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